【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「はあ……」

「はー……」





自分に嫌気が差してもう一度ため息をついたら俺と同じようにため息をついた人がいた。

聞いたことのある声だと思いその方向を見ると視線が合う。





「久臣さん!」

「あー、久しぶり……」





久臣さんだった。

こんなところで会えるとは思わなかったので驚く。しかし、それよりもなんだか疲れ切った表情の彼が気になる。





「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫、大丈夫だよ~」

「いや、大丈夫じゃないですよね!?」





声が弱々しくいつものような覇気が無い。俺はそんな久臣さんを元気づけられないだろうかと思ってそういえば先ほど燕さんからお菓子を貰っていたことに気がつく。



久臣さんのお仕事を俺も手伝えれば良いのだが、恐らくそれは叶わない。それに役に立てるとも思わないし。

だから甘いものを食べて少し休憩でもとって欲しいと思ったのだ。





「久臣さん。人から貰ったお菓子ですけどあげます。俺も食べたことあって、美味しいので!」

「え? いやいいよ。しーちゃんが食べな?」

「いえ! これを食べて久臣さんには休憩を取って欲しいんです!」





そう言って無理矢理久臣さんの手にお菓子を置いた。それからじっと久臣さんを見つめる。

もしかしたらあまりにも疲れて倒れてしまうかもしれない。そうなったら俺だけではなく沙織さんや久遠も悲しんでしまうだろう。だから放っておけない。



そんな俺に気づいたようで久臣さんは他の人のように返すことはなくそれを手に持ってお礼を言った。





「ありがとう。じゃあ貰おうかな」

「はいどうぞ! あ、お茶とか持ってきます!部屋で座って食べて……」

「いいよいいよ大丈夫。ここで食べる」





そう言って久臣さんはその場で俺のあげたお菓子を一口かじる。この前も同じものを食べたことがあるので味は大丈夫だ。そもそも燕さんから貰ったお菓子に外れは一つも無いのでそこは心配ない、と思う。





「―――げ、ほっ」

「え……」





不意に久臣さんの口から血がしたたり落ちた。ごほごほっと次には咳き込んで膝を床につく。

俺はその姿に一瞬呆然としたが、はっとして手を伸ばした。





「ひ、久臣さんっ!!」

「……っ!」

「だ、誰か……っ!!」

「だめだっ!!!」





慌てて助けを呼ぼうとした瞬間、久臣さんが叫ぶ。

動揺して息をのむが、足音が聞こえて久臣さんの背後から誰かがやってきた。



九郎だ。



知り合いが来てくれたことにほっとした。状況を説明し、助けを求めようと口を開きかけるが彼の様子がおかしいことに気づく。目がうつろでぼんやりと俺を見た後に叫び声を上げた。





「よくも帝様をっ!! 反逆者だ! 捕らえろ!!」

「―――え?」





帝?



今、帝って言った?誰のことを……?



九郎が俺と久臣さんの間に体を滑り込ませて俺を法術で拘束する。抵抗することなくそれを受け入れて俺はただ黙って彼を見つめた。





「久臣さんが、帝様……?」

「そこの罪人を連れて行け!!」





げほごほっとずっと咳き込んで血を吐いている久臣さんを九郎が連れて行く。俺はそれをただ呆然として皇宮の警備兵に連れて行かれた。幸いなことに仮面を外されることはなく、そのまま座敷牢に入れられた。





「久臣さんが、帝。なら、次の帝は久遠……?」





俺は先ほどの九郎の言葉を反芻させて思わずそう呟いてしまう。



あれが、久遠だったのか。あの子が?



信じられないという思いとその反面、ほの暗い気持ちが沸き起こる。



じゃあ、なぜ俺に言ってくれなかったのか。不可抗力だったが一緒に過ごした時間が多かったはず。なのにどうして一度も自分が久遠だと言ってくれなかったのだろうか。





「ああ、そうか。久遠にとって俺はそれぐらいの存在なんだ」





覚えていなかったんだ。俺のこと。



しょうがない。ただ俺が久遠のことを覚えていて、ただ久遠を思っていただけなんだから。同じものを返して貰おうなんて思ってもいなかったのに、どうして胸が痛むのだろう。はじめから分かっていたはずなのに。





「そうだ。俺はただ久遠に恩返しをするだけ。ただ彼が、何の憂いもなく生きていてくれればそれで……」





自分でそう言い聞かせながら目をつぶる。



今はなにも考えたくないと俺は壁により掛かってそのまま眠りについた。

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