【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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やり直した嫌われ者は、帝様に愛される

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「お母様!! ひーお爺ちゃんが桃持ってきてくれたー!!」
「え!? いつの間に! そういうときはお母さんを呼びなさいっていったでしょ? お礼を言いたかったのに……」
「だって、父様が今日は母様を部屋から出すなって言ってたから……」
「あの子は本当に……」


 姉の静江しずえ、弟の獅遠しおんがそう言って縁側から顔を出す。そして縫い物をしている俺に駆け寄ると我先にと俺の膝の上の奪い合いをはじめた。


「ちょっと姉さん。それ置いてからにしてよ」
「いーや! あんたこの前もそう言って私を邪魔者扱いしてずーっとお母様のお膝独占してたでしょ!! その手には乗らない!!」
「ちっ」
「この野郎!!」
「二人とも、危ないから落ち着いて」


 縫い物をしているので針が二人に刺さると慌てて裁縫箱にしまう。それからよいしょっと二人を抱えて自分の膝に半分ずつ乗せた。


「これでいいでしょ? 喧嘩しない」
「はーい!」
「うん」


 赤ちゃんの時よりも体重が増えて重くなったとはいえ、まだまだ可愛い子供である。

 二人の頭を撫でながら、じゃあ久臣さんから貰った桃を食べようかとそれを手に取った。

 ひーお爺ちゃんとは久臣さんのことである。はーお爺ちゃんが晴臣さんで、九郎は九郎さん。沙織さんはお婆ちゃん。特におじいちゃんおばあちゃんと彼らをそう呼ばせるのに少し抵抗があったが彼らは気分を害することなく、寧ろ初孫に喜んでいた。そう言われるのが夢だったと久臣さんに泣かれてしまえば変えるわけにもいかない。気に入っているのならばそれでいいのだ。
 九郎は俺たちと年が近いからかお爺ちゃんでもおじさんでも何でも良いと言っていたら九郎さんになった。

 そう言った経緯があり、誰に貰ったかというのは簡単に分かるのだ。昔は何言っているのか分からない時期もあったのが懐かしく思える。


「あ! 私がお母様にあーんする! あーん!」
「姉さんは剥くの下手くそだから僕からされた方が母様も嬉しいよ。はい、あーん」
「邪魔すんな!!」
「姉さんこそ邪魔」
「どっちも食べるから……」
「じゃあ僕が先」
「私が先!!」


 しまった。そういうことになってしまうのか。俺の口がもっと大きかったらこの丸い桃を一口で同時に食べられるのに……。どうなだめようかと考えているとずいっともう一つの綺麗に剥かれた桃が現れた。それが誰からのものなのかすぐに分かって齧り付く。するとその齧り付いた桃が天高く上がっていった。


「お父様が先ですが!!」


 高価な褒美が漸く手に入ったかのようにそれを持って行かないで欲しい。


「あー!! お父様ずるいー!!!」
「……」


 それに気をとられた静江、素早くこの機会を逃すことなく俺の口に自分の桃を押しつける獅遠。二人の性格が良く表れている。もごもごと獅遠の桃を囓ると満足して獅遠が残りの部分をちまちま食べ始めた。はっと気がついた静江が「あーっ!!」ともう一度叫んでぐいぐい俺の口に押しつける。それを囓ると彼女も満足して大きく口を開けて豪快に食べ始めた。

 俺の口の周りは桃の果汁でべちょべちょである。満足したなら良かったと手ぬぐいで拭こうとしてその前に久遠が俺の口周りを拭った。


「外出てない?」
「君ねえ……」
「出てないよ! お母様ずっと縫い物してた!」
「出てないよ。出ようとしても父様の結界があって出れないでしょ」
「ちょっと」


 獅遠の言葉に久遠を見ると久遠はにこっと笑顔を見せる。


「本当は箱に入れたいの我慢してるの!!」
「それはやめて」


 数ヶ月前、何かの衝動に駆られたのか久遠が昔のように俺を箱に閉じ込めた。手口がとても巧妙だった。箱の中に何かが落ちた音がして俺が確認しようと身を乗り出した時足をつかまれそのまま入れられた。そうして蓋を閉められずるずるとどこかに運ばれてしまったのだ。何が起こったのか分からず、相変わらず中も快適で苦しいとかそういうことはなかったのだが、獅遠がそれを見ていなかったら数ヶ月はあの中にいただろう。

 後で話を聞けば、俺を閉じ込めたいと言う欲望があるようで今まで我慢していたが出来なくなって行動に起こしたと。聞けば聞くほどそうなのかと思うしかなかったがまた箱に入れられたらたまったもんじゃない。
 そう思って提案したのが一月に数日間だけ俺を部屋に閉じ込めるという案だった。それが今行われているという事である。


「ずっとここに囲いたい……っ!!」
「それはだめ」


 これでも帝の妻なのだ。やる事はいっぱいある。それをぜーんぶ今は放棄してここにいるのだからこれで我慢して欲しい。

 ちゅっと俺から唇を寄せる。すると、これだけで久遠は嬉しそうに笑顔を見せた。

 そうして、やり直した嫌われ者だった俺は帝様に囲われて、愛されるのだ。
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