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妖魔に刺していた刀を支えにしていたので慌てて地面に着地をすると目の前に叢雲さんの顔があった。

悲鳴をあげそうになって必死に耐える。血が顔と着物についていて俺の顔をのぞき込むために腰を折っているのでまるで怪談に出て来そうだ。



「しーちゃん、さっき避けられたよね?」

「あ、はい、あの、でも形態が変化したので早めに片付けようと……」



怒気を感じる彼の言葉に俺はしどろもどろに言い訳じみたことを口にした。実際、そうなのかもしれない。なんでそこまで怒っているのか俺には分からないけど、自分の行動は正当なものであったと思っているから。



……でも、そういえば、晴臣さんにも似たような事を言われたような……。



「……成程。じゃあ今度は俺もそれ参考にさせて貰おうかな」

「え……?」

「避けられるけど、自分の腕の一本二本吹き飛ばして妖魔退治しようかなって」

「ダメです!」



俺だったら腕がくっついてさえいれば傷が治るが、彼らは違う。俺と同じことをしたらきっと死んでしまうかもしれない。慌てて俺が首を振ると、叢雲さんは苦笑してぽんぽんっと俺の頭を撫でた。



「俺も、今しーちゃんと同じ気持ち」

「え……?いやでも、俺元々傷の治りが早くて……」



俺と叢雲さんとは体質が違うということを話そうとしたら彼がしゃがみ込んで俺の手を握りじっと瞳を覗く。



「それって、本当に君だけの力?人の自然治癒には限界があるよ。だから、法術とかで補助してもらわないと完全に治らないでしょ?」

「……」



生まれてこの方、法術で傷を治して貰ったのは雫さんだけだ。だから法術で補助してもらってと聞いて彼しか思いつかない。

でも、この自然治癒は子供のころからだった。腕に深い傷を負ってしまおうとも、片目が潰されてしまおうとも、どうにか生きて五体満足な体に治っていた―――と思う。



「……内緒にされてたんだけど、今言わないとしーちゃんが無茶苦茶な戦い方をすると思うので言うね?実はしーちゃんの腕に治癒の法術かけてた人がいたんだ」

「!」

「初めは不審者だと思って斬りかかっちゃったんだけど滅茶苦茶強くて歯が立たなくて、そしたらしーちゃんの怪我を治すだけだって言って治癒をかけて去ってったの。それを治るまで毎晩ずっと。急に治ると不審がられるから徐々にね」

「そんな、ことが……」



気付かなかった。もしかして、今までずっとそんな事をしてくれていたのだろうか。

今まで自分の治癒能力だと思っていたのが恥ずかしい……。俺は今まで気づかないうちに守られていたんだ。



晴臣さんが言いたかったのってこういうことだったのかな。

かなり自分の力に酔っていたようだ。反省しよう。



「今度からは、気を付けます」

「絶対にしないって言わせたかったけど、習慣なら仕方ないよね。徐々に気を付けようね」

「はい」



雫さんの手を煩わせないように傷を減らそう。

もしかしたら晴臣さんも俺の怪我を治してくれている雫さんを見てあなた一人の力じゃないのですよと言いたかったのかもしれない。優しいから俺の勘違いをそのまま指摘するのはかわいそうだと思ったのかも。



「それから、これが一番大事なんだけど」

「? はい」

「しーちゃんが傷つくと俺がとても悲しい」

「……あ」



そう言われて呆けた。

そしてまた自分が勘違いをしていたことに気が付いて心から謝罪をした。



「ごめん、なさい……」

「君に怪我がなくてよかった」

「はい、ありがとうございます」



俺の馬鹿。

晴臣さんも、叢雲さんもそんな事を考える人ではないし、それならきっと俺に言わないで優しく嘘をつき続けるだろう。優しい人だから。

でも彼らがそう言ったのは、俺が彼らを心配するように彼らも俺を心配していることに気付いてほしかったからだ。

今までほとんどが傷つける人しかいないし、俺が怪我をすることで喜ぶ人が多かったから想像できなかった。



「でも、ちょっと、慣れないかも、です……」

「じゃあこれから一杯言っていくから慣れようね」



そして、俺は叢雲さんの言葉に静かに頷いたのだった。
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