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「叢雲さん、聞きたいことがあるんですけど良いですか?」
「ん? いいよ!」


 そして彼に久遠に言われた事をそのまま叢雲さんに伝えた。すると、叢雲さんはあっけらかんとこう答える。


「うん、思ってた」
「そうなんですか? それ位わかりやすかったです……?」
「……その口調だと、無自覚? おかしいな。しーちゃんの周りに大太刀を使う人いないし、俺を真似したわけでもないんだよね?」
「そうですね、戦い方の参考にしたことはありますが……」


 俺はそう思いながら自分の今までの出来事を一つ一つ思い出す。今まで俺は兎に角他の俺と同じような代理人と神様の繋がりを切っていた。その間に、変わったことがあったかと言えばやはり夢、だろうか。
 そういえば、最近その夢を見ると記憶にないのに既視感を感じるときがある。そして、それがとてつもなくおかしくて違和感があった。見たことのない景色、人、物。覚えがないはずなのにあるような……。
 その感覚はまるで誰かの記憶を見せられているようなもののようだ。


「うーん、ちょっと気になるね……」
「まあでも、気づかなかったって事は馴染んでいるということだろうと思うのであまり気にしないことにします! ありがとうございました」


 そう俺が言うと外から「ごめんください」と声が聞こえた。誰だろうかと思っていると叢雲さんは知っているようではいはいっと腰を上げてそちらに向かう。俺は今小夜ちゃんに抱きつかれているためあまり動けないので行けなかった。


「うちのが悪いな、しーちゃん」
「輝夜先生!」
「私たちもいるよ」
「しーちゃん、久しぶり」
「瑠奈お姉ちゃんに瑠衣お兄ちゃんも!」


 そこには彼らがいた。今、この三人は黒狗の任から解かれて別の仕事をしているようだった。確か輝夜先生は小さなお医者さんで瑠奈お姉ちゃんと瑠衣お兄ちゃんは、なんと袋尊で雇われて使用人となっている。彼女たちの実力からてっきり雇われ用心棒のようなことをすると思っていたから。


「小夜を回収しに来た」
「あ、寝てるので丁寧に……」
「一回寝たら起きねえから大丈夫だ」


 ぐでんっと伸びている小夜ちゃんを小脇に抱えた輝夜先生にそんな持ち方だとよくないのでは?と思うがぐっすりと気持ちよさそうに小夜ちゃんが寝ているので何も言わないことにした。


「二人はどうしてここに……?」
「しーちゃんに会いに来た」
「大きくなったね」
「あ、はい」


 子供の頃より伸びたとは言え、女性の瑠奈お姉ちゃんより少し低い。瑠奈お姉ちゃんが大きいのか、俺が小さいのか、あるいは両方か。少し悔しい。
 わしゃわしゃと二人から頭を撫でられながらそんなことを思っていると不意に二人は叢雲さんを見た。


「貴方も、無事で良かったです」
「怪我はありませんか?」
「え? ああ、大丈夫大丈夫」


 叢雲さんとも面識があったようだ。彼は軽くそう答えると二人はそうですかと頷いた。


「じゃ、俺たちは帰るな」
「うん」
「あ。隊長……じゃなくて鉄二さんも時間があれば来たかったって言ってた」
「いえそんな! 今清香さんが妊娠中でしょう? そんな大変なときですから俺に気を遣わなくて大丈夫ですとあったら伝えてください」
「分かった。でもそこまで気遣わなくても大丈夫。貴方は私たちの未来を変えた奇跡の子だから」
「え……?」


 瑠奈お姉ちゃんの言葉にどきりとした。未来を変えたとはっきり言われたからだ。だから動揺していると瑠衣お兄ちゃんがその言葉に続いて話をする。


「ほら、先帝の奥方様を助けたでしょ? きっと死んでたら、恐らく先帝様がおかしくなってたと思うから」
「あーそれはあるな。もとより、先帝はこの都なんてどうでも良いから。都が潰れても自分の家族が無事ならそれでいいと思って都から離れたところに住居を構えたんだろ? まあ、それが原因で対応が遅れたが……」
「そう、なんですかね……?」
「うん、そう」


 もしかしたらの可能性の話だったかとほっとしながらも俺はどうにかそう答える。なんだか立て続けにこんな話を聞いている気がする。


「多分、燕のことも気づかないままだっただろうな」
「うん」


 輝夜先生の言葉に瑠奈お姉ちゃんが少し悲しそうな声を出す。
燕さん。彼のことを思い出すと、とても苦しくなる。彼は、ただ、妹の鶫ちゃんを助けたいという一心でいろんな人を巻き込んで殺した。
 その行いは絶対に許してはいけない。でも――。


「あいつは、してはいけないことをしたけど理解は出来る。俺も同じ事をする」
「だめ。私は嬉しくない」
「そういうところは、似てないなお前ら。ま、どちらにせよ燕はそうなる覚悟はあったんだろうよ」
「そう、ですね……」


 燕さんだって死ぬ覚悟はあったはずだ。あんなにも人の命を奪ったのだから。目的のためならば、何でもして良いわけがない。


「ま、この話は終わりだ。帰るぞ」
「うん。変なこと話してごめんね」
「いえ、皆さんの元気な姿を見られて良かったです」


 そう言って彼らを見送る。漸く小夜ちゃんから解放されて後片付けをしようと腰を上げると叢雲さんが「いいよいいよ」といって背中を押した。


「え、あの、片付け……」
「俺がやるからしーちゃんはもう休んで! 部屋はそのままだから!」
「いや俺も手伝い……」
「いーから! おやすみなさい!」
「お、おやすみなさい……」


 結局叢雲さんに閉め出されてしまい、俺はこの屋敷で過ごしていた部屋に向かう。すでに、俺の布団も用意してくれていて綺麗に畳の上に敷かれていた。
 俺はありがたくその布団の中に入って、先ほどの宴会の事を思い出す。
 今日は、なんだかいろんな人に感謝された日だったような気がする。変な話、彼らにはやり直し前の記憶がないのにあんな言葉をもらえるとは思わなかったのだ。


「俺のお陰かぁ……」


 少しだけ、その言葉に胸が温かくなってそのまま俺はうとうとと瞼を落とした。
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