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かれらの未来を潰した責任

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 絶対に無茶はしないでね?と久遠に念を押されながら俺は皇宮を後にする。久遠は帝としての仕事があるし、俺は弟の動向を探らなければいけない。
 今俺がやる事は……。


「しーちゃん!」


 皇宮からこっそりと外に出ると声をかけられた。その声にすぐに誰だか分かって振り返る。


「駆君。梓さん」
「久しぶり!」


 駆君が手を振ってこちらに駆け寄ってきた。そんな駆君を後ろから梓さんが追いかけてくる。
 彼ら二人は、婚約者になった。梓さんの鈍感ぶりに駆君の思いが通じないかもしれないと周りは心配していたが、彼の粘り強く諦めない心が梓さんに伝わったようだ。


「婚約おめでとう。直接言えなかったから」
「いいよ別に! しーちゃんのお陰だもの!」
「いや、俺は何も……」
「そんなことはない。しーちゃんがいなかったら、恐らく俺は死んでただろうから」


 駆君の言葉に俺はそう返すが、梓さんがそう言った。
 確かに、そうかもしれない。久遠が間に合わなかったら死んでいた可能性が高かったと晴臣さんから聞いていたから。あのときの二人にはとても感謝している。俺だけでは、恐らく駆君は助けられても梓さんが死んでいたと思うから。
 そう考えると、本当俺は助けられてばかりだ。


「まあ、もうこの話はいいか。ところで、しーちゃん、帝の愛人だって噂が広がってるけど、大丈夫?」
「ああ、そうだ。暫く一人でいない方が良いんじゃないか?」
「大丈夫。その帝がくお……くーちゃんだから」
「え……?」


 二人が揃って声を上げる。俺はその様子を見て軽く苦笑を漏らした。久遠は、もう自分が帝であることを隠す気はないようだった。俺の突拍子もないあの前の話を聞いてならばもっと違うことをしようと仮面も声を変えることもやめて職務を全うしている。


「……じゃあ愛人じゃなくて皇后、なのか?」
「今度言ってた奴がいたら、そう訂正するね!」
「だ、大丈夫だからそのままにしておいて」


 俺の噂はそのままでいい。昨日の今日でそんな噂を流す奴なんて一人しかいない。だから、彼を油断させるためにもその噂は放置でいいのだ。


「ええ、なんで?」
「それは、誰がそんな噂を流したのか知ってるし、仕返しするためにも油断させようと思って」
「!」


 俺の言葉に、すぐ二人は予想できたらしい。昨日のあの場には梓さんがいたので俺と彼らの関係なんてすぐに分かるだろう。叢雲さんの屋敷に身を寄せていたのだって知っているのだからどんな扱いを受けてきたのか想像に難くない。


「協力できることがあったら言って! あいつ、この前あず兄に色目使ってきたから!!!」
「え? そうなの……?」


 前では梓さんに会ったことがないからそんなことはなかったけれど、やはり色々変わっているから彼の行動も変わっているのだろう。


「そうだよ!! どうせ、福禄の当主だから近づいたんでしょうけど! 婚約者がいるのによくもまあそんな態度とれるよね!!って感じ!」
「あのときは本当にすまない。俺の言葉をあまりくみ取ってくれないようで……」
「というか、自分に良いように解釈しすぎでしょ」
「あの子は、そういうところがあるから……。迷惑かけてごめん」
「しーちゃんが謝ることないよ!! あんな家にいなくて正解!」


 今度会ったら睨みつけてやるんだと駆君は息巻いていた。そのことに苦笑を漏らす。
 前の彼を知っているからこそ、少し複雑だ。


「駆君は、今幸せ?」


 だから思わずそう聞いてしまった。あまりにもかけ離れた今にそう口をついてしまう。そんな俺に駆君はきょとんとした。それからふわりと笑顔を見せて梓さんの腕に抱きつく。


「勿論! 俺は幸せだよ」
「……そっか、それなら、良かった」


 彼の幸せそうな笑みに釣られて俺も顔を緩めた。

 もっとも、俺の都合の悪い未来をなかったことにしてしまったことに変わりはない。だから、最後までその未来を完全になかったことにしなければいけない。
 それが、恐らく俺がやり直しをして数々の可能性を潰した責任なのだから。
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