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燕
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あっさりと死んだ。
燕は拍子抜けだと思いながらもそのことにほっとする。
この子供は特別だ。その年齢に似つかない剣術と体術を持っており、法術が使えないというのを差し引いても大人顔負けでおそらく普通にやり合ったら燕が負けていただろう。
手に持っている海の向こうから渡ってきた銃を背中に背負い直してちらりと、人からもらった妖魔に変容するという薬を飲んだ紫乃が苦しみにあえいでいる姿を見る。守る相手が自分だけという状況ならば絶対に離れないと思っていたが予想通りだった。騙されていたというのにもかかわらず、似たような境遇で同情し許した彼の誠意は意味をなさなかった。
非道だと思うだろうが、燕はそれでもやらなければいけなかった。
(これで、鶫ちゃんが完成する……っ!)
燕には鶫という妹がいる。静紀ともお友達の女の子だ。
その子供は、一度死んでいる。
燕が手にかけたのだ。
そうなったのには勿論理由がある。
燕は七宝の分家に属する。
本来であれば外周区の子供であった。
しかし、分家筋のものが死体として動いていると言う事態で燕と鶫は子供ができたと思わせるための道具であった。
父と母は殺された。なすすべもなく殺されて、ついて行けば鶫は助けてやると言うので選択の余地がなかった。
不幸はそこで終わらない。
彼らは死体のくせに相当な野心家だった。本来の息子たちではないのにもかかわらず法術を使えて優秀であった二人に尊厳を刺激されたのだろう。
本家の奴らよりも優れているはずなのにどうして評価されないのか。
もしかしたら、もっと強くなれば評価されるかもしれない。人間らしい思考を持ったままだった彼らはそう考えて強硬手段に出た。
「つ、ぐみちゃん……?」
暗い小屋の中、おびただしい血だまりの中燕は最愛の妹の命の灯火が今にも消えそうになっているのを見た。ほかにも死体があったかもしれない。でも見向きもしなかった。燕にとって大事なのは鶫だけだった。
目の前にいたのは何かの動物だった。それを斬ったのまでは覚えており、後で燕はそれが神降ろしのための儀式であることを知る。
血を流し冷たくなっていく妹を抱えて、法術をかけるが全く傷が塞がらない。
ああ、死んでしまう。大切な妹が死んでしまう。
誰かーーー。
そう燕が思った瞬間、奇跡が起こったのだ。
光が差して、一人の男が現れた。
「妹を助けたいですか?」
その言葉にすぐに食いついた。勿論です。妹は大事な家族なんです。と燕はすがりつくように彼に懇願した。助けてくれ、助けてほしい。ずっとずっと彼に希って、そしてある条件を出された。
この国に現れた七柱の神様がこの土地の所有権を争っている。
その規則として、神様自身が争ってはいけないとされており、神様は代理人を立てて殺し合いをさせなければいけなかった。
それの代理人として、燕はその神様に選ばれた。
燕は、妹が助かるのならばとすぐに了承した。その神様はすぐに鶫を治し、息を吹き返す鶫に燕は泣いた。
よかったよかったと泣いて、目を開けた妹がぼーっとしているのに気がついた。
「鶫ちゃん……?」
「……」
生き返ったが、彼女は死体のようだった。記憶もなく反応もなかった。
そんな彼女を見て神様は、申し訳なさそうな表情でこの勝負に勝つことができれば鶫を完全に戻せると言っていた。
だから燕は、鶫のために人を殺し尽くす。
それが子供であれ女であれ関係ない。
ただ一人の家族のために、自分が起こした取り返しのつかないことのためにーーー。
(それにしても、誰にも気づかれなかったのは良かったな。いや、若君は気づいていたかもしれないけど、興味なかったのかな?どうでも良いけど)
今彼らと一緒にいる鶫は人形である。
鶫を助けるためにも、まずは記憶を戻す必要があるといっていた。今の鶫は何もかもを無くしているのである。よって、人格の大きな部分を占める記憶というのは一番大事な要素だ。
万が一にでも失敗ができないのでその実験のために、今の鶫がつくられた。
(一番やっかいな子は死んだし、後はあの人を殺すだけ)
もう一人の協力者も恐らく狙いの者を始末しているはずだと思い燕はちらりと紫乃を見た。
紫乃にあげた小瓶は、妖魔に変容するというものである。これも例の神様からもらったものでどんな代物なのかは詳しく知らない。しかし、これを使って燕は多くの人を妖魔にした。
都に住めない者たちにこれを飲めば都の外に安全に暮らせると言って飲ませたり、これを飲めば望みのものが手に入ると契約を結ばせたりと数々の人間を妖魔にした。
お陰で、燕は都の外で活動する賊の頂点に立っていた。
まあ、大概は耐えきれずに死んだ者が多かったが。
(やるなぁ。やっぱり血筋か?)
