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罠
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「しーちゃん、あのさ、暫くしーちゃんの刀借りても良いかな?」
次の日、紫さんが俺にそう言ってきた。俺は代わりの刀を借りられるならば良いと彼にいつも使っている刀を渡した。昨日、紫さんが刀を打っていたし、それに何か関係しているかもしれない。彼にはお世話になっているのでできる限りの協力をしたいと思うのは当然だ。
「はい、いいですよ」
「ありがとう。しーちゃんの使っている刀を同じ長さで重さも同じ、性能もできるだけ近いものを作ったからこれを代わりに……」
そう言って紫さんは同じような刀を俺に渡した。軽く庭先で振ってみたが、いつもの刀と同じような感覚で扱える。術も剣先が伸びるように出来ているので全く機能に問題はない。こんな刀を作れるなんて紫さんは凄いなと尊敬するが、じゃあなんで俺の刀を借りようと思ったのだろうと疑問に思う。
そういえば、俺の刀には何重にも術がかかっていて神業なんだとか言ってたな。それで興味を持って同じような刀を用意したのかもしれない。俺はそう結論づけた。
そして紫さんの刀を使って妖魔狩りをし、俺は、欠かさず弟の邪魔をしている。どうにか隙が出来ないかと目を光らせているのだが、全く出来ない。
自分の想像以上に弟は感情を隠すのがうまいのだろうかと思うほどだ。彼の本心なんて分からないし、分かりたくもないが考え方を変えないといけないのかも知れない。
「……それにしては、あっちは何も仕掛けてこないな……」
「何のお話ですか?」
「あ、小夜ちゃん」
弟のところに乱入をしたいのに皇宮でお勤めのようで、付近をうろうろとしている俺に彼女が声をかけた。
あのお酒の事件で本当に俺が小夜ちゃん達のご両親を助けたことが判明し、お礼を言われ謝礼をびっくりするほど与えられそうになった。服にねじ込まれるより、断れるからましだったが神棚を作られて大変困った。
しかも、それをそーちゃんに話したら「俺の両親もしーちゃんの神棚作ってる」と言いだして、「どんなもの作ってるんですか!?」と談笑に花を咲かせてしまった。どうしてそんなことになっているんだろうか……。
だから俺は「そんな罰当たりなことを……」と思わず言ってしまったが、そんな俺に二人は顔を合わせてこう返したのだ。
只見守っている神様より、助けてくれる俺に感謝するのは当たり前だ、と。
それに関しては、確かにそうだ。助けてくれない、見守る神様よりも雫さんのように助けてくれる方がずっと良い。その部分は同意できるが、神棚まではやり過ぎだ。そんな風にまつられても俺にご利益なんてものは無いのだから。
「何か必要ならいってください。ものによっては時間がかかりますが、必ず用意します」
「ありがとう。でも、前も言ったけどそこまで感謝しなくて良いんだよ?」
「いいえ! これでも足りないくらいです!」
「あ、じゃあ、それぐらいで大丈夫」
余計なことを言うとまた小夜ちゃんに色んなものを押しつけられる可能性があるのでそう言った。
小夜ちゃんの言うとおり、彼女は商家の娘なので本当にどんなものでも用意できる。最近はもっぱら色んな食材が紫さん達の屋敷に届けられた。魚介類や山菜、様々なものが贈られていたのである。もう要らないと伝えても、紫さんと叢雲さんの食欲を知っている彼女はすぐになくなるじゃないですか!とそれをやめない。他にも、ものが贈られるようになったら困るのでここら辺で終わらせるのが良い。
「あ! そうだ! 私しーちゃんに言いたいことがあって!!」
「うん、何?」
「妖魔退治の時は声を掛けて欲しいです!!!」
「え? あ、ああ。協力して欲しいってこと?」
「違います! 私は、しーちゃんの勇姿を見たいんです!!!!」
