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「何か、法術を使っていたのであれば、このような模擬戦はあまり意味ないのではありませんか?」
不意に知らない声が響く。
そちらを見るとにっこりと笑顔を浮かべている男がいる。あの人、どこかで見たことが……。
「弁財の当主が、この勝負に口を挟むのですか?」
弁財!見たことがあるというのは七宝選抜の時だ。視線を横にずらすと、確かに彼の息子であるその人物がいる。彼もじっとこちらを見ているようで、目が合ってしまった。その瞬間、ふっと鼻で笑われる。
ああ、これは―――。
「口を挟むだなんてとんでもない。優れた法術をお持ちの方に賞賛を送っているのです」
「賞賛? 俺にはケチつけているようにしか聞こえませんでしたが?」
「そんなそんな。身体向上の法術だなんて画期的な術ではありませんか。そのような術が使えれば、きっともっと帝様のお役に立てる者が増えるでしょう」
「貴様……っ!!」
九郎が今にも襲いかかりそうになり、俺はそれを手で止める。
ここで、俺には法術が使えないといっても信じないだろう。それほどまでに子供が大人に打ち勝つというのは衝撃が大きすぎた。
だからここは、曖昧にぼかすしかない。
「ご想像にお任せいたします」
すると、ふっと弁財の当主が笑ったかと思うとくすくすと周りの者にそれが伝播する。
「つまり、珍しい法術を使うだけの子供と言うことか」
「しかも、恵比寿のご当主様はそれに負けてしまったと」
あざ笑うように俺とそして恵比寿のご当主様にもそんな言葉を投げかける。俺だけだったら、何も言わなかっただろう。しかし、自分の友達の親まで馬鹿にされて黙っているわけにはいかない。
これ以上の侮辱は要らない。
「ですが、私を選んだのは紛れもなくこの都の長である帝様ということをゆめゆめお忘れなく。私は、帝様に選ばれたのです」
最後にふっと小馬鹿にしたように笑えばぴたり、と彼らは一瞬静かになる。それから軽蔑した目を向けた。
俺は彼らを横目で見ながら静かに頭を下げる。
「帝様。私はもう席を外してもよろしいでしょうか」
「ああかまわないよ。私もそろそろお暇させてもらおうと思ってたから。お前たちももう帰って構わない」
御簾が上がり、帝様が部屋を後にする。その後ろを俺と九郎がついて行き、途中からほかの黒狗の方と入れ替わった。
ほっと、終わったことに息を吐くと「うがあああっ!!」九郎が叫び声を上げた。
「あの陰気野郎! ぶっ飛ばしてやればよかった!!!!」
「だめだよ九郎。あの人も当主様なんだから」
「七宝なんて違うやつにすげ替えすればいいじゃねーか、輝夜とか!」
「え?」
九郎の言葉に首をかしげる。
なぜなら、輝夜先生がどうしてそこで出てくるのかが分からなかったからだ。
「輝夜先生は弁財の親戚筋なの……?」
「あ? 確か、いとこって言ってた。妹もいるって」
「妹さん……」
知らなかった。妹さんがいたんだ。そういえば、人形で遊んだことがあるとかいってたな。あれはもしかして妹さんと?
「あ、しーちゃん!」
そんなことを考えていたら、前方から同じく黒狗の服装をした男性がやってきた。仮面をかけていて、誰だか一瞬分からなかったが、声で判別がついた。
「燕さん……?」
「そうそう! 今日から俺の後輩だね!! これはお近づきの印にどうぞ!」
「え? あ、ありがとうございます……?」
燕さんはそう言うと俺に懐紙に包まれたお菓子を渡してきた。それを俺は受け取って礼を言う。
「燕、どうしたんだこんなところで」
「あー、いや、妹のお迎えをしようと思って……」
「迎え? ああ、集会に参加してんのか」
九郎がそう言うと燕さんは「そうそう」と首を縦に振った。
「ということで、これにて失礼! あ、そのお菓子期限近いから早めに食べてね! それじゃあ!」
「おー」
そう言って燕さんは風のように去って行った。
俺はいろいろな衝撃にぽかんとしていた。それから九郎を見上げてこう訪ねる。
「もしかして、俺、ほかにも黒狗の人に会ってたりする……?」
「全員会ってるな」
「……瑠奈お姉ちゃん、とか?」
「うん」
強い人だとは思っていたがまさかそんな偶然があり得るのだろうか。
しかも、前の代の黒狗と一緒だなんて……。前の代の黒狗とは全く接点がなかった。というのも今の帝様が死ぬ頃にはほとんどいなくなっていたからだ。
これも俺がいろいろ関わったからまだ死んでいないのだろうか。それなら俺は彼らを死なせないようにしないと。
こうして、俺は黒狗に入ったのである。
そして、当然と言えば当然だが俺が黒狗に入隊したことは知人に知られていた。
また、意外にもそーちゃんにお友達ができた。
あの武士の物語が好きな子らしい。名前は小夜ちゃんと鶫ちゃんである。この二人、勘がよくて俺と一言二言話しただけで、もしかして新しい黒狗の方ですか……?と聞いてきた。俺が驚いている間にそーちゃんがどや顔で代わりに「そう」と答える。
すると二人は喜んで手を取り
「楓様だ!!!!」
「楓だ!」
「でしょー?」
そうして三人は盛り上がっていた。まあ、仲良しならばよかった。
不意に知らない声が響く。
そちらを見るとにっこりと笑顔を浮かべている男がいる。あの人、どこかで見たことが……。
「弁財の当主が、この勝負に口を挟むのですか?」
弁財!見たことがあるというのは七宝選抜の時だ。視線を横にずらすと、確かに彼の息子であるその人物がいる。彼もじっとこちらを見ているようで、目が合ってしまった。その瞬間、ふっと鼻で笑われる。
ああ、これは―――。
「口を挟むだなんてとんでもない。優れた法術をお持ちの方に賞賛を送っているのです」
「賞賛? 俺にはケチつけているようにしか聞こえませんでしたが?」
「そんなそんな。身体向上の法術だなんて画期的な術ではありませんか。そのような術が使えれば、きっともっと帝様のお役に立てる者が増えるでしょう」
「貴様……っ!!」
九郎が今にも襲いかかりそうになり、俺はそれを手で止める。
ここで、俺には法術が使えないといっても信じないだろう。それほどまでに子供が大人に打ち勝つというのは衝撃が大きすぎた。
だからここは、曖昧にぼかすしかない。
「ご想像にお任せいたします」
すると、ふっと弁財の当主が笑ったかと思うとくすくすと周りの者にそれが伝播する。
「つまり、珍しい法術を使うだけの子供と言うことか」
「しかも、恵比寿のご当主様はそれに負けてしまったと」
あざ笑うように俺とそして恵比寿のご当主様にもそんな言葉を投げかける。俺だけだったら、何も言わなかっただろう。しかし、自分の友達の親まで馬鹿にされて黙っているわけにはいかない。
これ以上の侮辱は要らない。
「ですが、私を選んだのは紛れもなくこの都の長である帝様ということをゆめゆめお忘れなく。私は、帝様に選ばれたのです」
最後にふっと小馬鹿にしたように笑えばぴたり、と彼らは一瞬静かになる。それから軽蔑した目を向けた。
俺は彼らを横目で見ながら静かに頭を下げる。
「帝様。私はもう席を外してもよろしいでしょうか」
「ああかまわないよ。私もそろそろお暇させてもらおうと思ってたから。お前たちももう帰って構わない」
御簾が上がり、帝様が部屋を後にする。その後ろを俺と九郎がついて行き、途中からほかの黒狗の方と入れ替わった。
ほっと、終わったことに息を吐くと「うがあああっ!!」九郎が叫び声を上げた。
「あの陰気野郎! ぶっ飛ばしてやればよかった!!!!」
「だめだよ九郎。あの人も当主様なんだから」
「七宝なんて違うやつにすげ替えすればいいじゃねーか、輝夜とか!」
「え?」
九郎の言葉に首をかしげる。
なぜなら、輝夜先生がどうしてそこで出てくるのかが分からなかったからだ。
「輝夜先生は弁財の親戚筋なの……?」
「あ? 確か、いとこって言ってた。妹もいるって」
「妹さん……」
知らなかった。妹さんがいたんだ。そういえば、人形で遊んだことがあるとかいってたな。あれはもしかして妹さんと?
「あ、しーちゃん!」
そんなことを考えていたら、前方から同じく黒狗の服装をした男性がやってきた。仮面をかけていて、誰だか一瞬分からなかったが、声で判別がついた。
「燕さん……?」
「そうそう! 今日から俺の後輩だね!! これはお近づきの印にどうぞ!」
「え? あ、ありがとうございます……?」
燕さんはそう言うと俺に懐紙に包まれたお菓子を渡してきた。それを俺は受け取って礼を言う。
「燕、どうしたんだこんなところで」
「あー、いや、妹のお迎えをしようと思って……」
「迎え? ああ、集会に参加してんのか」
九郎がそう言うと燕さんは「そうそう」と首を縦に振った。
「ということで、これにて失礼! あ、そのお菓子期限近いから早めに食べてね! それじゃあ!」
「おー」
そう言って燕さんは風のように去って行った。
俺はいろいろな衝撃にぽかんとしていた。それから九郎を見上げてこう訪ねる。
「もしかして、俺、ほかにも黒狗の人に会ってたりする……?」
「全員会ってるな」
「……瑠奈お姉ちゃん、とか?」
「うん」
強い人だとは思っていたがまさかそんな偶然があり得るのだろうか。
しかも、前の代の黒狗と一緒だなんて……。前の代の黒狗とは全く接点がなかった。というのも今の帝様が死ぬ頃にはほとんどいなくなっていたからだ。
これも俺がいろいろ関わったからまだ死んでいないのだろうか。それなら俺は彼らを死なせないようにしないと。
こうして、俺は黒狗に入ったのである。
そして、当然と言えば当然だが俺が黒狗に入隊したことは知人に知られていた。
また、意外にもそーちゃんにお友達ができた。
あの武士の物語が好きな子らしい。名前は小夜ちゃんと鶫ちゃんである。この二人、勘がよくて俺と一言二言話しただけで、もしかして新しい黒狗の方ですか……?と聞いてきた。俺が驚いている間にそーちゃんがどや顔で代わりに「そう」と答える。
すると二人は喜んで手を取り
「楓様だ!!!!」
「楓だ!」
「でしょー?」
そうして三人は盛り上がっていた。まあ、仲良しならばよかった。
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