上 下
171 / 208

2

しおりを挟む
はっと俺は目が覚めた。



また知らない記憶である。知らない記憶のはずなのに既視感を覚えるそれに軽く頭痛がして頭を押さえた。

それから体を起こす。





「あれ、傷が……」





自分は紫乃君に不意を突かれて心臓近くを刺されたはずだ。死んだと思っていたのにどうして布団の上にいるのだろうと思って慌ててそこから飛び出そうとして「しーちゃん」と呼ばれた。





「お、わっ!」

「ふふ、おはようございます」

「お、おはようございます……」





俺の傍らにいたのは雫さんだ。蛇の姿ではなく、人の、式神の形をとっている。挨拶をされて思わずそう返して我に返った。





「久遠はっ!?」

「平気ですよ。都の結界も張られて復興作業に入っております」

「そ、そうですか……」

「それから、貴方を襲った者は死にました」

「そう、ですよね」





久遠が無事でよかったと思うと同時に燕さんのことを思い出して胸が痛い。でも、殺されそうになって同情まではしない。彼は、恐らく俺が知っている以上に人を殺しているだろうからその覚悟があったはずだ。



罪には罰を。そうでないと浮かばれない命があるだろう。





「傷は大丈夫ですか?」

「あっ! また怪我を治していただいてありがとうございました!!」





雫さんにそう言われて顔を上げる。そして顔を上げたら微笑んでいる雫さんがいた。



気にするなと言うことかもしれないし、俺に負担をかけないように黙っていてくれているのかもしれない。だからそれ以上感謝の言葉を口にすることはしないで彼の優しさに甘えることにした。

それに、彼には聞きたいことがあった。





「あの、燕さんが神様のお願いごととか言っていたんですが、雫さんは知っていますか……?」

「……それに関しては、先に謝罪を。申し訳ありませんしーちゃん。私は、貴方に無断その争いに巻き込みました」





雫さんがそう言って頭を下げるので慌てて俺が首を振って事情を聞く。

雫さんが言うには、七柱の神様がこの土地を巡って争いをしているようだ。神様自身がこの土地に降りて争いを始めると土地が荒れるのでその土地に住む人間を自身の分身代理人として立て、領地の争奪戦を行っているという。彼らにしては単なる遊戯感覚で、雫さんもかつては代理人に近い位置にいたが今は運によってその神様と同等の存在になっているそうだ。



だから、俺がお願いをしていなくても俺をやり直しさせてしまったという出来事が、「お願い」に換算されてしまい勝手に雫さんの代理人となっていたようだった。



それは雫さんのせいではないし、再び生を受けることができたのには深い感謝をしているので謝るのはもう良いと言った。



すると、雫さんは続けてこう話す。





「本来であれば、その都の帝になっておりますが、今は私ともう一柱だけでして……その神は毘沙門天といいます」

「毘沙門天……?」

「はい。七宝の名はその遊戯を行っている神様の名前からとったものでして、恐らく彼が残っているのも貴方が毘沙門の一族になったのも何かの縁だと思います」





そこで言葉を切り、雫さんは俺の手を取る。

そして真剣なまなざしで懇願した。





「しーちゃん。私は傲慢な神にこの土地を渡したくありません。こんなことをするような者にこの地に住む人々を大事にできるはずがない。私は、勝たなければいけないんです。それには貴方の協力が必要です。ですのでーーーっ!!」

「分かりました、雫さん。いくらでも協力します」

「え……」





雫さんの言葉に俺は穏やかにそう答えた。

彼の誠実な態度も何度も助けてくれた事実も記憶している。それに、燕さんに人殺しをさせるようなその毘沙門天様は信用できない。



俺は久遠がただ笑って過ごせれば良い。

そのための障害は何であれ、壊す。





「そ、そんな簡単に……。命の危険があるんですよ!?」

「そんなもの、生まれてからずっとですから変わりません」

「しーちゃん……」

「貴方に協力します。俺は貴方がこの土地の神様になって欲しい」





これは俺の本心だ。

この土地の神様になるならば絶対に雫さんが良い。





「ありがとう、しーちゃん」

「……いいえ。雫さんのためにも頑張ります!」

「私も、負けないように頑張ります」





雫さんは、そう言ってふわりと笑みを浮かべた。一瞬、ぞわりと悪寒が走るが気のせいだろうと俺も同じように笑みを浮かべて返事をする。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...