188 / 208
疑惑
しおりを挟む
こうして朝餉を終えて、俺がこれからやる事はただ一つ。
御飯も食べ終わり、俺は彼ら、正確に言うと七宝の二人に聞いた。七宝の役割として妖魔退治を行うと思うが、弟が参加するのはいつかということである。基本的に七宝の誰かと組んで妖魔退治を行うので組分けなどを行ったはずだ。俺の場合は一人行動を取らざるを得なかったので誰かと一緒にやったことはなかったが。
俺がそう聞くと彼らは快く教えてくれた。担当場所と誰が一緒かと言うことも。まあ話を聞く限り、彼のそばには弁財の男がいるようだ。まあ、今彼は重要な人物ではないので無視して良い。
俺は兎に角弟に用があるのである。
「早速今日あるんだ。教えてくれてありがとう」
「ああ、恐らく、この時間帯ならもう始めてるんじゃないか? ところで、何をするつもりなんだ?」
「何か手伝おうか……?」
「ううん、大丈夫。ただ俺の実力を見せてあげようと思って」
そうして俺はニコッと笑顔を見せた。
***
彼らの言うとおり、都の外、といっても門に近いところで陣取って我が物顔で弟は負傷者の手当てをしていた。今は早朝。といってももう太陽は昇っているので妖魔の力は弱まっている。それなのにこんな傷を負うとは情けない。
「れいほーいん出身の方がこーんなよわい妖魔にやられて恥ずかしくないんですかぁ?」
「なっ! 誰だお前は!!」
ひょこっと現れて馬鹿にしてきた俺に一番門に近い男がそう言った。俺の声にばっとこちらに視線が集まる。勿論、弟も俺を見ている。その気配を感じながら俺は、はっと鼻で笑いながら近づいた。そして、ばんっと地面に向かって鞘に入ったままの大太刀を刺すようにたたきつける。
「毘沙門静紀だけど? あー、そうか。お前七宝を選定するあのときに呼ばれなかった奴なんだ。へーぇ?」
「っ! 何だと!! 役立たずの男がここに何しに来た!!」
男がそう言われて睨みつけながら叫んだ。そうやってむきになるところを見ると、本当に呼ばれなかったのだろう。この場にいるのでそれなりの身分を持っている男かと思ったが違うようだ。まあ、どうでも良いが。
「役立たずぅ? ふぅん?」
俺は彼の言葉にそう言いながら通り過ぎてたかが、狼のような妖魔の群れに苦戦している、彼らに取っては前線に立った。必死で弱い法術で退けているが倒すまでには至っていない。それを見て再び鼻で笑う。その前線には、弁財郁人もいた。俺はあえて彼の隣に立って大太刀の鯉口を切って一線。木々もなぎ倒す勢いで目の前の狼の妖魔を一掃した。最後に、ゆっくりと見せつけるように鞘に刀を戻し小馬鹿にして彼らを見る。
「よわぁ。俺がすぐに倒せた奴をこんな大人数でも倒せず、あまつさえ怪我までするなんてありえねえんだけど。法術も使えない俺に負けた気分はどうですかぁ?」
「こ、こんなのあり得ない!!」
一番近くにいたそう、彼がそう叫んだ。そして俺から距離を取るために軽く腕を払って後ろに下がる。
何があり得ないだ。目の前の出来事が真実だ。
「そうだ。大体にして死骸は? 妖魔は綺麗さっぱり消えたじゃないですか!!」
「貴方たちは知らないだろうから教えてあげる。妖魔には弱点があってそこを潰すと跡形もなく消えるわけ」
「そんな話聞いたことがないです! でたらめだ!!」
「あっそお? でも俺はそのでたらめを何度も繰り返してみせることが出来るけど?」
喚き散らす彼の言葉を右から左に流しながら肩をすくめる。そうしているとうってつけの相手がやってきた。
ずしん、ずしんと地響きが起きて森の中からひょっこりと顔を出した。大きな一つ目の怪物だ。俺たちを覆うように影が出来ている。
ここら辺では珍しい。時間帯も。そう思ってちらりと弟を見る。すると彼はじろっと俺を睨んでいるだけだったが、大きな妖魔を見ると顔を青くしていた。
違うのか……?
