183 / 208
かれらの未来を潰した責任
しおりを挟む絶対に無茶はしないでね?と久遠に念を押されながら俺は皇宮を後にする。久遠は帝としての仕事があるし、俺は弟の動向を探らなければいけない。
今俺がやる事は……。
「しーちゃん!」
皇宮からこっそりと外に出ると声をかけられた。その声にすぐに誰だか分かって振り返る。
「駆君。梓さん」
「久しぶり!」
駆君が手を振ってこちらに駆け寄ってきた。そんな駆君を後ろから梓さんが追いかけてくる。
彼ら二人は、婚約者になった。梓さんの鈍感ぶりに駆君の思いが通じないかもしれないと周りは心配していたが、彼の粘り強く諦めない心が梓さんに伝わったようだ。
「婚約おめでとう。直接言えなかったから」
「いいよ別に! しーちゃんのお陰だもの!」
「いや、俺は何も……」
「そんなことはない。しーちゃんがいなかったら、恐らく俺は死んでただろうから」
駆君の言葉に俺はそう返すが、梓さんがそう言った。
確かに、そうかもしれない。久遠が間に合わなかったら死んでいた可能性が高かったと晴臣さんから聞いていたから。あのときの二人にはとても感謝している。俺だけでは、恐らく駆君は助けられても梓さんが死んでいたと思うから。
そう考えると、本当俺は助けられてばかりだ。
「まあ、もうこの話はいいか。ところで、しーちゃん、帝の愛人だって噂が広がってるけど、大丈夫?」
「ああ、そうだ。暫く一人でいない方が良いんじゃないか?」
「大丈夫。その帝がくお……くーちゃんだから」
「え……?」
二人が揃って声を上げる。俺はその様子を見て軽く苦笑を漏らした。久遠は、もう自分が帝であることを隠す気はないようだった。俺の突拍子もないあの前の話を聞いてならばもっと違うことをしようと仮面も声を変えることもやめて職務を全うしている。
「……じゃあ愛人じゃなくて皇后、なのか?」
「今度言ってた奴がいたら、そう訂正するね!」
「だ、大丈夫だからそのままにしておいて」
俺の噂はそのままでいい。昨日の今日でそんな噂を流す奴なんて一人しかいない。だから、彼を油断させるためにもその噂は放置でいいのだ。
「ええ、なんで?」
「それは、誰がそんな噂を流したのか知ってるし、仕返しするためにも油断させようと思って」
「!」
俺の言葉に、すぐ二人は予想できたらしい。昨日のあの場には梓さんがいたので俺と彼らの関係なんてすぐに分かるだろう。叢雲さんの屋敷に身を寄せていたのだって知っているのだからどんな扱いを受けてきたのか想像に難くない。
「協力できることがあったら言って! あいつ、この前あず兄に色目使ってきたから!!!」
「え? そうなの……?」
前では梓さんに会ったことがないからそんなことはなかったけれど、やはり色々変わっているから彼の行動も変わっているのだろう。
「そうだよ!! どうせ、福禄の当主だから近づいたんでしょうけど! 婚約者がいるのによくもまあそんな態度とれるよね!!って感じ!」
「あのときは本当にすまない。俺の言葉をあまりくみ取ってくれないようで……」
「というか、自分に良いように解釈しすぎでしょ」
「あの子は、そういうところがあるから……。迷惑かけてごめん」
「しーちゃんが謝ることないよ!! あんな家にいなくて正解!」
今度会ったら睨みつけてやるんだと駆君は息巻いていた。そのことに苦笑を漏らす。
前の彼を知っているからこそ、少し複雑だ。
「駆君は、今幸せ?」
だから思わずそう聞いてしまった。あまりにもかけ離れた今にそう口をついてしまう。そんな俺に駆君はきょとんとした。それからふわりと笑顔を見せて梓さんの腕に抱きつく。
「勿論! 俺は幸せだよ」
「……そっか、それなら、良かった」
彼の幸せそうな笑みに釣られて俺も顔を緩めた。
もっとも、俺の都合の悪い未来をなかったことにしてしまったことに変わりはない。だから、最後までその未来を完全になかったことにしなければいけない。
それが、恐らく俺がやり直しをして数々の可能性を潰した責任なのだから。
39
お気に入りに追加
3,590
あなたにおすすめの小説
兄に魔界から追い出されたら祓魔師に食われた
紫鶴
BL
俺は悪魔!優秀な兄2人に寄生していたニート悪魔さ!
この度さすがに本業をサボりすぎた俺に1番目の兄が強制的に人間界に俺を送り込んで人間と契約を結べと無茶振りをかましてきた。
まあ、人間界にいれば召喚されるでしょうとたかをくくっていたら天敵の祓魔師が俺の職場の常連になって俺を監視するようになったよ。しかもその祓魔師、国屈指の最強祓魔師なんだって。悪魔だってバレたら確実に殺される。
なんで、なんでこんなことに。早くおうち帰りたいと嘆いていたらある日、とうとう俺の目の前に召喚陣が現れた!!
こんな場所早くおさらばしたい俺は転移先をろくに確認もせずに飛び込んでしまった!
そして、目の前には、例の祓魔師が。
おれ、死にました。
魔界にいるお兄様。
俺の蘇りの儀式を早めに行ってください。あと蘇ったら最後、二度と人間界に行かないと固く誓います。
怖い祓魔師にはもうコリゴリです。
ーーーー
ざまぁではないです。基本ギャグです(笑)
こちら、Twitterでの「#召喚される受けBL」の企画作品です。
楽しく参加させて頂きました!ありがとうございます!
ムーンライトノベルズにも載せてますが、多少加筆修正しました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
狐の嫁入り〜推しキャラの嫁が来たので、全力でくっつけようと思う〜
紫鶴
BL
俺はその日、全てを思い出した。
「御館様ぁ!大変です大変です!御館様の未来のお嫁さんが現れましたぁ!!!」
「……はあ?」
そう、ここが前世でやり込んだ18禁BLゲーム「花嫁探し」の世界だということを!!なんで思い出したかって?その主人公が現れたからさ!!これはぜひとも御館様ルートに入ってきゃっきゃうふふの人生を間近で見たい!!生で見たい!スチル見たい!!
御館様!任せてください!俺絶対貴方と主人公君くっ付けますから!!
ーーーー
妖和風ファンタジー。設定はふわっとしてますのであしからず。
第7回BL大賞参加中です!
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる