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皇宮招集
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皇宮。
都の中心に位置している中枢。
その中でも帝の一族が住んでいるとされている皇居は警備が厳重である。国の権力者が住んでいるのでおいそれと不特定多数の人が出入りするのはまずない。あるとすれば、次期七宝を選出するさいの儀式で集まるぐらいである。
しかし、この度、帝のおふれにより七宝並びにそれに属する者は皇宮に登城する運びとなった。
この機会を逃すほど彼らは馬鹿ではない。
帝の皇居に入れる、つまりはまだ幼い次期帝候補もそこにいるということでこぞって自分の子供を一緒に連れて行くものばかりだった。また、それ以外にも名門の子供に見初められる可能性もあったため、参加者の多くは子供と一緒に来ていた。連れてこられた子が親の思惑通りに動くかどうかは別として。
(だる……)
そんな親を持つ一人である柊はチラッと隣にいる父親という存在の男を見た。七宝の恩恵にあやかりたいという欲をひけらかし、遠い親戚筋の毘沙門邸に一緒に連れられては6、7ほど年下の天才の子守りをさせられる。自分が特別な存在だと自覚している中でも最悪の部類であるそれが柊は正直嫌いであった。
七宝の屋敷には特殊な法術がかけられており、柊はその最悪の顔を認識できない。これは全ての七宝の屋敷にかかっているものだ。子供は狙われやすいからこうやって誰かわからないようにしているという。だから、すぐに分かったのだ。
屋敷の庭のはずれの屋敷に出入りしている一人の子供の存在がなんなのか。一瞬だけだが、それでも十分。この屋敷で顔が認識できない存在は毘沙門の苗字を名乗れるはずの子供だけ。
病弱だなんてとんでもない。
法術が使えない子供は屋敷に入ることができず、暗くて狭くて埃っぽいそこにゴミのように押し込められていたのだ。
(あぁ……)
それを見た柊は、碌でもない一族だと再認識する。かといって、自分が介入できる問題でもないのでただその姿を見ただけで何もできなかった。だって、他人事ではない。明日は我が身。柊は、自分の身を守るためにそれを見ていないものとして視線を逸らした。
当然だが、その人物はこの皇宮にいない。
そして柊は、皇宮に入り初めて、最悪の顔を認識した。
「当主様!」
柊の父がそう言って頭を下げている人物には見覚えがある。毘沙門の当主だ。柊は同じように頭を下げながらもチラリと彼に引っ付いている子供を見る。艶やかな黒髪にまんまるの大きな瞳。なるほど、確かに容姿は整っていて、目を引く。その上才能があるとなれば周りが放っておくはずがない。当主という言葉に一斉に視線がこちらを向いていた。どこかの当主であることがわかれば次はその息子、ないし娘だ。
いやだな、と柊は思った。自分が頭を下げているその場面をいろんな人に見られているその事実が嫌だった。早く終わらないだろうか、そう思っていると「顔をあげてください」と声が聞こえた。子供の声だ。
その言葉で顔を上げるのはかなり癪だったが、これ以上頭を下げる事よりもましだったので柊は顔をあげる。すると、子供と目が合った。
「久しぶり!柊お兄ちゃん!」
「お久しぶりです、理央様」
彼はにこっと笑顔を見せて柊にかけよった。柊は彼、毘沙門理央にもう一度頭を下げながら挨拶をする。
「様とかいいってば!別に僕が偉いわけじゃないし!敬語もなし!ね?」
ちらりと柊は自分の父親を伺う。父の不興を買う事だけは避けたい。その為に柊は父の反応を見ると彼はにこにこと上機嫌であった。それを見た柊はにこりと笑顔を作る。
「分かった。理央君で、いいかな?」
「うん!僕知り合いあんまりいないから柊お兄ちゃんがいて嬉しい!」
「此方こそ、理央君がいて心強いよ」
柊がそういうとぱっと顔を明るくしてにこにこ笑顔になる理央。それを冷めた目で内心見ながらもそれを悟らせないように笑顔を張り付ける。
そして並んで皇宮の中に入ると、案内された場所は大きな広間であった。一番奥の上座には御簾が垂れており、順に横に膳が並べられていた。まるで宴会場のようだ。
(上座の方は七宝の本家が座る場所か……)
御簾の向こう側は恐らく帝であろう。来るかどうかは分からないが、七宝の本家が次いで権力を持っているので上座に近いのは当たり前だ。
まあ、どう転がっても柊が座れない席である。
(もう片方の上座には何処かの七宝がいるな。毘沙門の他の……)
ばちり、とそこで柊は初めて上座にいる二人の人物と目が合った。と同時にさーっと血の気が引いていく。
都の中心に位置している中枢。
その中でも帝の一族が住んでいるとされている皇居は警備が厳重である。国の権力者が住んでいるのでおいそれと不特定多数の人が出入りするのはまずない。あるとすれば、次期七宝を選出するさいの儀式で集まるぐらいである。
しかし、この度、帝のおふれにより七宝並びにそれに属する者は皇宮に登城する運びとなった。
この機会を逃すほど彼らは馬鹿ではない。
帝の皇居に入れる、つまりはまだ幼い次期帝候補もそこにいるということでこぞって自分の子供を一緒に連れて行くものばかりだった。また、それ以外にも名門の子供に見初められる可能性もあったため、参加者の多くは子供と一緒に来ていた。連れてこられた子が親の思惑通りに動くかどうかは別として。
(だる……)
そんな親を持つ一人である柊はチラッと隣にいる父親という存在の男を見た。七宝の恩恵にあやかりたいという欲をひけらかし、遠い親戚筋の毘沙門邸に一緒に連れられては6、7ほど年下の天才の子守りをさせられる。自分が特別な存在だと自覚している中でも最悪の部類であるそれが柊は正直嫌いであった。
七宝の屋敷には特殊な法術がかけられており、柊はその最悪の顔を認識できない。これは全ての七宝の屋敷にかかっているものだ。子供は狙われやすいからこうやって誰かわからないようにしているという。だから、すぐに分かったのだ。
屋敷の庭のはずれの屋敷に出入りしている一人の子供の存在がなんなのか。一瞬だけだが、それでも十分。この屋敷で顔が認識できない存在は毘沙門の苗字を名乗れるはずの子供だけ。
病弱だなんてとんでもない。
法術が使えない子供は屋敷に入ることができず、暗くて狭くて埃っぽいそこにゴミのように押し込められていたのだ。
(あぁ……)
それを見た柊は、碌でもない一族だと再認識する。かといって、自分が介入できる問題でもないのでただその姿を見ただけで何もできなかった。だって、他人事ではない。明日は我が身。柊は、自分の身を守るためにそれを見ていないものとして視線を逸らした。
当然だが、その人物はこの皇宮にいない。
そして柊は、皇宮に入り初めて、最悪の顔を認識した。
「当主様!」
柊の父がそう言って頭を下げている人物には見覚えがある。毘沙門の当主だ。柊は同じように頭を下げながらもチラリと彼に引っ付いている子供を見る。艶やかな黒髪にまんまるの大きな瞳。なるほど、確かに容姿は整っていて、目を引く。その上才能があるとなれば周りが放っておくはずがない。当主という言葉に一斉に視線がこちらを向いていた。どこかの当主であることがわかれば次はその息子、ないし娘だ。
いやだな、と柊は思った。自分が頭を下げているその場面をいろんな人に見られているその事実が嫌だった。早く終わらないだろうか、そう思っていると「顔をあげてください」と声が聞こえた。子供の声だ。
その言葉で顔を上げるのはかなり癪だったが、これ以上頭を下げる事よりもましだったので柊は顔をあげる。すると、子供と目が合った。
「久しぶり!柊お兄ちゃん!」
「お久しぶりです、理央様」
彼はにこっと笑顔を見せて柊にかけよった。柊は彼、毘沙門理央にもう一度頭を下げながら挨拶をする。
「様とかいいってば!別に僕が偉いわけじゃないし!敬語もなし!ね?」
ちらりと柊は自分の父親を伺う。父の不興を買う事だけは避けたい。その為に柊は父の反応を見ると彼はにこにこと上機嫌であった。それを見た柊はにこりと笑顔を作る。
「分かった。理央君で、いいかな?」
「うん!僕知り合いあんまりいないから柊お兄ちゃんがいて嬉しい!」
「此方こそ、理央君がいて心強いよ」
柊がそういうとぱっと顔を明るくしてにこにこ笑顔になる理央。それを冷めた目で内心見ながらもそれを悟らせないように笑顔を張り付ける。
そして並んで皇宮の中に入ると、案内された場所は大きな広間であった。一番奥の上座には御簾が垂れており、順に横に膳が並べられていた。まるで宴会場のようだ。
(上座の方は七宝の本家が座る場所か……)
御簾の向こう側は恐らく帝であろう。来るかどうかは分からないが、七宝の本家が次いで権力を持っているので上座に近いのは当たり前だ。
まあ、どう転がっても柊が座れない席である。
(もう片方の上座には何処かの七宝がいるな。毘沙門の他の……)
ばちり、とそこで柊は初めて上座にいる二人の人物と目が合った。と同時にさーっと血の気が引いていく。
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