「そ、総員退避!! 早く門まで戻ってください!!」
「……はあ?」
弁財の彼の命令に思わず俺はそう言ってしまう。
こんな人数がいるのに、本当に戻るのか……?まさか、一体しかいない妖魔でさえも倒せないと……?
俺はその光景に目を疑ってはーっと深いため息をつく。一目散に門の方に逃げるが、この妖魔に近い女が一人素早く捕まれた。
「た、助けて!!」
そう叫ぶが、誰も見ないふり聞こえないふり。我が身可愛さに必死で脇目も振らずに走っている。
こんなものか、こいつらの実力は。
もう一度刀を鞘から素早く出して、女を掴んでいた妖魔の手首を切り落とす。
「きゃあああああっ!!」
そう叫んで身を固くし、受け身を取ることなく地面にたたきつけられそうになって俺はすぐにその女の下に向かい受け止めた。
「な、なに、なにが……」
「とっとと失せろ」
「きゃあっ!!」
困惑して全く状況をつかめていない彼女にそう冷たく言って地面に下ろす。女性はさっと血が滴っている手を見て慌てて走り去っていった。
俺はそれを少しだけ見送った後に刀を構えた。
「あ……」
また無意識に両手で持っていた。此でも支障はないが、気づいてしまった以上やはり片手を空けておきたい。右手で大太刀を持って足を大きく広げ上段に構える。そして地面を強く蹴った。
とんとんっと素早く近づいて足下に潜り込む。そして足の健をきると、叫び声を上げて転がった。すぐに彼の胴体に上がって心臓付近のその弱点の場所を貫く。ぱきんと小気味のよい音がして乗っていたはずのその巨体が跡形もなく消える。
少し気になるので奥の方に行きたいが、今は後にしよう。やらなければいけないことがある。
俺は優雅に門に向かって歩き出す。近づいていくと門の中から何やら喧噪が聞こえる。先ほどの妖魔を倒すために作戦でも練っているのだろうかと思っていたが、はっきりと聞こえてきた内容に落胆した。
ーーー
誤字報告ありがとうございます😊
御飯も食べ終わり、俺は彼ら、正確に言うと七宝の二人に聞いた。七宝の役割として妖魔退治を行うと思うが、弟が参加するのはいつかということである。基本的に七宝の誰かと組んで妖魔退治を行うので組分けなどを行ったはずだ。俺の場合は一人行動を取らざるを得なかったので誰かと一緒にやったことはなかったが。
俺がそう聞くと彼らは快く教えてくれた。担当場所と誰が一緒かと言うことも。まあ話を聞く限り、彼のそばには弁財の男がいるようだ。まあ、今彼は重要な人物ではないので無視して良い。
俺は兎に角弟に用があるのである。
「早速今日あるんだ。教えてくれてありがとう」
「ああ、恐らく、この時間帯ならもう始めてるんじゃないか? ところで、何をするつもりなんだ?」
「何か手伝おうか……?」
「ううん、大丈夫。ただ俺の実力を見せてあげようと思って」
そうして俺はニコッと笑顔を見せた。
***
彼らの言うとおり、都の外、といっても門に近いところで陣取って我が物顔で弟は負傷者の手当てをしていた。今は早朝。といってももう太陽は昇っているので妖魔の力は弱まっている。それなのにこんな傷を負うとは情けない。
「れいほーいん出身の方がこーんなよわい妖魔にやられて恥ずかしくないんですかぁ?」
「なっ! 誰だお前は!!」
ひょこっと現れて馬鹿にしてきた俺に一番門に近い男がそう言った。俺の声にばっとこちらに視線が集まる。勿論、弟も俺を見ている。その気配を感じながら俺は、はっと鼻で笑いながら近づいた。そして、ばんっと地面に向かって鞘に入ったままの大太刀を刺すようにたたきつける。
「毘沙門静紀だけど? あー、そうか。お前七宝を選定するあのときに呼ばれなかった奴なんだ。へーぇ?」
「っ! 何だと!! 役立たずの男がここに何しに来た!!」
男がそう言われて睨みつけながら叫んだ。そうやってむきになるところを見ると、本当に呼ばれなかったのだろう。この場にいるのでそれなりの身分を持っている男かと思ったが違うようだ。まあ、どうでも良いが。