紫乃が苦しみ喘ぎながらも、まだ原型をとどめている。これは成功しただろうと見守っていると、彼の背中から羽が生えた。ひゅうっと燕は口笛を吹くと紫乃はそのまま都に向かって飛んでいく。
それを見送った燕は、周りを見渡して自分を代理人として選んだ神様を探す。
代理人の勝者はただ一人だけ。
だから今度は別の人物を殺しに行かなければいけない。燕はすでにその人物に心当たりがあるので早速都に戻ろうと思っているが、いつもならばその神様がやってきて道を示してくれるのだ。だから探しているが出てこない。
まあ良いかと燕はそう思い直して自分のやるべき事をしようと考える。
妹のためにも、自分はやらねばならないのだ。
彼の死体の横を通り、燕は都に足を運ぶ。
燕は拍子抜けだと思いながらもそのことにほっとする。
この子供は特別だ。その年齢に似つかない剣術と体術を持っており、法術が使えないというのを差し引いても大人顔負けでおそらく普通にやり合ったら燕が負けていただろう。
手に持っている海の向こうから渡ってきた銃を背中に背負い直してちらりと、人からもらった妖魔に変容するという薬を飲んだ紫乃が苦しみにあえいでいる姿を見る。守る相手が自分だけという状況ならば絶対に離れないと思っていたが予想通りだった。騙されていたというのにもかかわらず、似たような境遇で同情し許した彼の誠意は意味をなさなかった。
非道だと思うだろうが、燕はそれでもやらなければいけなかった。
(これで、鶫ちゃんが完成する……っ!)
燕には鶫という妹がいる。静紀ともお友達の女の子だ。
その子供は、一度死んでいる。
燕が手にかけたのだ。
そうなったのには勿論理由がある。
燕は七宝の分家に属する。
本来であれば外周区の子供であった。
しかし、分家筋のものが死体として動いていると言う事態で燕と鶫は子供ができたと思わせるための道具であった。
父と母は殺された。なすすべもなく殺されて、ついて行けば鶫は助けてやると言うので選択の余地がなかった。
不幸はそこで終わらない。
彼らは死体のくせに相当な野心家だった。本来の息子たちではないのにもかかわらず法術を使えて優秀であった二人に尊厳を刺激されたのだろう。
本家の奴らよりも優れているはずなのにどうして評価されないのか。
もしかしたら、もっと強くなれば評価されるかもしれない。人間らしい思考を持ったままだった彼らはそう考えて強硬手段に出た。
「つ、ぐみちゃん……?」
暗い小屋の中、おびただしい血だまりの中燕は最愛の妹の命の灯火が今にも消えそうになっているのを見た。ほかにも死体があったかもしれない。でも見向きもしなかった。燕にとって大事なのは鶫だけだった。
目の前にいたのは何かの動物だった。それを斬ったのまでは覚えており、後で燕はそれが神降ろしのための儀式であることを知る。
血を流し冷たくなっていく妹を抱えて、法術をかけるが全く傷が塞がらない。
ああ、死んでしまう。大切な妹が死んでしまう。
誰かーーー。
そう燕が思った瞬間、奇跡が起こったのだ。
光が差して、一人の男が現れた。
「妹を助けたいですか?」
その言葉にすぐに食いついた。勿論です。妹は大事な家族なんです。と燕はすがりつくように彼に懇願した。助けてくれ、助けてほしい。ずっとずっと彼に希って、そしてある条件を出された。
この国に現れた七柱の神様がこの土地の所有権を争っている。
その規則として、神様自身が争ってはいけないとされており、神様は代理人を立てて殺し合いをさせなければいけなかった。
それの代理人として、燕はその神様に選ばれた。
燕は、妹が助かるのならばとすぐに了承した。その神様はすぐに鶫を治し、息を吹き返す鶫に燕は泣いた。
よかったよかったと泣いて、目を開けた妹がぼーっとしているのに気がついた。
「鶫ちゃん……?」
「……」
生き返ったが、彼女は死体のようだった。記憶もなく反応もなかった。
そんな彼女を見て神様は、申し訳なさそうな表情でこの勝負に勝つことができれば鶫を完全に戻せると言っていた。
だから燕は、鶫のために人を殺し尽くす。
それが子供であれ女であれ関係ない。
ただ一人の家族のために、自分が起こした取り返しのつかないことのためにーーー。
(それにしても、誰にも気づかれなかったのは良かったな。いや、若君は気づいていたかもしれないけど、興味なかったのかな?どうでも良いけど)
今彼らと一緒にいる鶫は人形である。
鶫を助けるためにも、まずは記憶を戻す必要があるといっていた。今の鶫は何もかもを無くしているのである。よって、人格の大きな部分を占める記憶というのは一番大事な要素だ。
万が一にでも失敗ができないのでその実験のために、今の鶫がつくられた。
(一番やっかいな子は死んだし、後はあの人を殺すだけ)
もう一人の協力者も恐らく狙いの者を始末しているはずだと思い燕はちらりと紫乃を見た。
紫乃にあげた小瓶は、妖魔に変容するというものである。これも例の神様からもらったものでどんな代物なのかは詳しく知らない。しかし、これを使って燕は多くの人を妖魔にした。
都に住めない者たちにこれを飲めば都の外に安全に暮らせると言って飲ませたり、これを飲めば望みのものが手に入ると契約を結ばせたりと数々の人間を妖魔にした。
お陰で、燕は都の外で活動する賊の頂点に立っていた。
まあ、大概は耐えきれずに死んだ者が多かったが。
(やるなぁ。やっぱり血筋か?)
紫乃が苦しみ喘ぎながらも、まだ原型をとどめている。これは成功しただろうと見守っていると、彼の背中から羽が生えた。ひゅうっと燕は口笛を吹くと紫乃はそのまま都に向かって飛んでいく。
それを見送った燕は、周りを見渡して自分を代理人として選んだ神様を探す。
代理人の勝者はただ一人だけ。
だから今度は別の人物を殺しに行かなければいけない。燕はすでにその人物に心当たりがあるので早速都に戻ろうと思っているが、いつもならばその神様がやってきて道を示してくれるのだ。だから探しているが出てこない。
まあ良いかと燕はそう思い直して自分のやるべき事をしようと考える。
妹のためにも、自分はやらねばならないのだ。
彼の死体の横を通り、燕は都に足を運ぶ。
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