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相性……?
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雫さんがこちらにやってくる。
びくりっと気まずい思いもあり体を震わせると、さっと久臣さんが俺を抱えて後ろに下がった。
「この子に近寄るな」
「別に危害を加えようなんて思っていませんよ。貴方のように」
「は……?なにい……」
そこで不自然に、久臣さんは言葉を切った。
どうしたんだろうと彼を見上げると彼は酷く動揺した表情をする。顔色が悪い。
「久臣さん……?」
思わず俺がそう口にすると、彼ははっとして俺から手を離す。解放された俺は地面に足を付けつつ久臣さんを見上げた。
久臣さんはよろよろと少しずつ俺と距離を取っていくために下がっていってしまった。その行動の意図が良く掴めずに近づこうとしたが、久臣さんが「来ないで!」と悲鳴に似た叫び声をあげる。明確に拒絶されてしまい、俺はなすすべなくその場で立ち尽くす。すると、そんな俺の肩にぽんっと手が置かれた。
「おやおや、気に障ってしまいましたか?」
「―――っ!」
久臣さんが息を飲み俺の後ろにいる人物を睨みつける。振り返ると雫さんはにこにこ笑顔であった。
雫さんは俺の視線に気づきつつも顔は久臣さんに向いている。
「別に何もしませんよ。貴方が何もしないのであれば」
ぐっと久臣さんが何かに耐えるような表情をしてぐっと唇を噛む。そこで漸く、雫さんと久臣さんの間で何かが起きた、または起こっていると確信する。そして、それに何か久臣さんが酷い罪悪感を抱いて、雫さんはそれを刺激して煽っている。
俺はぱっと肩に置かれている雫さんの手を払い、彼を見据える。
「久臣さんも俺を傷つけません」
「でも彼は、過去で貴方を傷つけようとしました」
雫さんがそう言った。彼がそういうのであればそういう出来事があったのだろう。
もしかして、俺が久遠に近づく不届き者だから何かされたのかもしれない。それを雫さんが庇ってくれたのかも。傷を治してくれただけではなく、守ってくれたのかもしれない。
そうであればますます申し訳ないが、久臣さんの行動は別に責められるほどのものではない。
家族を守るのは当たり前だ。
しかし、もう久臣さんは多分俺に危害を加えることはないと思う。久遠に気に入られているからというのもあるけど、態々殺したい子を今助ける必要はない。だってここは都の外。放っておけば勝手に妖魔に殺された可哀想な子供で終わるから。
「過去はそうだったかもしれません。でも、これからそんな事は起こりません」
俺がそう言い切った。そんな俺を見て雫さんが表情を変えずに首を傾げる。
「どうして、そう言いきれましょうか?」
雫さんの言い方が何となく引っかかる。何かあるのだろうかと彼の顔色をうかがうが、何を考えているか分からない。けれど、根拠はある。
「今の状況を見てください、雫さん。俺が気に入らなかったら助ける必要ないでしょう?」
そうだ。わざわざここまでくる必要がない。例え、駆君に助けを請われていても間に合わなかったで良いだろう。
まだ俺に危害を加えたいならばここまで必死に守る必要はない。
「俺は助けてくれた久臣さんを信じています」
だからこれ以上久臣さんを刺激するのはやめて欲しい。そう思ってじいっと雫さんを見つめる。雫さんはその俺の視線を受け止めて、ふわりと柔らかい笑顔を見せた。一瞬その笑顔に惚けて見つめると、彼はすぐに人の悪い笑顔になる。
「だ、そうですが。そこの御方はどうするつもりなのでしょうか?」
「……」
「いやあ、羨ましいですねぇ。こんな小さな子にそこまで言われるなんてとても」
「……」
「おやおや、黙り込んでどうしたのでしょう?」
「あの雫さん、それぐらいに……」
俺は久臣さんを信じている。それでいいじゃないか。それで終わってくれこの話は!
そう思って雫さんに声をかけるが、雫さんはふむっと一度唇に指をあてた後にすっと温度のない視線を久臣さんに向ける。
「……であれば、貰いますね」
「え……?」
雫さんがそう言うと俺をひょいッと軽々抱える。
俺は一瞬呆けたが次には踵を返して奥に行こうとするので慌てて彼を止めようと声をかける前にしゅっと俺たちの目の前に久臣さんが現れた。
転移だ。こんな間近に移動されて驚き、声が出そうになった。
「……っ」
「おや、おや。邪魔なのでどいていただけませんか?分かるでしょう?一つ二つ、失っただけで簡単に脆く壊れたお前のところに大事な子を置いていくわけにはいきません」
雫さんのあまりの言いように強く物申そうとしたら声が出ない。ばっと雫さんを見ると彼は一瞬だけ視線を向けるがすぐに久臣さんの方に向けた。
どういうことだ?なんでこんな事……っ!?
戸惑って一先ず久臣さんを助けなければと雫さんの腕の中で暴れようとした。だって久臣さんが、雫さんに言われた言葉に傷ついて俯き始めている。これ以上、俺に親切にしてくれた人を傷つけられたくない。
刹那、彼がぽつりとつぶやいた。
「―――守る」
そして、俯いていた顔をあげて雫さんを見据える。
「しーちゃんを守る。必ず。今度は絶対に」
「……そうですか」
瞬間、雫さんが優しい笑みを浮かべて俺を久臣さんに渡すために腕を伸ばす。それに答えて久臣さんが俺を受け取ると、雫さんは姿を消していた。
いや、違う。
『まあ、出来なくても私がいるんですけどねしーちゃんのお傍には』
「お、お前、しーちゃんの蛇!!」
雫さんは、白い蛇になった。そしてするりと俺の首元に巻き付いてくる。
『あはは、普通気づくでしょうに。髪も瞳も同じじゃないですか。ばーかばーか』
「は、はあ……っ!?」
どういうわけか、蛇になった雫さんの声が聞こえるらしい。馬鹿と言われて叫んでいる久臣さんにあははっと楽しそうに声をあげながら雫さんが俺の袂に入る。
「しーちゃん、そいつ出して」
「お、落ち着いてください!雫さんは親しみを持ってほしくて言ったんだと思います。多分……」
思わず雫さんの擁護をしてしまったが、本当かどうかは分からない。でも雫さんが急に気安くなったので仲良くして欲しいという現れじゃないだろうか。きっと。
『そうですそうです。私ってばお茶目なので。というか、そんなのも分からないんですかー?あ、ごめんなさい。友達少ないお前には通じない冗談でしたね。うっかりうっかり』
「殺す!!」
「落ち着いて!!」
雫さんもう久臣さんを刺激しないでお願いだから!!
片やきゃあきゃあ楽しそうに、片や殺気を飛ばしながらからかわれ続け俺は間に挟まれて為すすべなくお願いだから落ち着いてくださいー!!と言い続けるしかなかったのである。
ーーーー
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個人的に小説に関係のないコメントは公開を控えさせていただきます。
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「この子に近寄るな」
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そこで不自然に、久臣さんは言葉を切った。
どうしたんだろうと彼を見上げると彼は酷く動揺した表情をする。顔色が悪い。
「久臣さん……?」
思わず俺がそう口にすると、彼ははっとして俺から手を離す。解放された俺は地面に足を付けつつ久臣さんを見上げた。
久臣さんはよろよろと少しずつ俺と距離を取っていくために下がっていってしまった。その行動の意図が良く掴めずに近づこうとしたが、久臣さんが「来ないで!」と悲鳴に似た叫び声をあげる。明確に拒絶されてしまい、俺はなすすべなくその場で立ち尽くす。すると、そんな俺の肩にぽんっと手が置かれた。
「おやおや、気に障ってしまいましたか?」
「―――っ!」
久臣さんが息を飲み俺の後ろにいる人物を睨みつける。振り返ると雫さんはにこにこ笑顔であった。
雫さんは俺の視線に気づきつつも顔は久臣さんに向いている。
「別に何もしませんよ。貴方が何もしないのであれば」
ぐっと久臣さんが何かに耐えるような表情をしてぐっと唇を噛む。そこで漸く、雫さんと久臣さんの間で何かが起きた、または起こっていると確信する。そして、それに何か久臣さんが酷い罪悪感を抱いて、雫さんはそれを刺激して煽っている。
俺はぱっと肩に置かれている雫さんの手を払い、彼を見据える。
「久臣さんも俺を傷つけません」
「でも彼は、過去で貴方を傷つけようとしました」
雫さんがそう言った。彼がそういうのであればそういう出来事があったのだろう。
もしかして、俺が久遠に近づく不届き者だから何かされたのかもしれない。それを雫さんが庇ってくれたのかも。傷を治してくれただけではなく、守ってくれたのかもしれない。
そうであればますます申し訳ないが、久臣さんの行動は別に責められるほどのものではない。
家族を守るのは当たり前だ。
しかし、もう久臣さんは多分俺に危害を加えることはないと思う。久遠に気に入られているからというのもあるけど、態々殺したい子を今助ける必要はない。だってここは都の外。放っておけば勝手に妖魔に殺された可哀想な子供で終わるから。
「過去はそうだったかもしれません。でも、これからそんな事は起こりません」
俺がそう言い切った。そんな俺を見て雫さんが表情を変えずに首を傾げる。
「どうして、そう言いきれましょうか?」
雫さんの言い方が何となく引っかかる。何かあるのだろうかと彼の顔色をうかがうが、何を考えているか分からない。けれど、根拠はある。
「今の状況を見てください、雫さん。俺が気に入らなかったら助ける必要ないでしょう?」
そうだ。わざわざここまでくる必要がない。例え、駆君に助けを請われていても間に合わなかったで良いだろう。
まだ俺に危害を加えたいならばここまで必死に守る必要はない。
「俺は助けてくれた久臣さんを信じています」
だからこれ以上久臣さんを刺激するのはやめて欲しい。そう思ってじいっと雫さんを見つめる。雫さんはその俺の視線を受け止めて、ふわりと柔らかい笑顔を見せた。一瞬その笑顔に惚けて見つめると、彼はすぐに人の悪い笑顔になる。
「だ、そうですが。そこの御方はどうするつもりなのでしょうか?」
「……」
「いやあ、羨ましいですねぇ。こんな小さな子にそこまで言われるなんてとても」
「……」
「おやおや、黙り込んでどうしたのでしょう?」
「あの雫さん、それぐらいに……」
俺は久臣さんを信じている。それでいいじゃないか。それで終わってくれこの話は!
そう思って雫さんに声をかけるが、雫さんはふむっと一度唇に指をあてた後にすっと温度のない視線を久臣さんに向ける。
「……であれば、貰いますね」
「え……?」
雫さんがそう言うと俺をひょいッと軽々抱える。
俺は一瞬呆けたが次には踵を返して奥に行こうとするので慌てて彼を止めようと声をかける前にしゅっと俺たちの目の前に久臣さんが現れた。
転移だ。こんな間近に移動されて驚き、声が出そうになった。
「……っ」
「おや、おや。邪魔なのでどいていただけませんか?分かるでしょう?一つ二つ、失っただけで簡単に脆く壊れたお前のところに大事な子を置いていくわけにはいきません」
雫さんのあまりの言いように強く物申そうとしたら声が出ない。ばっと雫さんを見ると彼は一瞬だけ視線を向けるがすぐに久臣さんの方に向けた。
どういうことだ?なんでこんな事……っ!?
戸惑って一先ず久臣さんを助けなければと雫さんの腕の中で暴れようとした。だって久臣さんが、雫さんに言われた言葉に傷ついて俯き始めている。これ以上、俺に親切にしてくれた人を傷つけられたくない。
刹那、彼がぽつりとつぶやいた。
「―――守る」
そして、俯いていた顔をあげて雫さんを見据える。
「しーちゃんを守る。必ず。今度は絶対に」
「……そうですか」
瞬間、雫さんが優しい笑みを浮かべて俺を久臣さんに渡すために腕を伸ばす。それに答えて久臣さんが俺を受け取ると、雫さんは姿を消していた。
いや、違う。
『まあ、出来なくても私がいるんですけどねしーちゃんのお傍には』
「お、お前、しーちゃんの蛇!!」
雫さんは、白い蛇になった。そしてするりと俺の首元に巻き付いてくる。
『あはは、普通気づくでしょうに。髪も瞳も同じじゃないですか。ばーかばーか』
「は、はあ……っ!?」
どういうわけか、蛇になった雫さんの声が聞こえるらしい。馬鹿と言われて叫んでいる久臣さんにあははっと楽しそうに声をあげながら雫さんが俺の袂に入る。
「しーちゃん、そいつ出して」
「お、落ち着いてください!雫さんは親しみを持ってほしくて言ったんだと思います。多分……」
思わず雫さんの擁護をしてしまったが、本当かどうかは分からない。でも雫さんが急に気安くなったので仲良くして欲しいという現れじゃないだろうか。きっと。
『そうですそうです。私ってばお茶目なので。というか、そんなのも分からないんですかー?あ、ごめんなさい。友達少ないお前には通じない冗談でしたね。うっかりうっかり』
「殺す!!」
「落ち着いて!!」
雫さんもう久臣さんを刺激しないでお願いだから!!
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