113 / 208
尾行
しおりを挟む
夜更け。
人っ子一人いない静かな都。
どちらかといえばこちらの時間帯の方が馴染みのある俺にとってこの時間は心地がいい。いつもは寝ている時間だが、やはり前の生活の名残りだろう。
「さてと、梓の家あっちだったよね」
「うんそうだね」
二人は俺に歩幅を合わせながらも真っすぐに梓さんの家に向かう。同じような塀に囲まれた道をひたすらに歩くと前方に明かりが見えた。
あれは、提灯?
ぞろぞろと遠目からでも分かる法術師の格好をした集団が門の方に向かっている。
夜に妖魔狩り……?
禁止されている事でもないが、かなりの自殺行為だ。
とはいえ、中には夜にしか出ない強い妖魔を間引くために専門の法術師がいると聞くが……。それが彼らのだろうか。
そう思ったが、不意に二人の言葉が耳に入る。
「七宝の……」
「あの家紋どこだっけ?」
二人がそういうので俺ははっとしてその提灯を見た。
あの、家紋は……。
「福禄……」
駆君の家だ。
まさかここで彼の家門の者を見るとは思わなかった。
何だろう。胸騒ぎがする。
「ふくろく?へー、あんまり家紋見ないから分からなかった」
「しーちゃん物知りだね」
「え!あ、は、はい、本に書いてて!!」
二人の反応に慌ててそう返した。
そうか。普通の人にとっては馴染みのないものなのか。危ない。訳ありな上に七宝関係者だって思われたら彼らが気を遣うかもしれないし、厄介なことを招くかもしれない。
気付かれないようにしないと。
「そっかそっか。まあでも俺らには関係な……ってあれ?!」
すると、叢雲さんが驚きの声をあげた。
どうしたのかと俺と紫さんが彼の視線の先を追ってあっと呟いた。
「あれ梓君だよね?」
そう。彼が視線の先にいた。
彼は福禄の集団を追っている様でこそこそと気づかれないように隠れながら一定の距離を保っている。手慣れた尾行のやり方だ。
「あの馬鹿。何七宝なんて危ないの追っかけってんだ?危ないから連れてく……」
「待ってください」
紫さんがそう言って彼の元に行こうとしたのを俺は腕を引いて止めた。
あの集団の真ん中。周りの大人に隠れて良く見えなかったが小さい人影を見た。
「駆君がいます」
「は、は!?」
「駆君、七宝の子供だったみたいです」
「嘘!?」
俺がそう言うとじーっと二人が目を凝らしてその集団を見つめる。それからお互い顔を見合わせた。
「いたわ」
「いたね」
「梓さん、もしかして駆君を追いかけて来たんじゃないでしょうか?」
俺がそう言うと成程っと二人が腕を組む。
一先ず、俺たちがあの集団に突っ込むのは無理だし、かといって梓さんに声をかけても昼間の様子を見るに何も話さないだろうと考えた。
恐らく、駆君が関係している。そして、七宝に関することだから何も言えないのだろう。そう考えるのが自然だ。
つまり、俺たちがこれからとる行動はただ一つ。
「ついていこう」
「だね。梓君にもあの集団にもばれないように」
「はい」
こうして、俺たちは彼らについていくことになった。
予想通り、その集団は門の外に出た。梓さんも同じようについていく。大丈夫だろうか。
そう思っていたら、不意に飛び出して来た小さな兎型の妖魔を彼はすぐさま斬り捨てた。居合切りだ。
「すごい……」
思わずそう呟くと叢雲さんが軽く笑った。
「あれは小物だから」
「少しは褒めてあげたら?師範」
「え、叢雲さんが教えたんですか?」
「一応ね。これでも用心棒だから」
「用心棒!」
確かに、叢雲さんはただ者じゃない雰囲気はしていたが用心棒とは!
用心棒というのは主に都を移動する商人や荷物を守る人のことだ。皇室付きではない護衛の人。どれも腕に自信のあるものしかできない。都の外に出るということはそれだけ危険なのだ。
だから、商人たちは腕のいい用心棒をこぞって専属にしたいと聞いた。
そういえば、やり直し前でもよく専属として雇いたかった腕のいい用心棒がいたが、亡くなってしまったという話があった。名前も知らないが、とにかく強いらしい。ほとんどの商人が絶賛するのだからきっと相当な手練れだったのだろう。
今回の人生でまだ生きているか分からないが、もしいたら手合わせしてみたい。
「でもあれ最近さぼってたな。筆づくりに夢中になってたとはいえ鍛えなおしかな?」
「程々にして」
「勿論」
「これ聞いてないな」
ふふふふっと叢雲さんが怖い笑みを浮かべていた。紫さんがそれを見て梓さんに手を合わせている。
俺はそれを見ながらこそこそと小石を近づきそうな妖魔に投げていた。梓さんの実力を見たとはいえ、ある程度脅威を排除した方がいいだろう。
それにしてもあの集団はどんどん奥に行ってしまう。門から遠ざかっているのだ。門から遠くなればなるほど結界の脅威がないので強い妖魔が育つ。危険区域だ。
人っ子一人いない静かな都。
どちらかといえばこちらの時間帯の方が馴染みのある俺にとってこの時間は心地がいい。いつもは寝ている時間だが、やはり前の生活の名残りだろう。
「さてと、梓の家あっちだったよね」
「うんそうだね」
二人は俺に歩幅を合わせながらも真っすぐに梓さんの家に向かう。同じような塀に囲まれた道をひたすらに歩くと前方に明かりが見えた。
あれは、提灯?
