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代理人戦争
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「ごめんなさい、お兄様。でも、村が存続するためには仕方ないことなのです」
目の前の弟が涙を浮かべてそんなことを言う。
本心ではそんなこと思っているはずもないのによくもまあそんな嘘が言えるものだ。
自分のほかにもこの村に要らない人間がこの狭い小屋の中に押し込められていた。
ここ数ヶ月、日照りが続き作物が育たない。
神様から受けた啓示という名の雨乞いで生け贄が12人必要らしい。
巫である弟はそう言って、村人は12人の贄を用意したのだ。
みんな、同じように絶望して誰一人として進んで生け贄になんてなりたくないはずだ。それなのに、俺たちは大多数のための小さな犠牲にならなければいけない。
「地獄に落ちろ」
黙ったままそこにいる人たちの代わりに、俺はそう吐き捨てて弟に唾を投げかけた。かっと弟が目を見開いて、虫けらのような視線を向けた。それからゆがんだ笑みを浮かべる。
先ほどまでの兄を思う優しい弟ではない。化けの皮が剥がれた本性だ。
そんなことをしたってお前は死ぬんだよと思っているに違いない。
抵抗しないようにと足を切られて動けない俺にだって尊厳はある。
こんな奴らのために生け贄になるなんてまっぴらごめんだ。
しかし、目の前の扉は無情にも閉ざされてしまう。
昼間のはずなのに中は真っ暗になって周りが何も見えない。
―――と、何かが自分に向かってきた。
足は動かずとも抵抗はできる俺は簡単にそれを払うように拳を振ると何かに当たったような感触を覚える。それが十一回あった。
十一、十一……?
その数は、自分以外に集められた人数ではなかったかと気づいたときまばゆい光が差した。
「―――おめでとう、選ばれし人間よ」
光が七つ。
それらはゆっくりと近づいてきて、そしてーーー。
***
目の前の弟が涙を浮かべてそんなことを言う。
本心ではそんなこと思っているはずもないのによくもまあそんな嘘が言えるものだ。
自分のほかにもこの村に要らない人間がこの狭い小屋の中に押し込められていた。
ここ数ヶ月、日照りが続き作物が育たない。
神様から受けた啓示という名の雨乞いで生け贄が12人必要らしい。
巫である弟はそう言って、村人は12人の贄を用意したのだ。
みんな、同じように絶望して誰一人として進んで生け贄になんてなりたくないはずだ。それなのに、俺たちは大多数のための小さな犠牲にならなければいけない。
「地獄に落ちろ」
黙ったままそこにいる人たちの代わりに、俺はそう吐き捨てて弟に唾を投げかけた。かっと弟が目を見開いて、虫けらのような視線を向けた。それからゆがんだ笑みを浮かべる。
先ほどまでの兄を思う優しい弟ではない。化けの皮が剥がれた本性だ。
そんなことをしたってお前は死ぬんだよと思っているに違いない。
抵抗しないようにと足を切られて動けない俺にだって尊厳はある。
こんな奴らのために生け贄になるなんてまっぴらごめんだ。
しかし、目の前の扉は無情にも閉ざされてしまう。
昼間のはずなのに中は真っ暗になって周りが何も見えない。
―――と、何かが自分に向かってきた。
足は動かずとも抵抗はできる俺は簡単にそれを払うように拳を振ると何かに当たったような感触を覚える。それが十一回あった。
十一、十一……?
その数は、自分以外に集められた人数ではなかったかと気づいたときまばゆい光が差した。
「―――おめでとう、選ばれし人間よ」
光が七つ。
それらはゆっくりと近づいてきて、そしてーーー。
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