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それは、彼の復讐である
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蛇の弱点は顎のあたりだ。そこまで行くには蛇の身体が大きすぎて距離がある。蛇の攻撃を避けながらそこに行くのは至難の業だろう。俺だけであれば。
「静紀は斬ることだけに集中して」
「分かった」
久遠の法術だったらすぐに目的の場所まで行ける。俺は刀を構えてゆっくりと深呼吸を繰り返した。緊張で少し手が震える。すると、そっと久遠の手が重なった。
「大丈夫。僕に任せて」
「うん」
――震えは収まり、俺はまっすぐに蛇を睨みつける。
蛇は、四方八方から攻撃を受けながら、反撃を繰り返している。法術よりも物理攻撃が通るということで刀で斬ったり銃で狙撃したりと翻弄していた。
しかし、決定的な攻撃にはなっていない。回復速度は法術よりも遅いが普通の妖魔よりはすさまじい回復力で数刻もすれば傷は癒えていた。
じっと久遠が戦況を見極めて機会を伺っている。いつでもいけるようにと覚悟を決めるとそっと久遠の手が離れた。そしてそっと頬に何かが触れる。
「行ってらっしゃい」
またこれを拓海君に見られていたらきっと彼はこんな時に!と叫んでいただろう。でも俺にとっては、これ以上ない激励だ。
ふっと、視界がぶれる。身体が空中に浮いていて、足場が出現するとそれにためらいなく足をつく。ぐんっと下から上にそれが上がるともう目の前には目的の場所が見えた。
切っ先を立て、下から上に貫く。鱗のない柔らかいところで簡単に刃が通った。
「――――――っ!!」
「こ、のぉ……っ!!」
かつんっと固い何かが当たる。それが弱点、これを消すための核。予想以上にそれが固い。このままじゃ壊せない!!
俺の攻撃に鬱陶しげに蛇が頭を振るう。それに合わせて刺さっている刀も揺れるが、離してたまるかと柄を握りしめた。
――が、ずるりと手が滑って身体が落ちる。斬った場所からおびただしい血が溢れ、潤滑油となり滑ってしまったのだ。
重力に従って落下していく。だからすぐに身体をひねって柄を蹴り上げた。
「壊れろっ!!!」
「ギィ――――っ!!!」
ぱきんと何かが壊れたような感覚を覚えて、ふっと巨体が消え失せた。何かが、二つ俺と同じように落下していく。
一つは二ノ宮、雫さんだ。あの着物は彼のもの。もう一人は……。
「静紀!」
同じように落ちていくそれを見て刀を構え直していると久遠が俺を呼ぶ。落下しながら着地点を見ると彼がそこで両手を広げていた。俺は、ためらいなくその腕の中に飛び込む。
「やったーっ!!」
「久遠、まだ……」
そのままぐるぐる俺を抱えて回るので慌ててそういった。地面にたたきつけられて、動かない二つの物体に目を向けると久遠はゆっくりと俺を地面に下ろす。
「は、の、みや……」
「……」
あの状態でもまだ雫さんは生きていた。しかし、起き上がる力はないのか這って同じように地面に倒れている男の子に向かっている。
もう、彼にはそれほどまでの力しかないようだ。
じっと久遠と俺はその様子を見ているとふと誰かが横切った。
「だ、いじょう、ぶ。まだ、まだわたしが、いきてる、から……。また――」
「次なんてない」
「ぁ――っ!」
紫さんが、俺の、貸したあの大太刀を持って雫さんに突き刺した。抑揚のない声でそう言って引き抜いてもう一度刺す。
「もう兄さんは、殺させない」
何度も何度も同じ事を繰り返す。すでに雫さんは死んでいる。それなのに今までの恨みをぶつけるように延々と突き刺していた。その異様な光景に止めることも声をかけることも出来ずに立ち尽くしていると「紫!」と叢雲さんの声がした。
「お前、もうやめろ! その人もう死んでるから!!」
「離して! こんな化け物! この化け物のせいで何度も兄さんが殺された!! 思い出した、思い出して、ずっとこいつがぁ――っ!!!」
「紫!!」
「あああああああっ!!!」
叢雲さんが無理矢理引き剥がして連れて行く。ずっと紫さんが叫んで嘆いていた。
あの刀が突き刺さったまま、雫さんは事切れていた。
「静紀は斬ることだけに集中して」
「分かった」
久遠の法術だったらすぐに目的の場所まで行ける。俺は刀を構えてゆっくりと深呼吸を繰り返した。緊張で少し手が震える。すると、そっと久遠の手が重なった。
「大丈夫。僕に任せて」
「うん」
――震えは収まり、俺はまっすぐに蛇を睨みつける。
蛇は、四方八方から攻撃を受けながら、反撃を繰り返している。法術よりも物理攻撃が通るということで刀で斬ったり銃で狙撃したりと翻弄していた。
しかし、決定的な攻撃にはなっていない。回復速度は法術よりも遅いが普通の妖魔よりはすさまじい回復力で数刻もすれば傷は癒えていた。
じっと久遠が戦況を見極めて機会を伺っている。いつでもいけるようにと覚悟を決めるとそっと久遠の手が離れた。そしてそっと頬に何かが触れる。
「行ってらっしゃい」
またこれを拓海君に見られていたらきっと彼はこんな時に!と叫んでいただろう。でも俺にとっては、これ以上ない激励だ。
ふっと、視界がぶれる。身体が空中に浮いていて、足場が出現するとそれにためらいなく足をつく。ぐんっと下から上にそれが上がるともう目の前には目的の場所が見えた。
切っ先を立て、下から上に貫く。鱗のない柔らかいところで簡単に刃が通った。
「――――――っ!!」
「こ、のぉ……っ!!」
かつんっと固い何かが当たる。それが弱点、これを消すための核。予想以上にそれが固い。このままじゃ壊せない!!
俺の攻撃に鬱陶しげに蛇が頭を振るう。それに合わせて刺さっている刀も揺れるが、離してたまるかと柄を握りしめた。
――が、ずるりと手が滑って身体が落ちる。斬った場所からおびただしい血が溢れ、潤滑油となり滑ってしまったのだ。
重力に従って落下していく。だからすぐに身体をひねって柄を蹴り上げた。
「壊れろっ!!!」
「ギィ――――っ!!!」
ぱきんと何かが壊れたような感覚を覚えて、ふっと巨体が消え失せた。何かが、二つ俺と同じように落下していく。
一つは二ノ宮、雫さんだ。あの着物は彼のもの。もう一人は……。
「静紀!」
同じように落ちていくそれを見て刀を構え直していると久遠が俺を呼ぶ。落下しながら着地点を見ると彼がそこで両手を広げていた。俺は、ためらいなくその腕の中に飛び込む。
「やったーっ!!」
「久遠、まだ……」
そのままぐるぐる俺を抱えて回るので慌ててそういった。地面にたたきつけられて、動かない二つの物体に目を向けると久遠はゆっくりと俺を地面に下ろす。
「は、の、みや……」
「……」
あの状態でもまだ雫さんは生きていた。しかし、起き上がる力はないのか這って同じように地面に倒れている男の子に向かっている。
もう、彼にはそれほどまでの力しかないようだ。
じっと久遠と俺はその様子を見ているとふと誰かが横切った。
「だ、いじょう、ぶ。まだ、まだわたしが、いきてる、から……。また――」
「次なんてない」
「ぁ――っ!」
紫さんが、俺の、貸したあの大太刀を持って雫さんに突き刺した。抑揚のない声でそう言って引き抜いてもう一度刺す。
「もう兄さんは、殺させない」
何度も何度も同じ事を繰り返す。すでに雫さんは死んでいる。それなのに今までの恨みをぶつけるように延々と突き刺していた。その異様な光景に止めることも声をかけることも出来ずに立ち尽くしていると「紫!」と叢雲さんの声がした。
「お前、もうやめろ! その人もう死んでるから!!」
「離して! こんな化け物! この化け物のせいで何度も兄さんが殺された!! 思い出した、思い出して、ずっとこいつがぁ――っ!!!」
「紫!!」
「あああああああっ!!!」
叢雲さんが無理矢理引き剥がして連れて行く。ずっと紫さんが叫んで嘆いていた。
あの刀が突き刺さったまま、雫さんは事切れていた。
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