165 / 208
2
しおりを挟む
「はあ……」
「はー……」
自分に嫌気が差してもう一度ため息をついたら俺と同じようにため息をついた人がいた。
聞いたことのある声だと思いその方向を見ると視線が合う。
「久臣さん!」
「あー、久しぶり……」
久臣さんだった。
こんなところで会えるとは思わなかったので驚く。しかし、それよりもなんだか疲れ切った表情の彼が気になる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫、大丈夫だよ~」
「いや、大丈夫じゃないですよね!?」
声が弱々しくいつものような覇気が無い。俺はそんな久臣さんを元気づけられないだろうかと思ってそういえば先ほど燕さんからお菓子を貰っていたことに気がつく。
久臣さんのお仕事を俺も手伝えれば良いのだが、恐らくそれは叶わない。それに役に立てるとも思わないし。
だから甘いものを食べて少し休憩でもとって欲しいと思ったのだ。
「久臣さん。人から貰ったお菓子ですけどあげます。俺も食べたことあって、美味しいので!」
「え? いやいいよ。しーちゃんが食べな?」
「いえ! これを食べて久臣さんには休憩を取って欲しいんです!」
そう言って無理矢理久臣さんの手にお菓子を置いた。それからじっと久臣さんを見つめる。
もしかしたらあまりにも疲れて倒れてしまうかもしれない。そうなったら俺だけではなく沙織さんや久遠も悲しんでしまうだろう。だから放っておけない。
そんな俺に気づいたようで久臣さんは他の人のように返すことはなくそれを手に持ってお礼を言った。
「ありがとう。じゃあ貰おうかな」
「はいどうぞ! あ、お茶とか持ってきます!部屋で座って食べて……」
「いいよいいよ大丈夫。ここで食べる」
そう言って久臣さんはその場で俺のあげたお菓子を一口かじる。この前も同じものを食べたことがあるので味は大丈夫だ。そもそも燕さんから貰ったお菓子に外れは一つも無いのでそこは心配ない、と思う。
「―――げ、ほっ」
「え……」
不意に久臣さんの口から血がしたたり落ちた。ごほごほっと次には咳き込んで膝を床につく。
俺はその姿に一瞬呆然としたが、はっとして手を伸ばした。
「ひ、久臣さんっ!!」
「……っ!」
「だ、誰か……っ!!」
「だめだっ!!!」
慌てて助けを呼ぼうとした瞬間、久臣さんが叫ぶ。
動揺して息をのむが、足音が聞こえて久臣さんの背後から誰かがやってきた。
九郎だ。
知り合いが来てくれたことにほっとした。状況を説明し、助けを求めようと口を開きかけるが彼の様子がおかしいことに気づく。目がうつろでぼんやりと俺を見た後に叫び声を上げた。
「よくも帝様をっ!! 反逆者だ! 捕らえろ!!」
「―――え?」
帝?
今、帝って言った?誰のことを……?
九郎が俺と久臣さんの間に体を滑り込ませて俺を法術で拘束する。抵抗することなくそれを受け入れて俺はただ黙って彼を見つめた。
「久臣さんが、帝様……?」
「そこの罪人を連れて行け!!」
げほごほっとずっと咳き込んで血を吐いている久臣さんを九郎が連れて行く。俺はそれをただ呆然として皇宮の警備兵に連れて行かれた。幸いなことに仮面を外されることはなく、そのまま座敷牢に入れられた。
「久臣さんが、帝。なら、次の帝は久遠……?」
俺は先ほどの九郎の言葉を反芻させて思わずそう呟いてしまう。
あれが、久遠だったのか。あの子が?
