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別れ、そして
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「なんでしーちゃんが行かないといけないの?」
にっこりと笑顔で久遠はそういった。
ここに至るまで、俺はほかのお友達に会った。鶫ちゃんが人形であの事件で動かなくなってしまったことも聞いた。なんとなく、燕さんが叶えたかったお願いが分かった気がした。それでも、許されないことだが。
彼らにも事情を話し、悲しまれたが手紙を書くと約束して別れた。
そして久遠にも同じように説明をしたのだが……。
「え、あ、選ばれたからかな?」
予想に反して久遠はそう俺に詰めてきた。俺は思わずそう答えるが、久遠はゆっくりと首を傾げる。
「何でしーちゃんを選んだの? 今すぐ変えて神様なんでしょ? ほら早く」
「無理です。永遠の別れではありませんし、ほら、この方も一緒について行きますから安心安全な旅ですよ」
「ふざけてるの? 僕は真剣に話してるんだけど」
「こちらも真剣ですが」
久遠と雫さんがそう淡々と話をする。俺はその間でオロオロとするしかない。
だんだんと熱がこもって行く言い争いにその場に同席している沙織さんがぱんっと手をたたいた。
未だに久臣さんは回復できておらず、九郎も術者の法術にかかって治療中らしい。まだあの事件から数日しか経っていないのだ仕方ない。直接謝りたかったし、事情を説明したかったが時間があまりないので待つわけにも行かずこんな形になった。
「くーちゃん、あのねしーちゃんにはやるべき事があるのよ」
「でも、それしーちゃんがやらないといけないの?」
「ええ、そうなの。だからくーちゃんは我慢して待つしかないのよ。それから、今くーちゃんがいろいろ言ってもしーちゃんは絶対に曲げないって分かってるでしょ?」
「……でも、いや」
「ね? ここは、行ってらっしゃいって言ってあげましょう? 喧嘩別れみたいになったら嫌でしょ?」
「……」
沙織さんは優しく諭すように話しをしていた。久遠はそれを黙って聞いてそしてきゅっと俺の裾をつかむ。
「くーちゃんにも、手紙くれる?」
「……あ、うん、勿論」
久遠が望むならば何枚でも書く。そう思って答えるとぐっと唇を噛んだ久遠がぎゅーっと俺に抱きついた。
それからいつも首に提げているものをとって俺に渡す。
「これ!」
「え、これ久臣さんにもらった貴重なものだよね……」
「うん。貸すから、だから、絶対に返しに来て!」
そう言って久遠が俺の首それを下げる。俺はそれはできないと返そうとして沙織さんにやんわりと止められた。
「もっていってあげて。しーちゃんお願い」
「……分かりました。ありがとう、くーちゃん。絶対に返しに来るね」
久遠が覚えてなかったら、沙織さんに渡せばいいかな。そう思いながらきゅっと久遠からもらったそれを握りしめた。
今日はお泊まりをして一緒に寝ようと久遠と同じ布団に入る。こうやって寝るのは久しぶりな気がする。
「しーちゃん、怪我大丈夫?」
「うん、平気。それよりも、何も知らないとはいえ久臣さんに変なもの食べさせてごめんね。謝って済むようなことじゃないけど……」
「別にいいよ。死んでないし。それよりもしーちゃんが心配。僕がいないところで絶対に死んじゃだめ」
「……うん、分かった」
「本当に?」
「大丈夫。雫さんも叢雲さんもいるし」
俺がそう言うと久遠がくるりと反転してうつ伏せの状態になり俺を見る。そしてむすっとした表情になった。
「僕、あの雫っていうの嫌い」
「え、どうして? 雫さん優しいよ?」
「だってあいつ、しーちゃんのこと冷めた目で見てる」
「……そう?」
いつも笑顔の雫さんにそんな目で見られただろうかと首を傾げる。
「あいつと二人きりにならないで。絶対に叢雲さんと一緒にいて」
「うんわかった」
「絶対だよ。あと、ほかのところに行っても、僕以上に大事な人作らないで」
久遠の言葉にきょとんとした。むうっと頬を膨らませて不機嫌な表情を浮かべる彼に嫉妬をしているのだろうと思うと可愛く感じた。なでなでと頭をなでると久遠は甘えるように俺の胸に顔を埋めた。
