160 / 208
3
しおりを挟む
「俺たちはなぁ、都の外にいても妖魔に襲われねえんだ」
男は信じられないことを話し出した。
襲われない?妖魔に?
確かに、そうであったならば彼らが都の外で活動できるのも納得がいく。しかし、そんなこと現実に―――。
「……ありえない」
俺の考えを叢雲さんが代弁した。俺もそれに頷いてじろりっと男達を睨み付ける。すると彼らはゲラゲラと愉快そうに笑い出した。
「だろうな! 都の中にいる脆弱なお前らには分からねえだろう! だがそれが事実だ! この国にふさわしい民は俺ら。だから、そんな俺らを殺すお前は重罪人だ!!」
「―――っ!」
叢雲さんに向かって箱が投げられた。
あの箱は、駆君の事件で見た奴だ。叢雲さんはからくりを知っているので開ける前に切り捨ててしまおうと一歩前に出る。
だめだ!
「叢雲さん!」
「かかった!!」
俺が叫ぶと同時に、叢雲さんが斬った箱が光り出した。
目潰し!
似たようなものだから騙された。咄嗟に目をつぶり、大太刀をふるって叢雲さんから相手を遠ざける。
手応えが無い。避けられたようだ。
―――とはいえ、目潰しぐらいでもう俺は遅れをとることはない。
目をつぶったまま、もう一度足を踏み出して男達に近寄る。ひとりの男が俺に向かって刀を振るう気配がしてそれを軽くいなしまっすぐに子供を持っている男に向かう。
「ぐあっ!」
俺の予想外の動きに男の反応が遅れ、子供を抱えている腕に傷をつけると簡単に手を離した。俺は子供を素早く抱えると、通り過ぎるように彼らの後ろに向かって走る。
「くそがっ!」
そして、そんな俺に気をとられて男が彼に背中を見せた。
血しぶきが飛びさっと抱えている子供に見えないように隠すと、後ろで男が倒れた音がした。
「ごめんね。大丈夫だった?」
「はい。ありがとうございます、叢雲さん。叢雲さんこそ大丈夫ですか?」
「へーきへーき」
叢雲さんがそう言って刀の血を払い鞘に収める。完全に相手が沈黙したことを確認して俺も同じように鞘に収めて腕の中にいる男の子を地面に下ろした。
「大丈夫ですか?」
「は、い……」
ひどく怯えていて体が震えている。俺は、お面を取ってそれからしゃがみ込んだ。
「怖がらせて申し訳ありません。貴方に危害を加えるつもりはありません」
「……」
俺がそう言うと、こくんと小さく男の子は頷いてくれた。それからおずおずと俺に近づく。
「あ、ありがとう……。お兄ちゃん」
「いえ。どこか痛いところとかありませんか?」
「大丈夫……」
そう言って首を振る子供。
俺はその子をじっと見つめて、別人だと判断した。
顔は、黒天律と同じだ。だから彼なのかと思ったが観察していて違和感のある行動にそう考える。
「貴方の家はどこでしょうか?」
「!」
しかし、確信はとれずにひとまず聞いても変ではない質問をする。そう思ったが、彼は異常なほど反応してそれからぎゅっと俺に抱きついた。
「……っ!!」
「か、帰りたくない!!」
「あ……」
その切実な言葉に彼も特別な事情があって帰れないのではないかと察する。俺と同じように。
「ちょ、ちょっと、分かったから、ほら、しーちゃんから離れたら……? 君が抱きついたままだとしーちゃん動けないし、ね?」
久遠が隣までやってきて優しく声を出す。にこっと笑顔を見せて安心させよとしているようだ。しかし、久遠の言葉に彼は首を振って否定した。
「いや!」
「……助けて貰ったんだから、それ相応の態度っていうものがあると僕は思うんだけど。ねえ、邪魔だから離れた方がいいよ。ほら早く」
「くーちゃん、俺なら大丈夫だから」
久遠が俺のためにそう言ってくれる。だが、彼は怖い思いをしたのだ。俺から離れたがらないのもよく分かる。久遠の気持ちも嬉しいが、抱えていても問題はないのでそう言うと久遠がぴたりと固まる。それから渋い顔をしつつもこういう。
「……しーちゃんがそう言うなら」
「うん、ありがとう」
俺はそう言ってよいしょっと男の子を抱える。
久遠よりも大分軽い。それに、細い。まるで前の俺を見ているようだ。大丈夫だという意味も込めて軽く頭を撫でる。
すると、彼は一瞬驚きの表情をしたあとに形容しがたい表情を浮かべたのだった。
男は信じられないことを話し出した。
襲われない?妖魔に?
