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小噺 この親子似てるなぁ……。

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「ちょっと!私がこんなに話しかけてあげてるのに、その態度は何なの!?私は七宝の娘よ!皇宮の使用人の子供のくせに生意気よ!!」



金切り声が聞こえて慌てて私はそちらに走っていくと、興味なさそうに髪を弄っている兄さんとそれに対峙して顔を真っ赤にして叫んでいる女の子がいる。

帝の子供だと分からないように容姿は変えているので兄さんの事を使用人の子供の一人だと思っているのだろう。せめて服装に気を遣えば使用人の子供だなんて思われないだろうが、母の方針で粗雑な着物を着ているからそれは叶わない。

完全に使用人の子供が運よく皇宮に入ることが出来たと思われている。



兄さん顔良いからな……。

玉の輿狙いで連れてこられた子供だと思われてるんだろうな……。

で、それに引っかかったのがあの子。

ああ、兄さん。早くどっかいかねえかなって庭の方見て座りだしたし……。



「この……っ!」



その態度にかっとなって女の子が手をあげるが、その姿はぱっと消えた。きゃああああっと外から彼女の声が聞こえる。兄さんがとばしたようだ。



良かった。兄さんに危害を加えていたら、洒落にならない。知らなかったでは済まされない話だ。

穏便?なのかどうか分からないが一先ず何事も無くてよかった。



「兄さん、おはようございます」

「……晴臣、おはよう」



ふにゃりと兄さんが私に気付いて笑顔を見せる。

最近兄さんの笑顔が増えてきて嬉しいな。前はぎこちなく口角が上がっていただけなのに。

思わず自分も笑顔になると兄さんがはっとして私の横を素早く通り過ぎる。



「沙織ちゃん!!」

「あら、紺色さん。おはよう」

「ん!」



後ろを振り返ると沙織さんに抱き着いている兄さんがいる。兄さんは年齢の割に背が低くて沙織さんの腕の中にすっぽり収まっていた。

兄さんの背が低いのには訳がある。

昔、直接聞いたことがあるのだ。すると母が、小さい方が便利だからといって成長阻害する術をかけたからだと回答が来た。



思わずは?っと低い声が出たのだが、兄さんはどうしたんだろうと首を傾げるだけだった。兄さん自身かなり自分に無頓着すぎて、どうしてくれようあの女と常々思っていた。

本音を言うと、自分の手で始末したかった。どこで死んだんだろう、あの人。

私は憤慨しているが、兄さんはそれをうまく利用、といったら人が悪いが沙織さんの懐に入ることに成功している。



背が低い事や、今まであまり話さないで静かだったことなどは完全に人見知りだと思っているし、今の甘えたな態度に子ども、それは割と年の離れた子だと勘違いしている。

元々彼女自身、年下でもさん付けのようで私のことも弟さんと呼んでいるので多分そう。

態々指摘することはない。その人、もう元服済ませてますよなんていうことはない。

なでなでと頭を撫でられて兄さんはご機嫌だ。



「沙織ちゃん、どこに行くの?ついていっていい……?」

「ええ、勿論。って言ってもただ母に届け物をするだけだけど構わないかしら?」

「うん!」



ぎゅっと手を繋いで二人は去っていった。

凄い兄さん。ぐいぐいいくなぁ。



遠くない未来できっと家族になるだろうなとそう思いながら月日が経って、彼らに子どもが誕生した。

いや、顔は兄さんに似て美人だけど沙織さんの面影もあって可愛いまん丸の瞳をしている。



可愛い可愛いっと兄さんが親ばかっぷりを発動していた。だが、彼の愛情は届かず、寝返りもできない状態の若君がびっと腕を精一杯伸ばして拒否られていた。申し訳ないが笑った。

寝返りできるようになるとごろごろと転がって、はいはいできるようになると高速で私か沙織さんのところに向かい抱っこをねだる。それをぎりっと兄さんが歯噛みしていた。



さて、そんな若君は兄さんにとても似ていた。

ぼんやりとすることが多いし、無表情。親を見て育つと言われているというのに全く表情筋は動かない。

兄さんはすごく言いたげな表情で若君を見ていた。

何でこんなところ似たんだどうして。にこにこ笑顔のはずだったのに。という顔だ。

それを見て私と沙織さんはふふっと笑顔になってしまう。



「大丈夫よ、貴方に似てるから」

「そうですね、兄さんに似てるから大丈夫ですよ」

「いや、いや、ますます大丈夫に思えないんだけど……」



兄さんはそう言ってとても心配そうに寝ている若君を覗いた。

そんなに心配しなくても大丈夫。

きっと兄さんみたいに大事な人が出来れば劇的に変わるだろうから。







「しーちゃ!しーちゃ!くちゃもいくー!!」

「え?いや、ちょっとそこまでだから、寝てていいよ」

「やーぁ!!くちゃもいく!!やー!!!」



いいいいくうううううっ!!!!!!っと大きな声を出してしがみついている若君。しがみつかれて困っているのはしーちゃんだ。



「どうしましたか?」



私がひょっこり顔を出すと、あっとしーちゃんが声をあげる。



「すみません、晴臣さん。ここの部屋に布団がなくて……」

「ああ。私が持ってきますよ。どうぞ横になってください」

「え、でも……」

「大丈夫ですよ。若君と一緒に寝ててください」



人の好意にはあまり慣れていないのか遠慮気味ですごく困った顔をされた。しかし、私たちの会話でしーちゃんが行かないことが分かると若君はぱっと顔を明るくして全体重を乗せてしーちゃんを床に倒すため引っ張る。しーちゃんが慌てて若君の頭に腕を回して畳にぶつからないように尚且つ、苦しくないように配慮しながら倒れていた。



「しちゃ、いしょ!!ねんね!」

「そうだね。一緒に寝ようね」

「ん!」



くふくふともちもちの頬を動かしながら笑っている若君。

因みに、これしーちゃんがいるからである。前よりは笑顔が増えたが、それだけだ。常ににこにこではない。



「よく似てるなぁ」



私は近くの部屋から掛布団を手にして人知れず笑ったのだった。
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