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大蛇が収まり、様子を見ていた人々はそっと顔を出す。
白い髪の男。
きっと彼は、神様がつかわしてくださった神の御使い様、干支の一人なのだと人々はそう思った。
そんな単純な理由で、人々はそう記したのである。
その都の顛末は―――。



「三ノ宮」
「……」


ふと、二ノ宮がそう呼ぶと見事に逃げ出した最後の一柱がそこにいた。ジタバタと暴れ、怯えた目で二ノ宮を見ている。
二ノ宮は薄ら笑いを浮かべた。


「癪ですが、あなた方の遊びを使いましょう。供物に争わせ、一ノ宮お兄様のような者を作らなければ。それには、私も神様になる必要がある」


何をされるか、それは察して必死に暴れ回る。しかして、すでに創造主たる神とその造形物の立場は逆転しており、彼はあっさりと取り込まれた。





二ノ宮は、努力した。

はじめに、八ノ宮は安全なとある都の中の社に保管することにした。その場所は一ノ宮に縁の深い場所なのできっと居心地が良いだろうと判断した。ゆっくり眠り、徐々に記憶も混濁していくだろうが大事なことは忘れないだろうとそのままにしておいた。

二ノ宮は、降り立った都の供物を平らげた。

自身の力がみなぎるのを感じる。
一ノ宮の記憶を覗き、できるだけ同じ環境の者を作り上げた。

最初、どうにも法術が使える者ばかりが生まれてしまった。
だから、少しいじってとある家門の者には何十年かに一度くらいは法術が使えない者を誕生させるようにした。

今度は、記憶をあわせてみればどうだろうか。

色んな人物に、自身の記憶を振る舞ってどうなるか検証してみた。
少しずつであれば、徐々に自分がそうだと思うようだった。

成功した。

この流れに乗って一ノ宮にできるだけ近づかせよう。
彼が生け贄になった原因である雨乞いの儀式をさせたかったが、法術が普及してできなくなった。
他の方法として、願いを叶える神降ろしの儀式と偽り十二の供物を争わせる神々が行っていた雨乞いの儀式と同じそれを行わせた。干支という元々彼らの御使いを模したものらしい。二ノ宮はそれ以上の興味を持てなかった。

できた。

これは使えるようだ。
一ノ宮のような人物に接触する。好み、行動、全てを彼に近づけようとして気づかれた。
誰かの代わりにでもするつもりか、と。
二ノ宮は失敗したとそれを破棄する。



難しい。

何度も何度も失敗して、ひとまず一ノ宮のような剣術の達人でありかつ法術が使えない人物を安定して供給できるようになってきた。しかし、それに伴って勘が異常に鋭い人物になってしまった。
剣でしか妖魔を殺せないのだから当然の進化だろう。

であれば、環境を変えよう。

その適正にあたる人物に注視して、二ノ宮は一ノ宮のような劣悪な環境を作り上げた。
弟を殺したというその過程も似せようとして、弟の方にもあのときの記憶を植え付けてみた。これで、仲違いになるはずだ。

しかして、何故か兄弟の繋がりは強固だった。

おかしい、おかしい、おかしい。
こんなに繰り返しているのに、彼らは絶対に争わない。親しげに兄を呼び、弟を慈しむ。
使えない。失敗だ。




そうして何度も繰り返し悩んだ末に、自分も記憶をなくしてしまおうと考えた。
神様の遊戯に参加している神もどきとして自分を参加させてしまおう。


「ですので三ノ宮、お別れです」
「……」
「忘れるので、貴方の制御ができなくなります。だから、もうお役目は終わりです。ご苦労様でした三ノ宮」
「……」


じっと二ノ宮を見つめたまま三ノ宮は目を閉じた。二ノ宮はずっと一緒にいた三ノ宮の術を解く。がくりっとただの死体となったそれを綺麗に埋葬して、計画通り自分の記憶も消し去って、小さな社に刀と共に自身を封印するのである。


そして、幸運にも同じ時代に二人も現れた。
片方は、やはりどうにもならなかったがもう一方は最も一ノ宮に近い人物として作り上げることに成功した。


なんせ、彼と同じように二度、生きているのだから。
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