「? あ、うん?」
「あの、毘沙門の天才君がいるときでも呼んでください!」
「あ、努力はするね……」
「はい!」
そうして小夜ちゃんと別れた。偶々ここら辺を通りかかっただけのようだ。俺のように誰かを張っているわけではない。
そもそも、小夜ちゃんは黒狗だ。俺みたいに皇宮に入れない身分ではないので、こんなところでうろうろする必要も無い。俺がいるから声をかけたのだろう。
小夜ちゃんと話をしていたとはいえ、大分長い時間皇宮の周りにいたので少し離れよう。
また妖魔退治に外へ行こうかと軽く刀を背負い直す。皇宮の中では弟でも下手な真似をすることはないだろうから安心だ。
「帝様があんなに綺麗なんて思わなかったです……」
「しかも、この前帝様も参加した夜の妖魔狩りに行ったら複数の妖魔が一瞬でいなくなって、選ばれた人って感じだったぜ」
「まじか! そんな人がな~んで法術も使えない奴を気にかけんのかね」
皇宮から出てきた数人の男たち。俺は反射的に彼らに見つからないようにと角に隠れるとそんな会話が聞こえてきた。
「愛人でしたっけ?」
「愛人なんだから、あっちがうまいんじゃねえ?」
「見たことないけど、すんごい美人だとか?」
「美人の方は弟のほうですよ。毘沙門理央様」
「へー?」
自分の話だ。それから弟の話。盗み聞きをするようで気が引けるが、今自分がどんな風に噂されているのかよく分かる。
「でも強いって聞いたけど? 法術使えなくても妖魔を倒したとか」
「刀に仕掛けがあるって聞きました。だから倒せるって」
「いいなー。金持ちだからそういうものもらえんのかね。うらやまし~」
「だな。あ、そういえば――」
最後にそう言って、違う話題に入る。
金持ちだから、か。俺は一応、毘沙門の長子だからある程度優遇されているって思われているようだ。普通に考えればそうか。誰も、法術が使えないからといって外に放り出されたり、蔵の中に閉じ込められたりそんな扱いを受けるとは考えないのだ。
まあ、普通の人はそうか。
俺はそのまま足早に都の外に向かった。
次の日、紫さんが俺にそう言ってきた。俺は代わりの刀を借りられるならば良いと彼にいつも使っている刀を渡した。昨日、紫さんが刀を打っていたし、それに何か関係しているかもしれない。彼にはお世話になっているのでできる限りの協力をしたいと思うのは当然だ。
「はい、いいですよ」
「ありがとう。しーちゃんの使っている刀を同じ長さで重さも同じ、性能もできるだけ近いものを作ったからこれを代わりに……」
そう言って紫さんは同じような刀を俺に渡した。軽く庭先で振ってみたが、いつもの刀と同じような感覚で扱える。術も剣先が伸びるように出来ているので全く機能に問題はない。こんな刀を作れるなんて紫さんは凄いなと尊敬するが、じゃあなんで俺の刀を借りようと思ったのだろうと疑問に思う。
そういえば、俺の刀には何重にも術がかかっていて神業なんだとか言ってたな。それで興味を持って同じような刀を用意したのかもしれない。俺はそう結論づけた。
そして紫さんの刀を使って妖魔狩りをし、俺は、欠かさず弟の邪魔をしている。どうにか隙が出来ないかと目を光らせているのだが、全く出来ない。
自分の想像以上に弟は感情を隠すのがうまいのだろうかと思うほどだ。彼の本心なんて分からないし、分かりたくもないが考え方を変えないといけないのかも知れない。
「……それにしては、あっちは何も仕掛けてこないな……」
「何のお話ですか?」
「あ、小夜ちゃん」
弟のところに乱入をしたいのに皇宮でお勤めのようで、付近をうろうろとしている俺に彼女が声をかけた。
あのお酒の事件で本当に俺が小夜ちゃん達のご両親を助けたことが判明し、お礼を言われ謝礼をびっくりするほど与えられそうになった。服にねじ込まれるより、断れるからましだったが神棚を作られて大変困った。
しかも、それをそーちゃんに話したら「俺の両親もしーちゃんの神棚作ってる」と言いだして、「どんなもの作ってるんですか!?」と談笑に花を咲かせてしまった。どうしてそんなことになっているんだろうか……。
だから俺は「そんな罰当たりなことを……」と思わず言ってしまったが、そんな俺に二人は顔を合わせてこう返したのだ。
只見守っている神様より、助けてくれる俺に感謝するのは当たり前だ、と。
それに関しては、確かにそうだ。助けてくれない、見守る神様よりも雫さんのように助けてくれる方がずっと良い。その部分は同意できるが、神棚まではやり過ぎだ。そんな風にまつられても俺にご利益なんてものは無いのだから。
「何か必要ならいってください。ものによっては時間がかかりますが、必ず用意します」
「ありがとう。でも、前も言ったけどそこまで感謝しなくて良いんだよ?」
「いいえ! これでも足りないくらいです!」
「あ、じゃあ、それぐらいで大丈夫」
余計なことを言うとまた小夜ちゃんに色んなものを押しつけられる可能性があるのでそう言った。
小夜ちゃんの言うとおり、彼女は商家の娘なので本当にどんなものでも用意できる。最近はもっぱら色んな食材が紫さん達の屋敷に届けられた。魚介類や山菜、様々なものが贈られていたのである。もう要らないと伝えても、紫さんと叢雲さんの食欲を知っている彼女はすぐになくなるじゃないですか!とそれをやめない。他にも、ものが贈られるようになったら困るのでここら辺で終わらせるのが良い。
「あ! そうだ! 私しーちゃんに言いたいことがあって!!」
「うん、何?」
「妖魔退治の時は声を掛けて欲しいです!!!」
「え? あ、ああ。協力して欲しいってこと?」
「違います! 私は、しーちゃんの勇姿を見たいんです!!!!」
「? あ、うん?」
「あの、毘沙門の天才君がいるときでも呼んでください!」
「あ、努力はするね……」
「はい!」
そうして小夜ちゃんと別れた。偶々ここら辺を通りかかっただけのようだ。俺のように誰かを張っているわけではない。
そもそも、小夜ちゃんは黒狗だ。俺みたいに皇宮に入れない身分ではないので、こんなところでうろうろする必要も無い。俺がいるから声をかけたのだろう。
小夜ちゃんと話をしていたとはいえ、大分長い時間皇宮の周りにいたので少し離れよう。
また妖魔退治に外へ行こうかと軽く刀を背負い直す。皇宮の中では弟でも下手な真似をすることはないだろうから安心だ。
「帝様があんなに綺麗なんて思わなかったです……」
「しかも、この前帝様も参加した夜の妖魔狩りに行ったら複数の妖魔が一瞬でいなくなって、選ばれた人って感じだったぜ」
「まじか! そんな人がな~んで法術も使えない奴を気にかけんのかね」
皇宮から出てきた数人の男たち。俺は反射的に彼らに見つからないようにと角に隠れるとそんな会話が聞こえてきた。
「愛人でしたっけ?」
「愛人なんだから、あっちがうまいんじゃねえ?」
「見たことないけど、すんごい美人だとか?」
「美人の方は弟のほうですよ。毘沙門理央様」
「へー?」
自分の話だ。それから弟の話。盗み聞きをするようで気が引けるが、今自分がどんな風に噂されているのかよく分かる。
「でも強いって聞いたけど? 法術使えなくても妖魔を倒したとか」
「刀に仕掛けがあるって聞きました。だから倒せるって」
「いいなー。金持ちだからそういうものもらえんのかね。うらやまし~」
「だな。あ、そういえば――」
最後にそう言って、違う話題に入る。
金持ちだから、か。俺は一応、毘沙門の長子だからある程度優遇されているって思われているようだ。普通に考えればそうか。誰も、法術が使えないからといって外に放り出されたり、蔵の中に閉じ込められたりそんな扱いを受けるとは考えないのだ。
まあ、普通の人はそうか。
俺はそのまま足早に都の外に向かった。
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