ぞろぞろと遠目からでも分かる法術師の格好をした集団が門の方に向かっている。
夜に妖魔狩り……?
禁止されている事でもないが、かなりの自殺行為だ。
とはいえ、中には夜にしか出ない強い妖魔を間引くために専門の法術師がいると聞くが……。それが彼らのだろうか。
そう思ったが、不意に二人の言葉が耳に入る。
「七宝の……」
「あの家紋どこだっけ?」
二人がそういうので俺ははっとしてその提灯を見た。
あの、家紋は……。
「福禄……」
駆君の家だ。
まさかここで彼の家門の者を見るとは思わなかった。
何だろう。胸騒ぎがする。
「ふくろく?へー、あんまり家紋見ないから分からなかった」
「しーちゃん物知りだね」
「え!あ、は、はい、本に書いてて!!」
二人の反応に慌ててそう返した。
そうか。普通の人にとっては馴染みのないものなのか。危ない。訳ありな上に七宝関係者だって思われたら彼らが気を遣うかもしれないし、厄介なことを招くかもしれない。
気付かれないようにしないと。
「そっかそっか。まあでも俺らには関係な……ってあれ?!」
すると、叢雲さんが驚きの声をあげた。
どうしたのかと俺と紫さんが彼の視線の先を追ってあっと呟いた。
「あれ梓君だよね?」
そう。彼が視線の先にいた。
彼は福禄の集団を追っている様でこそこそと気づかれないように隠れながら一定の距離を保っている。手慣れた尾行のやり方だ。
「あの馬鹿。何七宝なんて危ないの追っかけってんだ?危ないから連れてく……」
「待ってください」
紫さんがそう言って彼の元に行こうとしたのを俺は腕を引いて止めた。
あの集団の真ん中。周りの大人に隠れて良く見えなかったが小さい人影を見た。
「駆君がいます」
「は、は!?」
「駆君、七宝の子供だったみたいです」
「嘘!?」
俺がそう言うとじーっと二人が目を凝らしてその集団を見つめる。それからお互い顔を見合わせた。
「いたわ」
「いたね」
「梓さん、もしかして駆君を追いかけて来たんじゃないでしょうか?」
俺がそう言うと成程っと二人が腕を組む。
一先ず、俺たちがあの集団に突っ込むのは無理だし、かといって梓さんに声をかけても昼間の様子を見るに何も話さないだろうと考えた。
恐らく、駆君が関係している。そして、七宝に関することだから何も言えないのだろう。そう考えるのが自然だ。
つまり、俺たちがこれからとる行動はただ一つ。
「ついていこう」
「だね。梓君にもあの集団にもばれないように」
「はい」
こうして、俺たちは彼らについていくことになった。
予想通り、その集団は門の外に出た。梓さんも同じようについていく。大丈夫だろうか。
そう思っていたら、不意に飛び出して来た小さな兎型の妖魔を彼はすぐさま斬り捨てた。居合切りだ。
「すごい……」
思わずそう呟くと叢雲さんが軽く笑った。
「あれは小物だから」
「少しは褒めてあげたら?師範」
「え、叢雲さんが教えたんですか?」
「一応ね。これでも用心棒だから」
「用心棒!」
確かに、叢雲さんはただ者じゃない雰囲気はしていたが用心棒とは!
用心棒というのは主に都を移動する商人や荷物を守る人のことだ。皇室付きではない護衛の人。どれも腕に自信のあるものしかできない。都の外に出るということはそれだけ危険なのだ。
だから、商人たちは腕のいい用心棒をこぞって専属にしたいと聞いた。
そういえば、やり直し前でもよく専属として雇いたかった腕のいい用心棒がいたが、亡くなってしまったという話があった。名前も知らないが、とにかく強いらしい。ほとんどの商人が絶賛するのだからきっと相当な手練れだったのだろう。
今回の人生でまだ生きているか分からないが、もしいたら手合わせしてみたい。
「でもあれ最近さぼってたな。筆づくりに夢中になってたとはいえ鍛えなおしかな?」
「程々にして」
「勿論」
「これ聞いてないな」
ふふふふっと叢雲さんが怖い笑みを浮かべていた。紫さんがそれを見て梓さんに手を合わせている。
俺はそれを見ながらこそこそと小石を近づきそうな妖魔に投げていた。梓さんの実力を見たとはいえ、ある程度脅威を排除した方がいいだろう。
それにしてもあの集団はどんどん奥に行ってしまう。門から遠ざかっているのだ。門から遠くなればなるほど結界の脅威がないので強い妖魔が育つ。危険区域だ。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
3,503
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる