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暴走
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ばきんっと何かが割れた音がしてどっと心臓が動き出す。
「――――っ!! あ、あ―――っ!!」
目の前の顔らしきものを動けるようになった手で思いっきり殴る。ごきっと骨がきしむ音がしてすぐに手を払ってその場から離れようとしたが砂ぼこりが舞う。
まずいっと防御姿勢で攻撃に備えていたが、すぐにそれは晴れた。後ろにいたはずのその外套の人物はいつの間にか俺とかなり距離があって、彼はふわりとその外套を翻すと複数の箱が落ちた。
先ほどのあの箱だ。
まずいっと投げた刀を掴んで応戦しようとしたが、その箱が前触れもなく発火した。そして、誰かが一瞬にして距離を詰める。
その人物の後姿を見てあっと小さく声を出す。
久臣さんだ。なんでこんなところに!?
何かの仕事だったのだろうかと一瞬そんな事を考えるが、余裕が出来たので九郎に駆け寄って気が付いた。
先ほどまで九郎だったそれは全然知らない人物になっている。何かしらの法術にかけられてしまったのだろう。全然気づかなかった……。
法術に関してはやはりかなり無防備になってしまうようだ。ぐっと柄を握り俺も加勢しようとするが、その前に久臣さんが速攻で氷漬けにしている。
法術に無駄がない。
というか、連続でそんなに法術を使える人を初めて見た。勝負はついたと思われたが、久臣さんがひらりと体を引いて下がる。
すると氷漬けにされたはずのそれにぴきっと亀裂が入り、弾けた。久臣さんの法術ではとどめを刺すことが出来なかったようだ。
「久臣さん!」
「危ないから下がってて」
俺の前に立った久臣さんは俺にその破片が飛ばないようにこれもまた法術で盾のようなものを作ってくれた。それから指先一つ動かして氷の槍のようなものを作り出しそれを放つ。しかしそれらは躱されてしまった。
逃げる!!
刀を構え、追いかけようと地面を蹴ろうとしたが、それはぺこりと頭を下げて暗闇に消えた。
待てっと叫びそうになったが、追いかけないと判断した久臣さんが俺の方に振り返る。
「無事だった? しーちゃん」
ふわりと笑顔を見せる久臣さん。
何となくだが、無理しているように見える。こういう勘ってよく当たる気がするから聞いた方がいいかもしれない。これも何となくだけど。
「何かありましたか?」
言って後悔した。
いや、どの面下げてそんな事言ってるんですかね俺。
保護してくれたのに、勝手に逃げて、助けてくれたのにお礼も言わずに変なことを聞くなんて、第三者から見れば何だこの子供と思われて当然だ。
う、っと自分の行動に頭を抱える。しかし、吐いてしまった言葉を戻すのは不可能で久臣さんの反応を窺うために彼を見ると、きゅっと不自然な表情をしながら口を閉ざしていた。
俺、何かやばい事でも言っただろうか。
「あ、あの、あの、言いたくないならいいですし! というか、助けてくださってありがとうございました!!」
がばっと頭を勢い良く下げるとぐらっと眩暈がした。さっきの身体が動かなくなる法術に思いのほか体が負荷を負っていたようだった。
「しーちゃん!」
ばっと俺の身体を支えるために久臣さんが手を伸ばしたが、不自然にそれが止まる。俺は別に少しふらついただけなので支えて貰わなくても大丈夫だが……。
じっとそれを見て観察する。恩をあだで返したから怒っているのだろうかと思ったが、雰囲気がそれとは違う。
「ひさ……」
しかし、どんっと激しい音がして何かがこちらに飛んできた。すぐに久臣さんが俺の前に立ってそれを弾く。久臣さんのことが気になるが、まだここは都の外でその上まだ叢雲さんたちが戦っている。駆君のことも気になるし、梓さんも……。頭を切り替えて、襲い掛かってきた何かに視線を向ける。
「梓さん……?」
そこには叢雲さんたちと対峙しているはずの彼がいた。血濡れた刀を持っており、さっと血液が下がっていく。
叢雲さんと紫さんが殺された。そんな考えが一瞬にして浮かんでぐっと柄を持つ力が入る。
足だ。膝上あたり。
これも、もしかしたらさっきの九郎みたいな法術かもしれない。そこを斬り飛ばしてしまおうと刀を振るうがその前に誰かがそこを斬った。
がくんと力を失ったのか梓さんは崩れ落ちる。髪の色や身長などが全くの別人になりやはり先ほどの法術と同じようなものだろうと予想がつく。
―――と、それの足を斬った人物はそのまま久臣さんに向かって襲い掛かる。
「―――っ!!」
「そ、の、こから、離れろ……っ!!!」
襲い掛かってきたのは叢雲さんだ。
全身真っ赤で、目が血走っている。法術で弾かれるが一度地面に降りたつと素早く蹴って久臣さんにもう一度斬撃を繰り出す。俺は素早く彼らの間に入ってそれを受け止める。
「――――っ!! あ、あ―――っ!!」
目の前の顔らしきものを動けるようになった手で思いっきり殴る。ごきっと骨がきしむ音がしてすぐに手を払ってその場から離れようとしたが砂ぼこりが舞う。
まずいっと防御姿勢で攻撃に備えていたが、すぐにそれは晴れた。後ろにいたはずのその外套の人物はいつの間にか俺とかなり距離があって、彼はふわりとその外套を翻すと複数の箱が落ちた。
先ほどのあの箱だ。
まずいっと投げた刀を掴んで応戦しようとしたが、その箱が前触れもなく発火した。そして、誰かが一瞬にして距離を詰める。
その人物の後姿を見てあっと小さく声を出す。
久臣さんだ。なんでこんなところに!?
何かの仕事だったのだろうかと一瞬そんな事を考えるが、余裕が出来たので九郎に駆け寄って気が付いた。
先ほどまで九郎だったそれは全然知らない人物になっている。何かしらの法術にかけられてしまったのだろう。全然気づかなかった……。
法術に関してはやはりかなり無防備になってしまうようだ。ぐっと柄を握り俺も加勢しようとするが、その前に久臣さんが速攻で氷漬けにしている。
法術に無駄がない。
というか、連続でそんなに法術を使える人を初めて見た。勝負はついたと思われたが、久臣さんがひらりと体を引いて下がる。
すると氷漬けにされたはずのそれにぴきっと亀裂が入り、弾けた。久臣さんの法術ではとどめを刺すことが出来なかったようだ。
「久臣さん!」
「危ないから下がってて」
俺の前に立った久臣さんは俺にその破片が飛ばないようにこれもまた法術で盾のようなものを作ってくれた。それから指先一つ動かして氷の槍のようなものを作り出しそれを放つ。しかしそれらは躱されてしまった。
逃げる!!
刀を構え、追いかけようと地面を蹴ろうとしたが、それはぺこりと頭を下げて暗闇に消えた。
待てっと叫びそうになったが、追いかけないと判断した久臣さんが俺の方に振り返る。
「無事だった? しーちゃん」
ふわりと笑顔を見せる久臣さん。
何となくだが、無理しているように見える。こういう勘ってよく当たる気がするから聞いた方がいいかもしれない。これも何となくだけど。
「何かありましたか?」
言って後悔した。
いや、どの面下げてそんな事言ってるんですかね俺。
保護してくれたのに、勝手に逃げて、助けてくれたのにお礼も言わずに変なことを聞くなんて、第三者から見れば何だこの子供と思われて当然だ。
う、っと自分の行動に頭を抱える。しかし、吐いてしまった言葉を戻すのは不可能で久臣さんの反応を窺うために彼を見ると、きゅっと不自然な表情をしながら口を閉ざしていた。
俺、何かやばい事でも言っただろうか。
「あ、あの、あの、言いたくないならいいですし! というか、助けてくださってありがとうございました!!」
がばっと頭を勢い良く下げるとぐらっと眩暈がした。さっきの身体が動かなくなる法術に思いのほか体が負荷を負っていたようだった。
「しーちゃん!」
ばっと俺の身体を支えるために久臣さんが手を伸ばしたが、不自然にそれが止まる。俺は別に少しふらついただけなので支えて貰わなくても大丈夫だが……。
じっとそれを見て観察する。恩をあだで返したから怒っているのだろうかと思ったが、雰囲気がそれとは違う。
「ひさ……」
しかし、どんっと激しい音がして何かがこちらに飛んできた。すぐに久臣さんが俺の前に立ってそれを弾く。久臣さんのことが気になるが、まだここは都の外でその上まだ叢雲さんたちが戦っている。駆君のことも気になるし、梓さんも……。頭を切り替えて、襲い掛かってきた何かに視線を向ける。
「梓さん……?」
そこには叢雲さんたちと対峙しているはずの彼がいた。血濡れた刀を持っており、さっと血液が下がっていく。
叢雲さんと紫さんが殺された。そんな考えが一瞬にして浮かんでぐっと柄を持つ力が入る。
足だ。膝上あたり。
これも、もしかしたらさっきの九郎みたいな法術かもしれない。そこを斬り飛ばしてしまおうと刀を振るうがその前に誰かがそこを斬った。
がくんと力を失ったのか梓さんは崩れ落ちる。髪の色や身長などが全くの別人になりやはり先ほどの法術と同じようなものだろうと予想がつく。
―――と、それの足を斬った人物はそのまま久臣さんに向かって襲い掛かる。
「―――っ!!」
「そ、の、こから、離れろ……っ!!!」
襲い掛かってきたのは叢雲さんだ。
全身真っ赤で、目が血走っている。法術で弾かれるが一度地面に降りたつと素早く蹴って久臣さんにもう一度斬撃を繰り出す。俺は素早く彼らの間に入ってそれを受け止める。
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