「返事は?」
「ふふ、勿論だよ。俺は生涯久遠以外の一番を作らない」
「絶対?」
「絶対」
俺がそういうと久遠はニコッと笑みを浮かべた後に目をつぶる。そして暫くして寝息が聞こえてきた。俺も彼のその規則正しい音に眠気を誘われて静かに目を閉じた。
そして俺は生まれ育ったこの都を初めて離れた。
やり直し前でも遠くの都まで行ったことのない俺にとってその旅は未知のものだった。手紙にはいっぱい書くことができてその度に返ってくる手紙が楽しみになっていた。
こういう手紙のやりとりも俺にとっては初めての経験だ。
久臣さんと九郎が回復して見送ることができずに悔しがっていたことや、霊峰院にみんな入ることができたことなどが書かれていた。九郎と久臣さんに手紙で謝罪と感謝の言葉を連ね、術者として働けるようになった彼らに祝辞を述べた。できれば俺が直接言いたかったが、便利な乗り物も法術も使えないのでそれは叶わない。
俺の負担にならないようにと言うことである程度日を置いて代わる代わる送られる手紙たち。
しかし、その中でも久遠は日を置かずに手紙がやってくる。この前なんかたまりすぎで何通も来ていた。久遠はマメなのだ。
それを嬉しく思う反面、いつかは要らなくなってしまうと思うと胸が痛い。今だけはこの余韻に浸っていようと思う。それぐらいは許してくれる。
俺は目的のため、燕さんと同じように人を殺す覚悟だったが、俺の大太刀は特別なもので人を殺さずに神様との契約を断ち切る代物だったらしい。
その威力は絶大だ。彼の言われたとおりに人を斬ると彼らは気絶し、力を失うようだった。生かしたまま罪を償ってもらうため役人に引き渡した。
ただ気になるのは、彼らを斬るたびに雫さんが傷ついてしまうことだ。神様を斬ることと同意義らしく同じような存在の雫さんにも影響があるらしい。ならば殺した方がいいかと思ったが、雫さんは回復するから大丈夫だと優しく言ってくれた。申し訳なさでいっぱいだが、普通に叢雲さんがいざとなったら俺がやると言いだしたのでこの話はやめになる。
そうして一年、二年それ以上の時が過ぎた。
俺は20歳になった。
にっこりと笑顔で久遠はそういった。
ここに至るまで、俺はほかのお友達に会った。鶫ちゃんが人形であの事件で動かなくなってしまったことも聞いた。なんとなく、燕さんが叶えたかったお願いが分かった気がした。それでも、許されないことだが。
彼らにも事情を話し、悲しまれたが手紙を書くと約束して別れた。
そして久遠にも同じように説明をしたのだが……。
「え、あ、選ばれたからかな?」
予想に反して久遠はそう俺に詰めてきた。俺は思わずそう答えるが、久遠はゆっくりと首を傾げる。
「何でしーちゃんを選んだの? 今すぐ変えて神様なんでしょ? ほら早く」
「無理です。永遠の別れではありませんし、ほら、この方も一緒について行きますから安心安全な旅ですよ」
「ふざけてるの? 僕は真剣に話してるんだけど」
「こちらも真剣ですが」
久遠と雫さんがそう淡々と話をする。俺はその間でオロオロとするしかない。
だんだんと熱がこもって行く言い争いにその場に同席している沙織さんがぱんっと手をたたいた。
未だに久臣さんは回復できておらず、九郎も術者の法術にかかって治療中らしい。まだあの事件から数日しか経っていないのだ仕方ない。直接謝りたかったし、事情を説明したかったが時間があまりないので待つわけにも行かずこんな形になった。
「くーちゃん、あのねしーちゃんにはやるべき事があるのよ」
「でも、それしーちゃんがやらないといけないの?」
「ええ、そうなの。だからくーちゃんは我慢して待つしかないのよ。それから、今くーちゃんがいろいろ言ってもしーちゃんは絶対に曲げないって分かってるでしょ?」
「……でも、いや」
「ね? ここは、行ってらっしゃいって言ってあげましょう? 喧嘩別れみたいになったら嫌でしょ?」
「……」
沙織さんは優しく諭すように話しをしていた。久遠はそれを黙って聞いてそしてきゅっと俺の裾をつかむ。
「くーちゃんにも、手紙くれる?」
「……あ、うん、勿論」
