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「この前の!」
「!」

そう言って月彦君がそーちゃんに近づいてくる。
あ、ああ、今は! 今は放っておいてくれないか!? 俺が引き留めたのが悪いのだけど!!
そう思っていたら、さっとそーちゃんが俺の後ろに隠れる。ぎゅうううっと久遠並みに俺の服を掴んで警戒しているようだ。そんな彼に気付いていない月彦君は首を傾げつつも気にしないで俺を間に挟んで話をする。

「この前は話が出来なかったから、気になっていたんだ!」
「……はあ? 友達いなくて一人でいた俺に対して可哀想だから声をかけようとか思ってたの?」

アっ! そーちゃんそれはまずい!! その言い方はそーちゃんが悪い!! 多分月彦君は善意と好意と天然素材で出来てるから彼には悪気はない! 見てよ! このきょとん顔。
そして後ろにいる月彦君のお友達二人は青筋立ててる。拓海君なんか兄さんの弟弟子に何て口の利き方してやがるみたいな顔して腕まくりしてる! 殺る気!!

「お、おち……っ!」
「不快にさせたようならすまない! ただ仲良くなりたかっただけだ! 迷惑だったらもうしない!」

月彦君が潔くそういった。裏表がない彼の本意である。通じただろうか、そーちゃんには。ちらりと後ろを見ると彼は少し俺の背中から顔を出して月彦君を窺うようにして見ている。

「俺以外にも友達いるじゃん……」
「俺は君と友達になりたいから声をかけたのだが……。やはり迷惑だろうか?」
「……」

月彦君がしゅんとしている。俺が罪悪感を覚える。もう一度そーちゃんを見て、彼はそっと俺の背中から出てきた。

「ごめんなさい、違くて、ただ、羨ましくて……」
「? 俺が?」
「うん、友達沢山いるから。俺には、しーちゃんとくーちゃんしかいないから……」

そーちゃんは正直にそう言ってしゅんっと小さくなる。悪いとは思っているようだ。この歳で、自分の非を認められるのは正直感心する。だってまだ俺と同い年くらいでしょ? 6か7あたりなのに、羨ましいってことも分かっていて謝れるのは誰だって出来る事じゃない。
そう思いながら月彦君の反応はどうだろうかと彼を見ると、彼は一瞬驚きの表情を見せるが次には笑顔を見せた。

「なら今日から俺たちが友達だな!」
「え」

そして月彦君がそう言うと、彼はばっと後ろを見て尊君と拓海君に駆け寄る。

「こっちは拓海で、こっちは尊先輩!」
「尊だ。よろしく」
「拓海です。尊兄さんの弟です」

突然話を振られた二人はとりあえず各々名前を口にする。そーちゃんは戸惑いながらも恐る恐る彼らを見て自分も名乗った。

「宗太です。その、俺も友達に入れてくれるんです、か……?」

かなりびくびくしながら顔色を窺っている。でも俺の後ろに隠れることはしない。
そんな彼を見て、尊君と拓海君は表情を柔らかくした。

「勿論。というか、友達なんだからそんな怯えなくていいよ。こっちこそごめんね。なんか、びびらせちゃって」
「いえ、俺が悪いので……」
「敬語もいいし呼び捨てで構わない。無理にとは言わないが」
「俺も構わない!」
「! わ、分かった、拓海、尊、月彦。お、俺も呼び捨てで言ってくれると嬉しい……」

そーちゃんがそう言うと、三人が同時に「宗太」と口にしてぱっとそーちゃんが顔を明るくした。そしてぱっと俺を見る。

「しーちゃん、友達出来た」
「うん、良かったね」
「うん、ありがとう」
「え? いや俺は何も……」
「しーちゃんのお陰で俺色んな人とお話できるようになったから、だからありがとう」
「あ、ど、どういたしまして……」

そーちゃんも結構素直にお礼を言ってくれるので悪い気はしない。というかちょっと照れる。そう思っていたら、どーんっと久遠が俺の腹に頭を押し付けて抱き着いてきた。

「くちゃも! あーと! あーとよ?」
「あ、うん、どういたしまして」

んふ~~っと俺の返答にご機嫌で久遠がにこにこ笑顔になる。

それから庭で蹴鞠をすることになり、一応組み分けはしたのだが、最後には月彦君とそーちゃんの一騎打ちみたいになった。二人ともかなりの負けず嫌いのようだ。ある意味相性がいいだろう。
ともあれ、これで明日の集まりでそーちゃんが孤立することはなさそうでよかった。
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