上 下
167 / 208

しおりを挟む
あっさりと死んだ。



燕は拍子抜けだと思いながらもそのことにほっとする。



この子供は特別だ。その年齢に似つかない剣術と体術を持っており、法術が使えないというのを差し引いても大人顔負けでおそらく普通にやり合ったら燕が負けていただろう。



手に持っている海の向こうから渡ってきた銃を背中に背負い直してちらりと、人からもらった妖魔に変容するという薬を飲んだ紫乃が苦しみにあえいでいる姿を見る。守る相手が自分だけという状況ならば絶対に離れないと思っていたが予想通りだった。騙されていたというのにもかかわらず、似たような境遇で同情し許した彼の誠意は意味をなさなかった。



非道だと思うだろうが、燕はそれでもやらなければいけなかった。





(これで、鶫ちゃんが完成する……っ!)





燕には鶫という妹がいる。静紀ともお友達の女の子だ。



その子供は、一度死んでいる。



燕が手にかけたのだ。

そうなったのには勿論理由がある。



燕は七宝の分家に属する。

本来であれば外周区の子供であった。

しかし、分家筋のものが死体として動いていると言う事態で燕と鶫は子供ができたと思わせるための道具であった。

父と母は殺された。なすすべもなく殺されて、ついて行けば鶫は助けてやると言うので選択の余地がなかった。



不幸はそこで終わらない。



彼らは死体のくせに相当な野心家だった。本来の息子たちではないのにもかかわらず法術を使えて優秀であった二人に尊厳を刺激されたのだろう。



本家の奴らよりも優れているはずなのにどうして評価されないのか。

もしかしたら、もっと強くなれば評価されるかもしれない。人間らしい思考を持ったままだった彼らはそう考えて強硬手段に出た。













「つ、ぐみちゃん……?」





暗い小屋の中、おびただしい血だまりの中燕は最愛の妹の命の灯火が今にも消えそうになっているのを見た。ほかにも死体があったかもしれない。でも見向きもしなかった。燕にとって大事なのは鶫だけだった。



目の前にいたのは何かの動物だった。それを斬ったのまでは覚えており、後で燕はそれが神降ろしのための儀式であることを知る。

血を流し冷たくなっていく妹を抱えて、法術をかけるが全く傷が塞がらない。



ああ、死んでしまう。大切な妹が死んでしまう。

誰かーーー。



そう燕が思った瞬間、奇跡が起こったのだ。

光が差して、一人の男が現れた。





「妹を助けたいですか?」





その言葉にすぐに食いついた。勿論です。妹は大事な家族なんです。と燕はすがりつくように彼に懇願した。助けてくれ、助けてほしい。ずっとずっと彼に希って、そしてある条件を出された。



この国に現れた七柱の神様がこの土地の所有権を争っている。

その規則として、神様自身が争ってはいけないとされており、神様は代理人を立てて殺し合いをさせなければいけなかった。

それの代理人として、燕はその神様に選ばれた。

燕は、妹が助かるのならばとすぐに了承した。その神様はすぐに鶫を治し、息を吹き返す鶫に燕は泣いた。

よかったよかったと泣いて、目を開けた妹がぼーっとしているのに気がついた。





「鶫ちゃん……?」

「……」





生き返ったが、彼女は死体のようだった。記憶もなく反応もなかった。

そんな彼女を見て神様は、申し訳なさそうな表情でこの勝負に勝つことができれば鶫を完全に戻せると言っていた。

だから燕は、鶫のために人を殺し尽くす。

それが子供であれ女であれ関係ない。

ただ一人の家族のために、自分が起こした取り返しのつかないことのためにーーー。

















(それにしても、誰にも気づかれなかったのは良かったな。いや、若君は気づいていたかもしれないけど、興味なかったのかな?どうでも良いけど)



今彼らと一緒にいる鶫は人形である。



鶫を助けるためにも、まずは記憶を戻す必要があるといっていた。今の鶫は何もかもを無くしているのである。よって、人格の大きな部分を占める記憶というのは一番大事な要素だ。

万が一にでも失敗ができないのでその実験のために、今の鶫がつくられた。





(一番やっかいな子は死んだし、後はあの人を殺すだけ)





もう一人の協力者も恐らく狙いの者を始末しているはずだと思い燕はちらりと紫乃を見た。



紫乃にあげた小瓶は、妖魔に変容するというものである。これも例の神様からもらったものでどんな代物なのかは詳しく知らない。しかし、これを使って燕は多くの人を妖魔にした。



都に住めない者たちにこれを飲めば都の外に安全に暮らせると言って飲ませたり、これを飲めば望みのものが手に入ると契約を結ばせたりと数々の人間を妖魔にした。



お陰で、燕は都の外で活動する賊の頂点に立っていた。

まあ、大概は耐えきれずに死んだ者が多かったが。





(やるなぁ。やっぱり血筋か?)





紫乃が苦しみ喘ぎながらも、まだ原型をとどめている。これは成功しただろうと見守っていると、彼の背中から羽が生えた。ひゅうっと燕は口笛を吹くと紫乃はそのまま都に向かって飛んでいく。



それを見送った燕は、周りを見渡して自分を代理人として選んだ神様を探す。





代理人の勝者はただ一人だけ。





だから今度は別の人物を殺しに行かなければいけない。燕はすでにその人物に心当たりがあるので早速都に戻ろうと思っているが、いつもならばその神様がやってきて道を示してくれるのだ。だから探しているが出てこない。



まあ良いかと燕はそう思い直して自分のやるべき事をしようと考える。

妹のためにも、自分はやらねばならないのだ。

彼の死体の横を通り、燕は都に足を運ぶ。





しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...