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告白

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目を見張るほどの美しさだ。金色の髪は短く切りそろえられており、すらりと伸びた四肢に真珠のような肌。兎に角、彼は綺麗なお人形のようだった。

 弟が呆けるのもよく分かる。俺でさえ驚きと衝撃で絶句していた。





「どうしたの? 何かある?」

「綺麗な、貴方の顔がある……」

「……えへ」





 久遠の言葉に思わずそう答えると彼は照れたように笑みを浮かべた。その表情は少し可愛くて昔の面影がある。思わずそっと彼の頬に手が伸びるが「あの!!」と弟の声に我に返った。





「み、帝様……ですか……?」

「そう」

「あ、の僕……っ!」

「ああ、七宝は呼ばれてるみたいだよ。早く行けば?」





 理央が何かを言おうとするが、久遠がそう言ってすっと視線を外に向ける。すると、そこには九郎と他に七宝の者が集まっていた。





「兄よりも責任を全うできる、だったかな? まあ、頑張って」





 久遠がそう言うと、器用に俺の腰に手を滑らせて掴んだ。そのまま歩き出すので俺は彼にくっつきながらついていく。チラリと最後に彼らを見ようとしてすっと目元に手が置かれた。





「あいつらばっかり見ないで僕にかまって」

「……え、あ」





 目元を覆っている彼の手をそっと外すと、久遠はむすっと頬を膨らませていた。先ほどまで威厳がある帝であり、絶世の美青年だった彼が幼い頃の可愛い表情を見せて思わず吹き出してしまう。





「……何で笑ってるの」

「くーちゃんが可愛くて」

「そーぉ? じゃあ可愛いくーちゃんを慰めて欲しいんだけど」





 そう言って肩口に頭をおかれて俺は耐えきれずに笑いながらも彼の頭を撫でた。

 彼に優しく触れられる距離にいる。数年ずっと待ち望んでいた。





「ただいま」

「……お帰りなさい」





 漸くそう口にすると、とろりと蕩けるような優しい声で久遠がそう返してくれた。



***



「それで、な~んであんな挑発するようなこと言ったの?」





 あのまま皇宮の、恐らく久遠の私室まで連れて行かれた。道すがらなぜか誰にも会わなかったが、久遠が手を回したのだろう。そうして彼の部屋に入るとすぐにここに座ってといわれて柔らかい座布団に腰掛けた。そして久遠は俺の膝に頭を乗せてそう聞いてくる。俺はすぐに困った表情を浮かべた。





「ちょっと、仕返しをしてみようかなって」

「えー!! そうならもっといえば良かったのに!!」

「い、いや、あれでも結構色々やったから大丈夫」





 久遠がそう言って大層残念がるのですかさずそういった。それから久遠をじっと見つめてもう一度笑った。





「本当、大きくなったねくーちゃん」

「そうでしょ? もうしーちゃんの身長超しちゃったから!!」





 久遠がそう言って体を起こし、ぐっと顔を近づけてくる。どうしたんだろうかと不思議に思っていると軽く唇が触れあった。

 え、いや、え……?

 突然の出来事に完全に固まっていると、久遠の顔が離れた。そしてにっこりと笑みを浮かべる。





「お帰りのちゅーしてなかったから」





 そういう久遠に一瞬ああ確かにしてなかったなと思ってしまったがすぐに我に返る。





「……い、いや、いやいやいや!!」

「どうしたの?」

「ど、ど、え……?」





 動揺を隠しきれず、そして接吻をされたという事実に顔を真っ赤にする。今までは、頬に触れるだけだったのにまさか唇にされるとは夢にも思わない。

 そこで、先ほど久遠が宣言したことを思い出す。会えたことの喜び方が勝ってすっかり聞き逃していた。





「そ、そういえばさっきの! さっきのなんであんなこと言ったの!?」

「あんなこと……? 僕何か変なこと言った……?」

「言った! 俺をあ、あ、愛してるって! あんな言い方だと勘違いされて当然だよ! 早めに何か言わないと大変なことに……っ!!」

「どうして? 困る事なんて何も無いけど? 僕がしーちゃんを大好きで愛してるのは事実だもの」

「!?」





 十年も久遠とは離れていた。お互いに大人になってそれなりに見識も広がって考えも変わっているだろう。都の中には俺以上に美人で力もあって能力も高い人物がたくさんいる。だから、俺を選ぶのはおかしい。





「え、えーっと、くーちゃん。それは、家族的な……?」

「? 分かんないけど、しーちゃんと子作りしたい位に好き」

「!!??」





 これ以上顔を赤くなることなんてあるのだろうか。逃げ出したいのに、久遠がいつの間にか腰を掴んでいて身動きがとれない。俺ができる事は必死に視線をそらすことだけだ。





「ねえ、しーちゃん。どうしてこっち見てくれないの? 僕の気持ちを疑ってるの? 僕はずっとしーちゃんが好きだよ。しーちゃんが欲しい」

「お、俺に好かれる要素は一つも……っ!」

「あるよ。あるある。一番最初は、強いところ! しーちゃんが母さんと晴ちゃんを助けてくれたでしょ? あの時は本当に助けてくれてありがとう。多分、あの時二人が死んでたら僕は思い出したくなくて全部忘れてしまったかもしれない。あとは、僕が何をしても離れないところ。割と僕異質だったと思うんだけど怖くなかったの?」

「くーちゃんが怖いと思う事なんて無いよ」

「うん。だからしーちゃんは僕にとって特別なの」





 それだけ?今ではたくさんの人に囲まれている久遠がそれだけで俺を特別に思うなんて……。





「そんな、ことは、そんなことはないよ。俺は幸運だっただけで……」

「もう! そういうのは良いよ! しーちゃんは! 僕のこと好きなの? 嫌いなの?」

「!」

「僕は、しーちゃんがどちらを選んでも構わない。でも、答えが欲しい。お願い」





 そう言って久遠が切なげに俺を見つめる。俺はぐっと唇をかんだ。俺の気持ちなんて、分かっている。だって俺の一番は変わらずに久遠だから。





「俺も、久遠が好き」





 俺の気持ちが動いたのは、いつだって彼のことばかりだ。

 本当にこれは俺が生み出した妄想でも、夢でもないのだろうか。思いっきり自分の頬を叩こうとしてふわりと久遠に抱きしめられた。





「よかったぁ。えへへ、これでもうしーちゃんは僕のものだね!」

「……うん」





 温かい彼の体温に包まれながら、震える声で俺はそう言った。



――不意に、何か固い物が当たる。びくっとそれに驚いて体を震わせると久遠が慌てて離れた。



「ご、ごめん! そんな気は無くて……っ!!」





 そう言って恥ずかしそうに顔を赤くして離れる久遠。俺は徐々に徐々に何が当たっていたのか理解して火がついたように顔を真っ赤にした。

 今まで、そう言った色事に興味が無くこれからもそうやって俺は生きていくのだと思っていた。しかし、しかしだ。こうやって久遠と結ばれたからにはそう言うこともあるわけで。大体にして、先ほど子作りしたいくらいと言った久遠がその先を考えていない訳がない。



 告白して、両思いになって終わりではないのだ。



 であれば、経験が無いにしろ年上の俺がここはどうにかするしかないのでは?



 俺はそう思って、離れていく久遠の腕を掴んだ。





「え、しーちゃん……?」

「そ、それ」

「え? あ、ああ、しーちゃんはきにし……」

「俺が、俺が、なんとかする!」





 俺は、そう意気込んで力強くそう言った。

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