確かに、そうであったならば彼らが都の外で活動できるのも納得がいく。しかし、そんなこと現実に―――。
「……ありえない」
俺の考えを叢雲さんが代弁した。俺もそれに頷いてじろりっと男達を睨み付ける。すると彼らはゲラゲラと愉快そうに笑い出した。
「だろうな! 都の中にいる脆弱なお前らには分からねえだろう! だがそれが事実だ! この国にふさわしい民は俺ら。だから、そんな俺らを殺すお前は重罪人だ!!」
「―――っ!」
叢雲さんに向かって箱が投げられた。
あの箱は、駆君の事件で見た奴だ。叢雲さんはからくりを知っているので開ける前に切り捨ててしまおうと一歩前に出る。
だめだ!
「叢雲さん!」
「かかった!!」
俺が叫ぶと同時に、叢雲さんが斬った箱が光り出した。
目潰し!
似たようなものだから騙された。咄嗟に目をつぶり、大太刀をふるって叢雲さんから相手を遠ざける。
手応えが無い。避けられたようだ。
―――とはいえ、目潰しぐらいでもう俺は遅れをとることはない。
目をつぶったまま、もう一度足を踏み出して男達に近寄る。ひとりの男が俺に向かって刀を振るう気配がしてそれを軽くいなしまっすぐに子供を持っている男に向かう。
「ぐあっ!」
俺の予想外の動きに男の反応が遅れ、子供を抱えている腕に傷をつけると簡単に手を離した。俺は子供を素早く抱えると、通り過ぎるように彼らの後ろに向かって走る。
「くそがっ!」
そして、そんな俺に気をとられて男が彼に背中を見せた。
血しぶきが飛びさっと抱えている子供に見えないように隠すと、後ろで男が倒れた音がした。
「ごめんね。大丈夫だった?」
「はい。ありがとうございます、叢雲さん。叢雲さんこそ大丈夫ですか?」
「へーきへーき」
叢雲さんがそう言って刀の血を払い鞘に収める。完全に相手が沈黙したことを確認して俺も同じように鞘に収めて腕の中にいる男の子を地面に下ろした。
「大丈夫ですか?」
「は、い……」
ひどく怯えていて体が震えている。俺は、お面を取ってそれからしゃがみ込んだ。
「怖がらせて申し訳ありません。貴方に危害を加えるつもりはありません」
「……」
俺がそう言うと、こくんと小さく男の子は頷いてくれた。それからおずおずと俺に近づく。
「あ、ありがとう……。お兄ちゃん」
「いえ。どこか痛いところとかありませんか?」
「大丈夫……」
そう言って首を振る子供。
俺はその子をじっと見つめて、別人だと判断した。
顔は、黒天律と同じだ。だから彼なのかと思ったが観察していて違和感のある行動にそう考える。
「貴方の家はどこでしょうか?」
「!」
しかし、確信はとれずにひとまず聞いても変ではない質問をする。そう思ったが、彼は異常なほど反応してそれからぎゅっと俺に抱きついた。
「……っ!!」
「か、帰りたくない!!」
「あ……」
その切実な言葉に彼も特別な事情があって帰れないのではないかと察する。俺と同じように。
「ちょ、ちょっと、分かったから、ほら、しーちゃんから離れたら……? 君が抱きついたままだとしーちゃん動けないし、ね?」
久遠が隣までやってきて優しく声を出す。にこっと笑顔を見せて安心させよとしているようだ。しかし、久遠の言葉に彼は首を振って否定した。
「いや!」
「……助けて貰ったんだから、それ相応の態度っていうものがあると僕は思うんだけど。ねえ、邪魔だから離れた方がいいよ。ほら早く」
「くーちゃん、俺なら大丈夫だから」
久遠が俺のためにそう言ってくれる。だが、彼は怖い思いをしたのだ。俺から離れたがらないのもよく分かる。久遠の気持ちも嬉しいが、抱えていても問題はないのでそう言うと久遠がぴたりと固まる。それから渋い顔をしつつもこういう。
「……しーちゃんがそう言うなら」
「うん、ありがとう」
俺はそう言ってよいしょっと男の子を抱える。
久遠よりも大分軽い。それに、細い。まるで前の俺を見ているようだ。大丈夫だという意味も込めて軽く頭を撫でる。
すると、彼は一瞬驚きの表情をしたあとに形容しがたい表情を浮かべたのだった。
30
お気に入りに追加
3,603
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる