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「しちゃ、きょお、ふだ、やう!」
「そうだね、そーちゃん来てからやろうか」
「ん!」

毎日ここに来るようになった久遠がそーちゃんに会うのは必然的だ。
初めて会った時、久遠は絶望的な表情を見せた。そしてぶるぶる震えながら俺を見て「なぁで……?」と声をあげる。

「しちゃの、とも、くちゃ、う……」
「……しーちゃんの友達?」
「……ぅ」
「あ、うんそうなんだけど……」

ぎゅうううううっと俺に抱き着いて久遠が渋い顔をしている。そーちゃんはそんな久遠に首を傾げつつ、久遠の目線に合わせるため座り込んだ。

「俺は宗太。そーちゃんっと呼んでほしい。出来れば、仲良くしたいけど……」
「……しちゃ、とーない?」
「とらない」
「……くちゃ」
「くーちゃん?」
「ん」

こくんと頷いた久遠を見てそーちゃんが笑顔を見せる。ちょっとこの二人衝突するんじゃないかと思ったが、どうにかなった。その事にほっとしていると動向を見守っていたらしい紫さんと目が合った。彼はぐっと親指を立てている。もしかしたら紫さんがそれとなくそーちゃんに話をしてくれたのかもしれない。久遠がちょっと俺の事に敏感だってことを。

お陰で今のところ喧嘩しないで仲良くしてくれている。

そんなそーちゃんが今日は少し遅れて昼頃にやって来た。
表情は沈んでいて、何かあったのは明白である。
あの筆を捨てられた梓さんと同じだ。因みに福禄の当主にこんなものは相応しくないと捨てられた筆は、梓さんが落ち込んでいた日に持ち出していたので駆君の手元に戻っている。一緒に勉強する時に使っているらしい。良かった良かった。

「う? そーちゃ、どーたの?」

と、そんな事を考えていたら、俺よりも先に久遠がそう聞いた。おお、あまり他人の機微に興味ないと思っていたが、そーちゃんはそれなりに仲のいいお友達になれたという事だろうか。
それは良い事だ。そーちゃんはなんたって、七宝の一人だからな。何かあったら守ってくれるはずだ。

「明日、皇宮で集まりがある……」
「ふーん?」

あ、聞いたけど、久遠全く興味なさそうだな。ぎゅっと俺に抱き着いてそう言った彼に苦笑しつつ聞いただけでも成長したと思うことにする。
それにしても皇宮に集まるなんて、やり直し前はあっただろうか。

「今までこんなことなかったのに……」
「そうなの?」
「うん、会合とか人が集まると目立つから」
「……ああ」

まだ自衛が出来ない次期当主や七宝候補の子供たちを守るためにあまり屋敷から出さないとは噂で聞いたことはあるが本当だったらしい。確かにまだ子供で自分の身を守れないよな。
だから、尊君や駆君は名字を名乗っていないし、七宝の子供たちの名前は知られていない。だからいまだに俺が毘沙門の子供だということがばれていないのだが……。

「……親戚とかも来て……俺、友達いないし……」
「梓さんいるじゃん」
「……梓君は、多分色んな人に声かけられる、から……」
「んー、そっかぁ……」

知り合いで言えば尊君や拓海君などがいるのだが、相手は七宝の子供だってことを隠しているので下手なことは言えない。俺も行ければいいんだけど、行ったら最後色んな人に迷惑をかける。
そこでお友達が出来ればいいけど、多分尊君たちで固まってしまう……。うーん!!
うんうん、どうにかならないかと頭を悩ませていると「ごめんください」と声がした。
俺に抱き着いていた久遠がぱっと離れて「はるちゃ!」と嬉しそうに声をあげながら玄関に向かっていく。

「ちょ、くーちゃん待って! ごめんそーちゃん、一旦その話は後ででいい!?」
「うん。俺も一緒に行く」
「ありがとう!」

そう言って二人で久遠を追いかけると、玄関では叢雲さんが出迎えをしていた。そこには晴臣さんと……。

「! しーちゃん!!」
「ほんとにいた!」
「よかった……」

月彦君と拓海君、尊君がいた。丁度頭を悩ませていた問題が解決しそうだ。
よしっと思わずこぶしを握り締めてそーちゃんを見ると彼は月彦君を見て固まっている。それから踵を返すので反射的に腕を掴んでしまった。

「ど、ど、どうしたの!?」
「……いや、ちょっと……」

もしかして、月彦君と何かあった!? 月彦君全く見たことないって思ったけど、もしかしてそーちゃんの家の関係で何か悪い事でもあったのだろうか! そうなったらこれは最悪な状態ではないだろうか!!
これは余計なおせっかいだったかもしれないと俺は内心焦っていると、「あ!」と月彦君が声をあげた。
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