信じられないという思いとその反面、ほの暗い気持ちが沸き起こる。
じゃあ、なぜ俺に言ってくれなかったのか。不可抗力だったが一緒に過ごした時間が多かったはず。なのにどうして一度も自分が久遠だと言ってくれなかったのだろうか。
「ああ、そうか。久遠にとって俺はそれぐらいの存在なんだ」
覚えていなかったんだ。俺のこと。
しょうがない。ただ俺が久遠のことを覚えていて、ただ久遠を思っていただけなんだから。同じものを返して貰おうなんて思ってもいなかったのに、どうして胸が痛むのだろう。はじめから分かっていたはずなのに。
「そうだ。俺はただ久遠に恩返しをするだけ。ただ彼が、何の憂いもなく生きていてくれればそれで……」
自分でそう言い聞かせながら目をつぶる。
今はなにも考えたくないと俺は壁により掛かってそのまま眠りについた。
「はー……」
自分に嫌気が差してもう一度ため息をついたら俺と同じようにため息をついた人がいた。
聞いたことのある声だと思いその方向を見ると視線が合う。
「久臣さん!」
「あー、久しぶり……」
久臣さんだった。
こんなところで会えるとは思わなかったので驚く。しかし、それよりもなんだか疲れ切った表情の彼が気になる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫、大丈夫だよ~」
「いや、大丈夫じゃないですよね!?」
声が弱々しくいつものような覇気が無い。俺はそんな久臣さんを元気づけられないだろうかと思ってそういえば先ほど燕さんからお菓子を貰っていたことに気がつく。
久臣さんのお仕事を俺も手伝えれば良いのだが、恐らくそれは叶わない。それに役に立てるとも思わないし。
だから甘いものを食べて少し休憩でもとって欲しいと思ったのだ。
「久臣さん。人から貰ったお菓子ですけどあげます。俺も食べたことあって、美味しいので!」
「え? いやいいよ。しーちゃんが食べな?」
「いえ! これを食べて久臣さんには休憩を取って欲しいんです!」
そう言って無理矢理久臣さんの手にお菓子を置いた。それからじっと久臣さんを見つめる。
もしかしたらあまりにも疲れて倒れてしまうかもしれない。そうなったら俺だけではなく沙織さんや久遠も悲しんでしまうだろう。だから放っておけない。
そんな俺に気づいたようで久臣さんは他の人のように返すことはなくそれを手に持ってお礼を言った。
「ありがとう。じゃあ貰おうかな」
「はいどうぞ! あ、お茶とか持ってきます!部屋で座って食べて……」
「いいよいいよ大丈夫。ここで食べる」
そう言って久臣さんはその場で俺のあげたお菓子を一口かじる。この前も同じものを食べたことがあるので味は大丈夫だ。そもそも燕さんから貰ったお菓子に外れは一つも無いのでそこは心配ない、と思う。
「―――げ、ほっ」
「え……」
不意に久臣さんの口から血がしたたり落ちた。ごほごほっと次には咳き込んで膝を床につく。
俺はその姿に一瞬呆然としたが、はっとして手を伸ばした。
「ひ、久臣さんっ!!」
「……っ!」
「だ、誰か……っ!!」
「だめだっ!!!」
慌てて助けを呼ぼうとした瞬間、久臣さんが叫ぶ。
動揺して息をのむが、足音が聞こえて久臣さんの背後から誰かがやってきた。
九郎だ。
知り合いが来てくれたことにほっとした。状況を説明し、助けを求めようと口を開きかけるが彼の様子がおかしいことに気づく。目がうつろでぼんやりと俺を見た後に叫び声を上げた。
「よくも帝様をっ!! 反逆者だ! 捕らえろ!!」
「―――え?」
帝?
今、帝って言った?誰のことを……?
九郎が俺と久臣さんの間に体を滑り込ませて俺を法術で拘束する。抵抗することなくそれを受け入れて俺はただ黙って彼を見つめた。
「久臣さんが、帝様……?」
「そこの罪人を連れて行け!!」
げほごほっとずっと咳き込んで血を吐いている久臣さんを九郎が連れて行く。俺はそれをただ呆然として皇宮の警備兵に連れて行かれた。幸いなことに仮面を外されることはなく、そのまま座敷牢に入れられた。
「久臣さんが、帝。なら、次の帝は久遠……?」
俺は先ほどの九郎の言葉を反芻させて思わずそう呟いてしまう。
あれが、久遠だったのか。あの子が?
信じられないという思いとその反面、ほの暗い気持ちが沸き起こる。
じゃあ、なぜ俺に言ってくれなかったのか。不可抗力だったが一緒に過ごした時間が多かったはず。なのにどうして一度も自分が久遠だと言ってくれなかったのだろうか。
「ああ、そうか。久遠にとって俺はそれぐらいの存在なんだ」
覚えていなかったんだ。俺のこと。
しょうがない。ただ俺が久遠のことを覚えていて、ただ久遠を思っていただけなんだから。同じものを返して貰おうなんて思ってもいなかったのに、どうして胸が痛むのだろう。はじめから分かっていたはずなのに。
「そうだ。俺はただ久遠に恩返しをするだけ。ただ彼が、何の憂いもなく生きていてくれればそれで……」
自分でそう言い聞かせながら目をつぶる。
今はなにも考えたくないと俺は壁により掛かってそのまま眠りについた。
40
お気に入りに追加
3,630
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる