【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

文字の大きさ
上 下
163 / 208

3

しおりを挟む
紫乃君の保護について、黒狗の中でも議題に上がったが俺になついていること、紫さん達が大丈夫と言うことでそのまま預かることになった。



詳しい身辺調査の報告はまだ上がっていない。しかし、それも時間の問題だろう。



ひとまず、他の子達に紫乃君の紹介をする。ほとんど毎日来ているそーちゃん、小夜ちゃん、鶫ちゃんが今日もやってきて、紫乃君を紹介した。そーちゃんだけがじっと紫乃君を見つめていたようだが、なにも言わずに遊んでいた。そのあと、尊君、拓海君、月彦君がやってきた。一緒に晴臣さんも来てくれておやつも持ってきてくれた。



そうして、俺のほとんどの知り合いと仲良しになった紫乃君を彼らに任せて俺は晴臣さんに話しかける。





「あの、晴臣さん」

「どうしたんですか、しーちゃん」

「その、最近九郎はどうしてますか……?」





あの日以来会えていない九郎の事を聞くと晴臣さんがああ、と少しばかりに苦笑いを浮かべる。聞いてはいけない事だろうか。俺はその表情を見て慌てて大丈夫ですと首を振ってそういうと、晴臣さんが隣に座ってと床を叩いた。



俺は恐る恐る隣に座って晴臣さんを伺う。





「九郎は今少し立て込んでいるんです。暫く会えないと思いますが、しーちゃんを避けている訳じゃありませんよ」

「そうなんですかね……?」

「ええ。今は九郎を待っていてください」

「……分かりました」





晴臣さんがそう言うのであればと、俺はそれ以上彼のことを聞くのはやめた。もそもそと貰ったお菓子を食べながら蹴鞠りをしている彼らを見る。紫乃君がふとこちらを見ると次には気まずそうに視線をそらした。それからそーちゃんに呼ばれて慌てて顔を背けて遊びだした。

俺はそれに首を傾げると、とんっと膝の上に何かが乗る。





「話し終わった?」

「あ、くーちゃんごめんね。終わったよ」

「ん!」





晴臣さんと話がしたいと言ったら久遠が離れてくれて先ほどまで彼らと遊んでいた。終わったのを見て近寄ってきたみたいだ。ありがとうという意味も込めて彼の頭を撫でるとにこっと笑顔を見せてくれる。





「相変わらず、しーちゃんにべったりですね若君」

「うん。ずっとしーちゃんと一緒」





ぎゅーっと体を起こして久遠が抱きつくので、俺も抱きしめ返す。すると晴臣さんが微笑ましいと言うような表情を浮かべて俺と久遠の頭を撫でた。それを俺と久遠は素直に受け入れる。

それからおやつの時間になって晴臣さんが買ってきたお菓子を食べた。





「そういえば、兄さんはまだしーちゃんにお菓子あげてるの?」

「え? ああそうだね。おはよう、あげるって感じかな」

「もー! 私も言ってるんだけどね。全然聞かなくて……。要らなかったら要らないっていって良いから!」

「うん、ちゃんと口にするよ」





鶫ちゃんにそう言われながらお茶をすする。

燕さんの場合、断ってもむりやり入れられるのだがそれは黙っておくことにした。





「しーちゃん、あーん」

「あー……」





隣に座っている久遠が自分のお菓子を二つに割って片方を俺の口元に持ってきた。ここで拒否をしても意味が無いことを俺が知っているのでそのまま口を開けて口に含む。もぐもぐと咀嚼するとあんこの甘さが広がって美味しい。俺も自分の分を半分に割って同じように久遠に食べさせた。



にこっと久遠が満足げに笑顔を見せるので俺もつられて頬を緩める。それから久遠の頬についた食べかすを拭いながら、自分の分も食べてゆっくりお茶を飲む。その間にも紫乃君はわいわいと他の人とお話をしている。



紫乃君が他の子と馴染めているようでよかったとその様子を見ながら隣で「しーちゃん、あーん」と二個目のお菓子を俺にあげようとする久遠に再び口を開けた。

しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...