【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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疑惑

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 こうして朝餉を終えて、俺がこれからやる事はただ一つ。

 御飯も食べ終わり、俺は彼ら、正確に言うと七宝の二人に聞いた。七宝の役割として妖魔退治を行うと思うが、弟が参加するのはいつかということである。基本的に七宝の誰かと組んで妖魔退治を行うので組分けなどを行ったはずだ。俺の場合は一人行動を取らざるを得なかったので誰かと一緒にやったことはなかったが。

 俺がそう聞くと彼らは快く教えてくれた。担当場所と誰が一緒かと言うことも。まあ話を聞く限り、彼のそばには弁財の男がいるようだ。まあ、今彼は重要な人物ではないので無視して良い。
 俺は兎に角弟に用があるのである。


「早速今日あるんだ。教えてくれてありがとう」
「ああ、恐らく、この時間帯ならもう始めてるんじゃないか? ところで、何をするつもりなんだ?」
「何か手伝おうか……?」
「ううん、大丈夫。ただ俺の実力を見せてあげようと思って」


 そうして俺はニコッと笑顔を見せた。

***

 彼らの言うとおり、都の外、といっても門に近いところで陣取って我が物顔で弟は負傷者の手当てをしていた。今は早朝。といってももう太陽は昇っているので妖魔の力は弱まっている。それなのにこんな傷を負うとは情けない。


「れいほーいん出身の方がこーんなよわい妖魔にやられて恥ずかしくないんですかぁ?」
「なっ! 誰だお前は!!」


 ひょこっと現れて馬鹿にしてきた俺に一番門に近い男がそう言った。俺の声にばっとこちらに視線が集まる。勿論、弟も俺を見ている。その気配を感じながら俺は、はっと鼻で笑いながら近づいた。そして、ばんっと地面に向かって鞘に入ったままの大太刀を刺すようにたたきつける。


「毘沙門静紀だけど? あー、そうか。お前七宝を選定するあのときに呼ばれなかった奴なんだ。へーぇ?」
「っ! 何だと!! 役立たずの男がここに何しに来た!!」


 男がそう言われて睨みつけながら叫んだ。そうやってむきになるところを見ると、本当に呼ばれなかったのだろう。この場にいるのでそれなりの身分を持っている男かと思ったが違うようだ。まあ、どうでも良いが。


「役立たずぅ? ふぅん?」


 俺は彼の言葉にそう言いながら通り過ぎてたかが、狼のような妖魔の群れに苦戦している、彼らに取っては前線に立った。必死で弱い法術で退けているが倒すまでには至っていない。それを見て再び鼻で笑う。その前線には、弁財郁人もいた。俺はあえて彼の隣に立って大太刀の鯉口を切って一線。木々もなぎ倒す勢いで目の前の狼の妖魔を一掃した。最後に、ゆっくりと見せつけるように鞘に刀を戻し小馬鹿にして彼らを見る。


「よわぁ。俺がすぐに倒せた奴をこんな大人数でも倒せず、あまつさえ怪我までするなんてありえねえんだけど。法術も使えない俺に負けた気分はどうですかぁ?」
「こ、こんなのあり得ない!!」


 一番近くにいたそう、彼がそう叫んだ。そして俺から距離を取るために軽く腕を払って後ろに下がる。
 何があり得ないだ。目の前の出来事が真実だ。


「そうだ。大体にして死骸は? 妖魔は綺麗さっぱり消えたじゃないですか!!」
「貴方たちは知らないだろうから教えてあげる。妖魔には弱点があってそこを潰すと跡形もなく消えるわけ」
「そんな話聞いたことがないです! でたらめだ!!」
「あっそお? でも俺はそのでたらめを何度も繰り返してみせることが出来るけど?」


 喚き散らす彼の言葉を右から左に流しながら肩をすくめる。そうしているとうってつけの相手がやってきた。
 ずしん、ずしんと地響きが起きて森の中からひょっこりと顔を出した。大きな一つ目の怪物だ。俺たちを覆うように影が出来ている。
 ここら辺では珍しい。時間帯も。そう思ってちらりと弟を見る。すると彼はじろっと俺を睨んでいるだけだったが、大きな妖魔を見ると顔を青くしていた。

 違うのか……?


「そ、総員退避!! 早く門まで戻ってください!!」
「……はあ?」


 弁財の彼の命令に思わず俺はそう言ってしまう。
こんな人数がいるのに、本当に戻るのか……?まさか、一体しかいない妖魔でさえも倒せないと……?
俺はその光景に目を疑ってはーっと深いため息をつく。一目散に門の方に逃げるが、この妖魔に近い女が一人素早く捕まれた。


「た、助けて!!」


 そう叫ぶが、誰も見ないふり聞こえないふり。我が身可愛さに必死で脇目も振らずに走っている。
 こんなものか、こいつらの実力は。
 もう一度刀を鞘から素早く出して、女を掴んでいた妖魔の手首を切り落とす。


「きゃあああああっ!!」


 そう叫んで身を固くし、受け身を取ることなく地面にたたきつけられそうになって俺はすぐにその女の下に向かい受け止めた。


「な、なに、なにが……」
「とっとと失せろ」
「きゃあっ!!」


 困惑して全く状況をつかめていない彼女にそう冷たく言って地面に下ろす。女性はさっと血が滴っている手を見て慌てて走り去っていった。
 俺はそれを少しだけ見送った後に刀を構えた。


「あ……」


 また無意識に両手で持っていた。此でも支障はないが、気づいてしまった以上やはり片手を空けておきたい。右手で大太刀を持って足を大きく広げ上段に構える。そして地面を強く蹴った。
 とんとんっと素早く近づいて足下に潜り込む。そして足の健をきると、叫び声を上げて転がった。すぐに彼の胴体に上がって心臓付近のその弱点の場所を貫く。ぱきんと小気味のよい音がして乗っていたはずのその巨体が跡形もなく消える。
 少し気になるので奥の方に行きたいが、今は後にしよう。やらなければいけないことがある。
 俺は優雅に門に向かって歩き出す。近づいていくと門の中から何やら喧噪が聞こえる。先ほどの妖魔を倒すために作戦でも練っているのだろうかと思っていたが、はっきりと聞こえてきた内容に落胆した。

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誤字報告ありがとうございます😊
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