【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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披露その後

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静紀と帝が去った後、彼らは傲慢な態度をとった静紀に対しての陰口で盛り上がっていた。



やれあの子供は珍しい法術を使うだけで寵愛を得られたと勘違いしている。法術がなければ何もできない子供だなどと。



そんな大人の姿を、子供は見ている。

父が、母がそう言うのであればきっとあの子供は悪い子なのだと子供たちはそう認識する。

黒狗の子供は卑怯者。実力も大してない。

くしくも、一人の子供の存在で彼らはきっかけを得たのである。



「あんな卑怯なことをする子が帝様の部下なんて……。ひどい話ですね。あんな子よりもきっとみんなの方が役に立つと思うのに……」



そして、最大限にそのきっかけを使う者がここにもいる。

理央は、死んだと思っていたはずの戸籍上は兄の子供を思い出す。姿をくらませていたと思えばいつの間にか帝に取り入っていたとは夢にも思わない。



(僕の方が優秀なのに、あいつが黒狗なんてありえない)



幸いなことに、あれはあの発言によって孤立し始めている。理央は絶えずあれを蔑む言葉が飛び交っているのを聞き清々しい気分だ。



先ほどの剣術だってまぐれだ。それか、そういう法術を使う道具でも持っているのだろう。考え方が卑怯だ。だがしかし、そんなことをしないといけない彼を可哀想だとも思っている。ほんの少しだけだが。

まあ、夢を見させてあげても良いがあの態度が気に入らない。

こちらを睨み付けて、自分が上だとでも言うようなそんな態度。



(どこで何してようとも何もできないやつの末路なんてたかがしれている)



ぼろ雑巾のように捨てられて終わり。

彼の最後を想像してほくそ笑みながらも理央はひとまずこの目の前にいる子供たちに取り入るようにそういった。

将来、次期当主になるであろう彼ら。自分と同格の人間。仲良くなって損はない。



(たまには使えるんだな、この親戚のやつも)



まさか、自分の親戚が関わりを持っていたとはつゆほどにも思わなかったが、お陰で機会を得た。

少し憂いを見せて控えめにそういえば、誰であれ悪い気はしないはず。そう思い、理央は彼らの様子を伺い、望んだ言葉が出てきた。



「―――最悪」



そう言ったのは宗太である。

初対面ですぐに友達になれそうな男だと理央が確信した者だ。こういった話すのが苦手だけどお友達がほしいと言うような態度の人間はすぐに仲良くなれる自信があった。

だから、理央はこの中で一番仲良くなれたであろう彼が言ってくれると信じていた。



「! そうだよね! 本当、最悪だよ!! 宗太くんの方がずっと―――」

「お前もだけど?」

「え……?」



先ほどの仲良くなった柔らかい雰囲気はない。

じっと冷たく理央を見据え、はあっとため息をついた。



「天才だって言われてるのに、法術使ってるか使ってないかもわかんないわけ?」

「え、な、なに……?」

「何? こっちこそ聞きたいよ。俺の友達を卑怯者扱いして何なのお前」

「え……」



その言葉に理央は驚きを隠せない。



(友達? あれと?)



理央は信じられない気持ちで彼を見る。



「あ、あんなのと……っ!?」



思わず出た言葉にしまったと口を押さえるが既に遅い。

軽蔑した目で宗太は理央を見た後に腰を上げる。



「……帰る」

「ま、まって!」



そんな宗太を理央が手をつかんで止める。彼はじっとうっとうしそうに理央を見つめているが、無理に振り払うことはしない。

それに理央はほっとしながらもまだ、自分とあれを天秤にかけている所なんだと予想する。

であれば、あれがどれだけ卑怯で何もできない役立たずだということを言えば縁を切るはず。伝え方は慎重に、しかし同情を誘うように。理央は、ぐっと唇をかんで何かに耐えるような表情を作る。

そして口を開こうとしたが。



「―――知ってる人なの?」

「え……」



先に口を開いたのは拓海である。理央は不意を打たれ思わず彼を見る。彼は穏やかな笑みを浮かべて変わらない態度でゆったりと口を開く。



「理央君・がそこまで言うなら、もしかして知り合いかなー?って思って。例えば、毘沙門の親戚とか?」



さっと理央はその問いに顔色を悪くして慌てて首を振る。今のこの場で毘沙門の関係者だと知られてしまったら、どうなるかは目に見えている。



「いえ! あんな人知りません!」

「そっか~。じゃあ、知らない人を卑怯者とか言う子なんだ君」

「そ、それは、ほら、あの言い方と態度が……」



しどろもどろに必死に言い訳を探す理央にこてんっと拓海は首をかしげる。



「分からないの? 本当に?」

「え、な、何が……?」



心当たりのない理央はそう聞き返すしかない。拓海は、その様子を見てはあっと一つため息をついて立ち上がった。



「君、ここに来て失敗したね。違う子とつるんだ方が良いよ」

「な、え? さ、さっきまで楽しく話を……っ!!」

「友達と今日知り合ったばかりの子、どちらを優先するかなんて目に見えてるでしょ。帰ろ」



拓海の言葉にすっと尊と月彦も立ち上がる。柊は、どうすれば良いかと迷ったが、ぐいっと尊に腕を引っ張られて慌てて立ち上がるしかなかった。



「柊の親には言っておくから来い」

「え、で、でも」

「良いから。お前だって分かったんだろ」

「……」



柊はちらりと一度だけ理央を見てそれから視線をそらした。最後に乱暴に宗太に手を払われて理央は完全に一人になった。

呆然とその姿を見送って、ぎりっと歯を食いしばる。



(あいつら、この僕じゃなくてあれを選んだこと絶対に後悔させてやる!!)



理央はそう心に刻む。

彼らがいなくなったことにより、理央に近づけなかった者がこぞって慰めるために口々に彼らの事を悪く言う。

それに気分をよくしながらも、お開きになって続々と皇宮から出て行く。

理央も例外ではない。毘沙門の当主である父と一緒に、門をくぐって一歩外に出た。



(―――あれ?)



そして、一瞬にして自分がどうしてこんな所にいるのか忘れた。隣を見ると父も同じようできょろきょろと周りを見渡し、ここが皇宮の前だと知るとますます首をかしげていた。

そんな彼らの耳にこんな会話が入る。



「新しく入った黒狗の披露凄かったですね」

「ええ、背の高い男性ですよね?」

「そうそう! いやあ、剣術も素晴らしいもので釘付けだったよ~」

(そうだ! 皇宮に招待されて新しい黒狗の人を見たんだった!)



まさしく、黒狗にふさわしい背の高く凜々しい男だったと理央は思い出した・・・・・。自分はまだ子供のため、黒狗として入ることはできない。しかし、理央はそこまで気にすることではなかった。



(僕だったら帝の犬なんてまっぴらごめんだけど)



都の安全を守ると言っているが、体の良い雑用だろう。都の外に出向き、妖魔を倒す。危険と隣り合わせの仕事だ。

とはいえ、それなりの権威というものもありもしも、特定の誰かであったら彼は嫉妬で狂っていただろう。



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