あずみ君は今日も不機嫌

富井

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ラグビーを見に行きます。

雅 2

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いろいろ悔しくて眠れず、イライラしてそのまま朝を迎えた。
明るくなった頃やっとあずみは眠りについた。時計を見ると昼を過ぎていた。
「おはよう。」
雅はベッドの横で本を読み、あずみが起きるのを待っていた。
「まだいたんですか。」
「うん。ご飯食べようか。」
「いらない。今日は起きません。」
「そう。いいよ。」
「・・・やっぱり・・・連れて行ってほしいところあります。」
「いいよ。どこ。」
「スーパー。」
「了解、顔を洗っておいで。」

あずみは顔を洗って髪を梳かし、服を着替えた。
昨日のワンピースはハンガーから外してくしゃくしゃに丸め、紙袋に押し込んだ。
依田に触られたことを思い出し、見ているだけで気持ちが悪くなってきた。

(お兄様のお気に入りだったのに・・・・)

昨日のことを思い出すと悔しくてまた涙が出て来た。


「スーパーで何を買うの?」

「あの・・・明日、木下さんのラグビー観に行くんです。
その時スポーツドリンク持っていくときっと喜ぶよって、鈴木さんが・・・
だからフルーツでドリンクを作りたいんです。」
「いいよ。でも、今日は午後から鈴木さんお休みだよ。」
「え・・・どうしよう・・・」
「僕が知っているドリンクでよければ作るけど。」
「本当ですか・・・ありがとうございます。晩御飯は・・・」
「晩御飯は、昨日の残りがあるけど・・・何か食べたいものがあれば作るよ。」
「じゃあ、コロッケ。コロッケ作って下さい。」
「わかったよ。」
「あ・・・ってことは、今日も帰らないってことですか・・・」
「そうなるね。」
あずみは「しまった・・・」と思っていたが、「今日は暇なのでまあ、いいや」とも考えた。
雅はあずみを連れて少し遠いところにあるスーパーにいき、材料を買いそろえていた。
「あずみ君、レモンはワックスがついていないのを選ばないと・・・
さっきから、適当に入れてるけど・・・」
「だめですか?」

「何に使うか考えてから入れている?」
「いいえ。ただ、なんとなくで入れてます。」
「あずみ君・・・」

結局買い物は雅がほとんどした。やっぱり兄弟だな・・・如月に似ていると思いながらあずみの後をついて行った。
「雅さん、僕、お腹すきました。」

「じゃあ、何か食べて帰ろう。」

あずみはスーパーの中の食堂へ行きたかったのだが、雅は少し離れた郊外の洋食屋へ連れて行った。

「雅さんは僕に何食べたい?とか、どこ行きたい?って言ってくれないんですね。」
「あ・・・ごめん。」
「どうせ何も知らないんだ・・・って思ってますか?」
「いや、違うよ。ちょっと・・・でも、ここはなんでもおいしいんだ。
客も少なくて静かだし、ゆっくりできる。あずみ君の好きなハンバーグもフライもカツもなんでもあるよ。」
「どうして僕の好きな物知っているんですか?」
「最近、教授が君の話ばっかりするから・・・」
「お兄様が・・・最近、お兄様はやけに僕に優しいんです。
僕が小さかった頃みたいにべたべたと構いに来るんです。」
「よかったじゃないか。」
「とっても嬉しいんですが・・・そのあと、必ずいなくなるんです。
だから、あまりよくないです。」
雅はハンバーグを頼み、あずみはクリームコロッケとドリアを頼んだ。
そのあとお互いに、特に何を話していいのかわからずオーダーしたものが出てくるまで沈黙が続いた。

「ねえ雅さんは則夫君とエッチしたいと思った事ありますか?」

「え、なにいきなり。」
「やっぱりありますか?」

「あるよ。」
「キレイだからですか?」

「それもあるけど、それだけじゃない。
ずっと一緒だったんだ。幼稚園の頃からずっと。緑山を好きな理由 なんて1個や2個じゃない。笑った時も、怒ったときも、泣いた時も、いつも一緒で、全部が好きだ。」
「でも、そんなに好きならなぜ山波さんじゃなくて自分が恋人になればいいじゃないですか。いつでも会えますよ。
則夫君だって雅さんの事が押し倒したいほど好きだと言ってました。」

「俺ではダメなんだ。どんなに俺があいつを捕まえようと手を伸ばしても、あいつは近づいた分離れて行く。距離が・・・緑山と俺の距離が縮まらない。

俺は緑山を抱きたいと思うよ。本気で抱きたいと思ったことも何度もある。
けど、そういう関係になったら長続きしないのもわかっているんだ。
あいつは優しいから、ごく普通のことも笑って冗談みたいに言うけど、本当は悲しいこととか苦しいこといっぱい抱えているんだ。

中学の時緑山が襲われた事があって・・・俺は何もできなかった。
いつも車で送り迎えだった緑山が俺と帰るために迎えの車を断った。
俺が忘れものをしてほんのちょっと、ほんのちょっとだけ待たせたすきに、学校の裏に連れ込まれて、年上の女子の集団に押さえ込まれていたずらされたんだ。その中の一人が、いつも緑山をかわいがっていて、緑山も信頼していた人だったから、すごくショックが大きくて。
それからあんまり笑わなくなった。いつもおびえて・・・他人との距離を詰めようとしなくなった。そのことを誰にも絶対言うなって、俺と帰れなくなるからって。
俺はあの時、何があってもこいつを守ろうと思ったけど、薫さんと付き合ったり、サッカー初めてみたり・・・あいつのためだけに全部を捨てられなかった
でも、山波さんは違った。自分の全部を緑山のために捨てられる。
そんな人からとる事なんてできないよ。
それにあんなに笑う緑山は久しぶりだよ。
ほんとに安心した。幸せなんだなって。
俺かなわないと思った。山波さんは凄いなって、あの人となら絶対幸せになれる。

実際緑山にしてもすべてを捨てて、山波さんを選んだ。緑山をあそこまで決心させるなんて凄いよ。
俺は緑山が幸せになるのをちょっと遠くから見ていられればそれでいい。
ずっとずっとずっと見ていられればそれでいいんだ。」

「そうですか・・・」

「だから、緑山が悲しむようなことがあるならたとえあずみ君でも許さないからね。」

あずみはビクっと肩を揺らした。

「教えませんよ。」

「いいよ。君が話してくれるまで待つさ。俺も夏休みでヒマだったしちょうどいいよ。」

「ちょっとまってください・・・ちょうどいいって。ずっと僕につきまとう訳ではないですよね。」

「そうだよ。君が話してくれるまでそばにいる。君もどうせヒマだろ。」

「僕はヒマではありません。明日は木下さんのラグビーの練習試合を見に行くのです。」

「もちろん一緒に行く。」

「やめてください。」
「ちょうどいい。教授に君の事頼まれていたし。」

「まったくお兄様は意地悪ばっかり・・・・」
「意地悪ではないよ。君のことが大切なんだ。」

「それはないです。僕のことは相変わらず邪魔に思ってますよ。
今、特定の恋人がいないから僕を構うだけです。
雅さんお兄様ともう一度お付き合いしたらいかがですか?僕は構いませんよ。」

「俺もそう言ってみたけれど、フラれたんだ。薫さんは俺とはもう付き合うことはないよ。」

「あーあ、じゃあ雅さんはお一人ですか・・・寂しいですね。僕と付き合いますか?」

「付き合わないよ。」

「僕もです。」

あずみは負けたくなかったから、雅の答えに少しかぶせるように言って立ち上がり店を先に出た。負けたくなかったのもあったが、雅がほんの少しも考えずに答えを返したことはもっと腹が立った。
そして車の中では何も言わず、助手席側の窓にへばりつくようにして窓の外を眺めていた。
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