久遠が望むならば何枚でも書く。そう思って答えるとぐっと唇を噛んだ久遠がぎゅーっと俺に抱きついた。
それからいつも首に提げているものをとって俺に渡す。
「これ!」
「え、これ久臣さんにもらった貴重なものだよね……」
「うん。貸すから、だから、絶対に返しに来て!」
そう言って久遠が俺の首それを下げる。俺はそれはできないと返そうとして沙織さんにやんわりと止められた。
「もっていってあげて。しーちゃんお願い」
「……分かりました。ありがとう、くーちゃん。絶対に返しに来るね」
久遠が覚えてなかったら、沙織さんに渡せばいいかな。そう思いながらきゅっと久遠からもらったそれを握りしめた。
今日はお泊まりをして一緒に寝ようと久遠と同じ布団に入る。こうやって寝るのは久しぶりな気がする。
「しーちゃん、怪我大丈夫?」
「うん、平気。それよりも、何も知らないとはいえ久臣さんに変なもの食べさせてごめんね。謝って済むようなことじゃないけど……」
「別にいいよ。死んでないし。それよりもしーちゃんが心配。僕がいないところで絶対に死んじゃだめ」
「……うん、分かった」
「本当に?」
「大丈夫。雫さんも叢雲さんもいるし」
俺がそう言うと久遠がくるりと反転してうつ伏せの状態になり俺を見る。そしてむすっとした表情になった。
「僕、あの雫っていうの嫌い」
「え、どうして? 雫さん優しいよ?」
「だってあいつ、しーちゃんのこと冷めた目で見てる」
「……そう?」
いつも笑顔の雫さんにそんな目で見られただろうかと首を傾げる。
「あいつと二人きりにならないで。絶対に叢雲さんと一緒にいて」
「うんわかった」
「絶対だよ。あと、ほかのところに行っても、僕以上に大事な人作らないで」
久遠の言葉にきょとんとした。むうっと頬を膨らませて不機嫌な表情を浮かべる彼に嫉妬をしているのだろうと思うと可愛く感じた。なでなでと頭をなでると久遠は甘えるように俺の胸に顔を埋めた。
「返事は?」
「ふふ、勿論だよ。俺は生涯久遠以外の一番を作らない」
「絶対?」
「絶対」
俺がそういうと久遠はニコッと笑みを浮かべた後に目をつぶる。そして暫くして寝息が聞こえてきた。俺も彼のその規則正しい音に眠気を誘われて静かに目を閉じた。
そして俺は生まれ育ったこの都を初めて離れた。
やり直し前でも遠くの都まで行ったことのない俺にとってその旅は未知のものだった。手紙にはいっぱい書くことができてその度に返ってくる手紙が楽しみになっていた。
こういう手紙のやりとりも俺にとっては初めての経験だ。
久臣さんと九郎が回復して見送ることができずに悔しがっていたことや、霊峰院にみんな入ることができたことなどが書かれていた。九郎と久臣さんに手紙で謝罪と感謝の言葉を連ね、術者として働けるようになった彼らに祝辞を述べた。できれば俺が直接言いたかったが、便利な乗り物も法術も使えないのでそれは叶わない。
俺の負担にならないようにと言うことである程度日を置いて代わる代わる送られる手紙たち。
しかし、その中でも久遠は日を置かずに手紙がやってくる。この前なんかたまりすぎで何通も来ていた。久遠はマメなのだ。
それを嬉しく思う反面、いつかは要らなくなってしまうと思うと胸が痛い。今だけはこの余韻に浸っていようと思う。それぐらいは許してくれる。
俺は目的のため、燕さんと同じように人を殺す覚悟だったが、俺の大太刀は特別なもので人を殺さずに神様との契約を断ち切る代物だったらしい。
その威力は絶大だ。彼の言われたとおりに人を斬ると彼らは気絶し、力を失うようだった。生かしたまま罪を償ってもらうため役人に引き渡した。
ただ気になるのは、彼らを斬るたびに雫さんが傷ついてしまうことだ。神様を斬ることと同意義らしく同じような存在の雫さんにも影響があるらしい。ならば殺した方がいいかと思ったが、雫さんは回復するから大丈夫だと優しく言ってくれた。申し訳なさでいっぱいだが、普通に叢雲さんがいざとなったら俺がやると言いだしたのでこの話はやめになる。
そうして一年、二年それ以上の時が過ぎた。
俺は20歳になった。
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