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「俺たちはなぁ、都の外にいても妖魔に襲われねえんだ」



男は信じられないことを話し出した。

襲われない?妖魔に?

確かに、そうであったならば彼らが都の外で活動できるのも納得がいく。しかし、そんなこと現実に―――。



「……ありえない」



俺の考えを叢雲さんが代弁した。俺もそれに頷いてじろりっと男達を睨み付ける。すると彼らはゲラゲラと愉快そうに笑い出した。



「だろうな! 都の中にいる脆弱なお前らには分からねえだろう! だがそれが事実だ! この国にふさわしい民は俺ら。だから、そんな俺らを殺すお前は重罪人だ!!」

「―――っ!」



叢雲さんに向かって箱が投げられた。

あの箱は、駆君の事件で見た奴だ。叢雲さんはからくりを知っているので開ける前に切り捨ててしまおうと一歩前に出る。



だめだ!



「叢雲さん!」

「かかった!!」



俺が叫ぶと同時に、叢雲さんが斬った箱が光り出した。



目潰し!



似たようなものだから騙された。咄嗟に目をつぶり、大太刀をふるって叢雲さんから相手を遠ざける。

手応えが無い。避けられたようだ。


―――とはいえ、目潰しぐらいでもう俺は遅れをとることはない。



目をつぶったまま、もう一度足を踏み出して男達に近寄る。ひとりの男が俺に向かって刀を振るう気配がしてそれを軽くいなしまっすぐに子供を持っている男に向かう。



「ぐあっ!」

俺の予想外の動きに男の反応が遅れ、子供を抱えている腕に傷をつけると簡単に手を離した。俺は子供を素早く抱えると、通り過ぎるように彼らの後ろに向かって走る。



「くそがっ!」



そして、そんな俺に気をとられて男が彼に背中を見せた。

血しぶきが飛びさっと抱えている子供に見えないように隠すと、後ろで男が倒れた音がした。



「ごめんね。大丈夫だった?」

「はい。ありがとうございます、叢雲さん。叢雲さんこそ大丈夫ですか?」

「へーきへーき」



叢雲さんがそう言って刀の血を払い鞘に収める。完全に相手が沈黙したことを確認して俺も同じように鞘に収めて腕の中にいる男の子を地面に下ろした。



「大丈夫ですか?」

「は、い……」



ひどく怯えていて体が震えている。俺は、お面を取ってそれからしゃがみ込んだ。



「怖がらせて申し訳ありません。貴方に危害を加えるつもりはありません」

「……」



俺がそう言うと、こくんと小さく男の子は頷いてくれた。それからおずおずと俺に近づく。



「あ、ありがとう……。お兄ちゃん」

「いえ。どこか痛いところとかありませんか?」

「大丈夫……」



そう言って首を振る子供。

俺はその子をじっと見つめて、別人だと判断した。

顔は、黒天律と同じだ。だから彼なのかと思ったが観察していて違和感のある行動にそう考える。



「貴方の家はどこでしょうか?」

「!」



しかし、確信はとれずにひとまず聞いても変ではない質問をする。そう思ったが、彼は異常なほど反応してそれからぎゅっと俺に抱きついた。



「……っ!!」

「か、帰りたくない!!」

「あ……」



その切実な言葉に彼も特別な事情があって帰れないのではないかと察する。俺と同じように。



「ちょ、ちょっと、分かったから、ほら、しーちゃんから離れたら……? 君が抱きついたままだとしーちゃん動けないし、ね?」



久遠が隣までやってきて優しく声を出す。にこっと笑顔を見せて安心させよとしているようだ。しかし、久遠の言葉に彼は首を振って否定した。



「いや!」

「……助けて貰ったんだから、それ相応の態度っていうものがあると僕は思うんだけど。ねえ、邪魔だから離れた方がいいよ。ほら早く」

「くーちゃん、俺なら大丈夫だから」



久遠が俺のためにそう言ってくれる。だが、彼は怖い思いをしたのだ。俺から離れたがらないのもよく分かる。久遠の気持ちも嬉しいが、抱えていても問題はないのでそう言うと久遠がぴたりと固まる。それから渋い顔をしつつもこういう。



「……しーちゃんがそう言うなら」

「うん、ありがとう」



俺はそう言ってよいしょっと男の子を抱える。

久遠よりも大分軽い。それに、細い。まるで前の俺を見ているようだ。大丈夫だという意味も込めて軽く頭を撫でる。



すると、彼は一瞬驚きの表情をしたあとに形容しがたい表情を浮かべたのだった。


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