【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「くちゃいく!!!」



そして耳元で大きな声が響いてびくりと反射的に目を開けてしまう。ついでに呆けた声も出た。



「え……?」

「行きます?」

「ん!!」

「じゃあ行きましょうか」

「ま、まって、どうして!?」



先ほどの言葉から、駆の家は兵士がこれから乗り込み操作をするだろう。敢えて今行く必要はない。だから駆は戸惑っていると晴臣がふわりと笑顔を見せる。



「実は私たち、怖いものばいばい隊なんです」

「は……?」

「勘がいい若君に、頼りっぱなしで心苦しいですが、まあそういうことなので行きましょう」

「え、は?」

「ばばいすう!しちゃ、まもう!!」

「では、作戦開始ですね!」



そして次には、目の前に見知った場所だった。静まり返っており、まだ何も起こっていないようである。



「丁度いいですね。地下牢はどこに?」

「え、な、え?」



突然のことに戸惑いを隠せない駆だが、そんな彼にお構いなしでとりあえずそれっぽいところ探すかと足を進める。はっとすぐに我に返った駆が慌てて「庭の蔵のところです!!」と叫んだ。そして声が大きかったかと慌てて口を抑える。

丁度、周りに人はいないようで気づかれることはなかった。



「庭の蔵ですね。じゃあ皇宮の兵士が攻めてくる前に回収して帰りましょう」

「あ、で、でも、あずにいも、とうしゅさまみたいに……」



思い出すのは、門の外に行く前の事。

福禄の当主に呼ばれた駆が見たのは地下牢に閉じ込められている梓だった。全身打撲で顔も腫れあがって酷い状態だった。あずにいっと叫ぶと、彼が指示を出して梓を外に連れ出す。

―――やれ。

そう言って、梓の足を斬った。

悲鳴を上げて、もう一本切り落とそうなんて言って駆は何でもしますやめてくださいと縋りついて泣き叫んだ。そして、足がない死体に梓の足をくっ付けて、梓の形になった死体を造り上げたその法術を見た。

外に行ってこい。箱から出る妖魔を倒してこい。

今にして思えば、性能を試す為のものだろう。これが初めてではなかったが、そんな恐ろしいものの力試しだったなんて。

呼吸が荒くなってもう一度叫びそうになってどうにか堪えた。



「いえ、数日前に梓君を若君が見ています。その時は怖いものだと認識していなかったので当主とは違うと思います。少なくとも、その時は死体ではなかった」

「え……?」



駆が何のことか分からずに声をあげる。すると、そこで文が届いた。久臣のものだ。ざっとそれを晴臣が見て成程っと呟く。



「因みに、貴方が梓君を最後に見たのは?」

「え、と、多分二刻ほど前、です」

「その時は普通でしたか?」

「その、時は……足を……」

「成程、そこで作ったんですね。ぎりぎりですかね。足を切断されて、処置をしていればいいですが……。兎に角急ぎましょう」



晴臣は、この法術の仕組みを概ね理解してそう呟く。

死体を利用し、身体の一部を持っていくことで、その人物の能力を使える死体を造り上げるなんておぞましい。

晴臣はそう考えながら急いで蔵に向かう。「えいっ」と可愛らしい掛け声とともに錠を粉砕した晴臣と共に侵入する。

少し暗いが、万が一の為に晴臣は久遠と駆をおろし刀に手をかける。



「足元気を付けて、絶対に前に出ないように」

「わ、分かりました」

「ん」



こくんと二人は晴臣の言う通りに頷いて下に向かう。晴臣の予想に反して見張りも何もいないままそこに辿り着いた。

乾いた血の跡が床にあり、引きずった跡が見える。警戒しながらも奥に進むとぐったりと倒れている人物を見つけた。



「!」

「あ、あずにい!」



晴臣はすぐにその人物に駆け寄った。駆も同じように駆け寄って震える手で彼の手を握る。冷たい。



「あ、あ……」

「まだ生きてます!治療を……っ」



そう言って晴臣が法術をかける。駆もはっとして一緒になって法術をかけた。しかし、時間が経ちすぎているので二人だけでは間に合わない。

くそっと晴臣は悪態をつく。

血を流しすぎていることや、内臓に傷が出来ていること、様々な要因があってどこをはじめに治せばいいのか分からない。手始めに片っ端からできるものはやるがこれでは―――。

不意にとっと小さい手が晴臣の上に置かれた。そして一気に圧迫されそうなほど強力な力が流れ込む。



「う、ぐ……」

「~~~っ!!」



それに晴臣と駆は呻き声をあげるがしかし、それはすぐに収まって気づけば梓の身体は綺麗に治っていた。無くなったはずの足さえも。



「う……」

「っ! あずにい!!」



梓が意識を取り戻して目を開ける。駆はそんな彼に抱き着いてわんわん泣いた。



晴臣は一先ず息を取り戻したことにほっとしながら、ふらふらと隅の方に行こうとする久遠を後ろから抱きかかえる。一瞬びくりと体を震わせた彼は晴臣を見ることなくじーっと床を見つめていた。



恐らく、先ほどの法術で何か引け目を感じていることは明白だろう。久遠は小さいがそういうのには敏感だ。



晴臣は、ふと、法術が出来すぎて化け物と言われていた兄の姿を思い出した。何を考えているか分からない、奥方様の操り人形。片っ端からそんな事言うやつを兄にばれずにしめていたのが懐かしい。



「若君、ありがとうございます」

「……」

「兄様に似て、若君は優秀ですね」



晴臣がそう言うと、久遠は彼を見た。顔は思いっきりしかめっ面でぷくうっと頬を膨らませる。



「とと、や……」

「そうですか?では今度は気を付けます」

「……ん」



こくんと頷いた久遠がそう言って漸く晴臣の首に手を回して抱き着いた。それからうとうとと眠そうに舟を漕ぎ始める。

一気に力を使ったからきっとその反動だろう。



「おやすみなさい。私の大事な若君」



晴臣がそう言うと安心したかのように久遠は眠りにつく。

晴臣はそれからさてっと、久臣に文を飛ばした。

梓という人物は保護しました、無事です、と。











その日、福禄の屋敷に帝の兵士が押し寄せた。全ての者が捕縛されたが、とある時期より前にいた使用人並びに当主、その奥方は法術によって動いていた死体であった。

これにより、福禄の当主は従妹であるーーーに代わり、次期当主はその息子梓と定められる。

そして、今後死んだものを扱った法術は禁止とし見つけ次第即刻死刑とする。
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