「役立たずぅ? ふぅん?」
俺は彼の言葉にそう言いながら通り過ぎてたかが、狼のような妖魔の群れに苦戦している、彼らに取っては前線に立った。必死で弱い法術で退けているが倒すまでには至っていない。それを見て再び鼻で笑う。その前線には、弁財郁人もいた。俺はあえて彼の隣に立って大太刀の鯉口を切って一線。木々もなぎ倒す勢いで目の前の狼の妖魔を一掃した。最後に、ゆっくりと見せつけるように鞘に刀を戻し小馬鹿にして彼らを見る。
「よわぁ。俺がすぐに倒せた奴をこんな大人数でも倒せず、あまつさえ怪我までするなんてありえねえんだけど。法術も使えない俺に負けた気分はどうですかぁ?」
「こ、こんなのあり得ない!!」
一番近くにいたそう、彼がそう叫んだ。そして俺から距離を取るために軽く腕を払って後ろに下がる。
何があり得ないだ。目の前の出来事が真実だ。
「そうだ。大体にして死骸は? 妖魔は綺麗さっぱり消えたじゃないですか!!」
「貴方たちは知らないだろうから教えてあげる。妖魔には弱点があってそこを潰すと跡形もなく消えるわけ」
「そんな話聞いたことがないです! でたらめだ!!」
「あっそお? でも俺はそのでたらめを何度も繰り返してみせることが出来るけど?」
喚き散らす彼の言葉を右から左に流しながら肩をすくめる。そうしているとうってつけの相手がやってきた。
ずしん、ずしんと地響きが起きて森の中からひょっこりと顔を出した。大きな一つ目の怪物だ。俺たちを覆うように影が出来ている。
ここら辺では珍しい。時間帯も。そう思ってちらりと弟を見る。すると彼はじろっと俺を睨んでいるだけだったが、大きな妖魔を見ると顔を青くしていた。
違うのか……?
「そ、総員退避!! 早く門まで戻ってください!!」
「……はあ?」
弁財の彼の命令に思わず俺はそう言ってしまう。
こんな人数がいるのに、本当に戻るのか……?まさか、一体しかいない妖魔でさえも倒せないと……?
俺はその光景に目を疑ってはーっと深いため息をつく。一目散に門の方に逃げるが、この妖魔に近い女が一人素早く捕まれた。
「た、助けて!!」
そう叫ぶが、誰も見ないふり聞こえないふり。我が身可愛さに必死で脇目も振らずに走っている。
こんなものか、こいつらの実力は。
もう一度刀を鞘から素早く出して、女を掴んでいた妖魔の手首を切り落とす。
「きゃあああああっ!!」
そう叫んで身を固くし、受け身を取ることなく地面にたたきつけられそうになって俺はすぐにその女の下に向かい受け止めた。
「な、なに、なにが……」
「とっとと失せろ」
「きゃあっ!!」
困惑して全く状況をつかめていない彼女にそう冷たく言って地面に下ろす。女性はさっと血が滴っている手を見て慌てて走り去っていった。
俺はそれを少しだけ見送った後に刀を構えた。
「あ……」
また無意識に両手で持っていた。此でも支障はないが、気づいてしまった以上やはり片手を空けておきたい。右手で大太刀を持って足を大きく広げ上段に構える。そして地面を強く蹴った。
とんとんっと素早く近づいて足下に潜り込む。そして足の健をきると、叫び声を上げて転がった。すぐに彼の胴体に上がって心臓付近のその弱点の場所を貫く。ぱきんと小気味のよい音がして乗っていたはずのその巨体が跡形もなく消える。
少し気になるので奥の方に行きたいが、今は後にしよう。やらなければいけないことがある。
俺は優雅に門に向かって歩き出す。近づいていくと門の中から何やら喧噪が聞こえる。先ほどの妖魔を倒すために作戦でも練っているのだろうかと思っていたが、はっきりと聞こえてきた内容に落胆した。
ーーー
誤字報告ありがとうございます😊
49
お気に入りに追加
3,630
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる