あずみ君は今日も不機嫌

富井

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緑山 災難続き

もらい火

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「そうだ、規夫、明日は一日ここにいてくれるのだろ。」

「はい、次のアパートが見つかるまでここにいるつもりです。」

「だったら明日、鯖が届くから受け取っておいてくれ。」

「鯖ですか・・・」

「ああ、いただきものだ。
明日、鈴木さんがお休みだから、君が受け取って何とか冷蔵庫に収めておいてくれ。
あずみにやらせて、冷蔵庫が気の毒な状態になることは目に見えている。」

「わかりました。その鯖、僕が少し貰っていいですか?」

「構わないが・・・鯖をどうするつもりだい?」

「山波に鯖の味噌煮を作ってあげたいんです。何度も挑戦しているんですけど、全然うまく作れなくて…
でも、明日の鯖ならうまく作れる気がする。だから2,3匹もらっていい?」

「何匹でも構わないが、作るのは君と山波の分だけにしなさい。」

「なぜですか、鈴木さんもお休みなだし、せっかくだからみんなの分も僕が作るよ。」

「いや、君らの味覚はすでに愛に支配されている。愛があるからこそ理解できる味、味の向こうにある味が理解できるかもしれない。舌で味合わなくとも心で、脳で理解できるかもしれない。
しかしながら私は、まだ経験不足でその愛で補える味というものがまだわからないんだ・・・」

「教授・・・すっごくわかりづらいのですが、遠回しにまずいものを食わせるなと言っていますか?」

「いえ、まずいものを作るな、と言っています。」

「そうですか。では、教授だけは明日、弁当を買って帰って来てください。」

「そうします。」

緑山は滅多には怒らない。

もちろん、如月も滅多には怒らない。

怒らないのではなくて、怒ったことが判りづらいだけで、「結構キテルナ」という感じはあずみにはヒシヒシと伝わって来た。とにかく、二人を引き離さなければまずい、(この後、自分へのお説教が長くなる)と思い、緑山と山波を風呂に入らせた。


「お兄様、規夫君のご馳走をたまには食べてあげたらどうですか。頑張っていますよ。」

「人には向き不向きがある。規夫には食のセンスがない。」

「それでもとても頑張っています。だからたまには規夫君の手料理を山波さんのように絶賛して差し上げたらいかがですか?ほめれば伸びるタイプかも。」

「伸びない。今となってはただただ山波の健康を願うしかないよ。」

「そんな一刀両断しては規夫君が気の毒です。」

「山波がここにいる間に、ここで鈴木さんの食事を食べさせ、(ああ、なんておいしいんだ、鈴木さんのご飯が毎日食べたい。できれば、毎日食べたい)と思い、山波がもう一度離れに住んで、助教授としてもカムバックしてくれる。そうなることを願って・・・いやきっとそうなると信じて・・・」

「餌付けですね。」

「そんな品のない言葉は使わないように。」

「では、何と?」

「鈴木さんの作るご飯は規夫のよりもおいしいよ作戦。略して、SGO作戦だ。」

「あ、そうですか・・・一日も早く作戦成功することをお祈りしています。」

「ああ。君もわかっていると思うが、作戦の内容は二人には秘密だ。
秘密保持できないものは抹殺する。いいね。」

「御意!」

「私は書斎で本を読んでいるから、君は風呂から上がったらすぐ来なさい。いいね。」

「了解でございます。お兄様。」

あずみは椅子に座ったまま、テーブルに鼻がするくらい深々と頭を下げた。

そして、如月が部屋から去った後、「いーっ」という顔をした。スマフォも取り上げられ、着替え以外、自分の部屋へ入ることも許されなくなった。自業自得とはいえ、これは少々めんどくさいことになったな・・・と。

そして、この状況をどうやって打開するか、もう一度暖かいお茶を煎れ直し、ゆっくりと口に含んでから策を練り始めた。

「あーおいしい・・・」
残念なことに、何も浮かばなかった・・・・
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