【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

文字の大きさ
上 下
184 / 208

2

しおりを挟む
 他の子には会ったのかと梓さんに聞かれてまだだと答えた。昨日帰ってきてそのまま皇宮にいたので誰とも話していないのだ。俺がそう言うと、七宝として選ばれている者は今招集がかかっているから難しいという。だったら仕方ないと話は終わるかと思いきや、駆君がこう提案してきた。


「じゃあ他の人に会おうよ!」
「え……?」


 ということで、駆君に引っ張られて俺は今叢雲さんの屋敷にお邪魔している。


「しーちゃんお帰り」
「た、只今帰りました、紫さん」


 紫さんに出迎えられて久しぶりの彼らの家にお邪魔する。俺の本当の実家ではないのに帰ってきたと思うのは恐らくそれ位この家に思い入れがあるからだ。それもそうだろう。俺を保護してくれた優しい二人の家なのだから。


「大きくなったね。昨日帰ってきた兄さんから聞いてたけど想像以上だよ」
「はい。少しは伸びました」


 とはいえ、ここにいる人たちより一番小さいのだが。やはりやり直し前と同じように俺の身長は思ったより伸びなかった。一番小さかったのは黒天の子だったけど……。
 彼のことを思い出して首を振る。黒天の当主家族はまだ行方不明扱いらしいが、恐らく死んでいるだろう。俺を刺したのは彼らに復讐する力が欲しかったからだろうから。


「しーちゃん!! お帰りなさい~!」
「あ、ただ、いま……?」


 てっきりこれからみんなが来るのかと思いきや、すでに彼らがそこにいた。彼らが揃って出迎えてくれて思わず驚いていると紫さんがこっそり今朝から俺のことを待つために来ていたと教えてくれる。
 そこにいるのは、拓海君、月彦君、柊君、小夜ちゃんの四人だ。彼らも昨日の儀式に出席していたので顔だけ見ていた。彼らも大きくなって、やはり男性の中では俺が一番小さい。
 ……もう少し、背が欲しかった、かも。


「帰還祝いに軽い宴会を開こうと思ってさ! お互いの家に行くと色々問題になりそうだから」
「柊先輩の言うとおり、ちょうど良い場所がここだったから準備してたんだ」
「はい。私も輝夜お兄ちゃんに教えて貰って色々作ってきました!」
「本当は、内緒にして連れて行きたかったけど、変な噂を聞いたから予定変更でとりあえずしーちゃんと会おうってなった訳」


 柊君、月彦君、小夜ちゃん、最後に拓海君がおのおの説明をしてくれる。俺のために準備をしてくれたと思うと胸が温かくなる。こんなことして貰うなんて思わなかったからとても嬉しい。


「ありがとう、みんな」
「いいえ! 俺たち全員しーちゃんがいないと繋がりがあまりなかった関係だからね~。しーちゃんのお陰で俺たちここにいるから」
「え? そ、そんなことはないと思うけど……」


 また俺のお陰でなんて言葉を聞いた。戸惑ってそう答えると四人は顔を見合わせてそれから笑い合う。


「いやいや、まず俺と兄さんの関係が悪化したままだと思うからここに俺はいないでしょ?」
「と、なると、尊と俺と月彦がどうなるかだけど、俺の家が本家様にこび売ってるからな~。婚約者候補にしようと躍起になるだろうから二人と疎遠になるだろうね」
「そうだな、そうなると俺もお二人と会うことはなく成長すると思うからこんなことはしないな」
「そもそも私は、しーちゃんと仲が良い宗太君と接点を持たない限りここにはいないです……」


 そんな四人の続々と出てくる言葉にぱちくりと目を瞬かせる。そこまで考えられるのかという気持ちと、やり直し前ではそうなったから彼らと接点がないのかもしれないと考えられた。
そんな彼らの考えに、俺は緩く首を振る。


「そ、それは、俺のせいで……」
「いや、しーちゃんのお陰でしょ?」
「!」


 不意に後ろから声がしたと思えばそこには叢雲さんがいた。それからビシッと腕を垂直に上げる。


「ちなみに! 俺はしーちゃんのお陰であのとき死ななかったのではないかと思っております!!」
「俺はしーちゃんのお陰でそのときに兄さんが死ななかったので、どうにかこうにか生きてまーす」


 彼の後ろにいた紫さんも小さく手を上げて主張した。そんなはずはないだろう。叢雲さんの実力を持ってすれば妖魔がたくさんいたとしても生き残りそうだ。守る対象がいなければ。
 でも、そうか。叢雲さんのような実力者をやり直し前で見たことがない。死んだという可能性はあるかもしれないが、それは俺のお陰で生き延びられたという事ではないだろう。たまたま運が良かったのか、俺が変えてしまった事によって出来事が変化したのかもしれないし。


「だから、何を気にしてるのか分からないけど「しーちゃんのせい」じゃなくて「しーちゃんのお陰」だって事はちゃあんと分かってね?」


 叢雲さんがそう言って軽く俺の頭を撫でる。俺はそれを受け入れながらも彼らの顔を見た。
誰も、自分たちの言葉に疑いを持たず俺のお陰でここにいると思っているようだった。


「じゃあ、みんな仲良くなれて良かったの……?」


 彼らがやり直し前でどんな関係を持っていたのかなんて知らない。俺は、彼らをあまり見たことがないから。
 だから少し不安になってそう言ってしまうと彼らは深く頷いた。


「勿論。仲の良い友人と頼れる仲間がいるなんてとても恵まれていると思うよ」


 拓海君がそう言った。そんな優しい言葉をかけてくれるなんて流石だ。
 そして、俺も彼らの仲間で友人だと思えるくらいの関係であることにとても嬉しくなった。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...