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作戦

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さて、あの筆が完成した。



駆くんの手に合わせて作られたものである。丁寧に絵も描いていた。椿の絵だ。

こんな細いものにそんな絵を描けるなんてやっぱり梓さんは器用だなあ、なんて思いつつ明日駆に渡すんだっと梓さんがそう言っていたのが昨日。



今日あった梓さんは目に見えてわかるくらいしょんぼりと肩を落としていた。普段からそーちゃんに負けず劣らずあまり感情の起伏が見えない彼だったが、本当に誰が見ても分かるくらい落ち込んでいる。何かあったのだろう。



「梓さん、どうしたんですか?」



思わず開口一番にそう聞いてしまう。すると彼はぽつりとこう答えた。



「……捨てられてた」

「え?」

「気にいらなかったみたい……」

「……え?」



何を言っているのか分からずに思わず二回も呆けた声を出してしまう。

信じられないと思うが、多分彼が作った筆のことだろう。あんなに分かりやすくけん制しているというのに、そんな彼からの貰い物を捨てた、だって?



流石に何を言われたのか分からずに首を傾げる。



彼の好意は紫さんや叢雲さんもよく分かっているようで、あ、あの子ね、前は睨まれたこともあったよ、あははなんて話を聞いていたこともある。だから、そんな急に気が変わることはないと思うが……。



「梓からのものだったらごみ屑でも喜びそうなのに?」

「紫、それは流石に言いすぎだとおもうけど、あの子に限って梓君が一生懸命作ったものを理由もなく捨てることはないと思うなぁ」



彼の様子がおかしい事に気付いて、すぐに玄関に駆け寄ってきた二人も同じように首を傾げて、苦笑した。

しかし、梓さんの態度にこれは本気だろうと俺達は顔を合わせる。



「梓さん。言いにくいんですが何か駆君にしたんじゃないですか?」

「梓、お前駆君に何かしたんだろ」

「うーん、梓君一応最近の君の行動を聞いてもいいかな?」



満場一致で梓さんが何かしたのでは?という結論に至った。

流石に三人とも同じことを話すので、追い打ちをかけられた梓さんはすごくすごく落ちこんでしまった。申し訳ない……。



梓さんを居間に案内してお菓子とお茶を飲みながら話を聞いてみた。

その話で数日に一回は一緒に寝ていることと、毎朝駆君の家に挨拶しに行っているそうだ。

な、成程?そこら辺はあまり突っ込まない方がいいかな?

そう思っていると、紫さんと叢雲さんが揃ってため息をついた。



「鈍すぎ……」

「駆君可哀想……」

「ど、どういうことですか!?」



梓さんがそう言って動揺するがこれ以上は何も言うまいと2人はお互いに顔を見合わせてそれから首を振る。



2人の気持ちはよくわかる。



こんなに気のある行動をされているのに、本人は無自覚。ここで厄介なのは、いや、そういう好きではないとなる場合である。そうなった場合、自覚させた周りはもちろんのこと、本人たちにも気まずい思いをさせてしまう。古今東西、人の恋路に突っ込むと馬に蹴られるなんていうがまさにそれ。

とはいえ、思わずそんな言葉が出てしまうのもしかたない。



「ひとまず、俺が聞いた限りではこれといって不審な点はありませんでした。会話の内容も当たり障りのないものかと」

「過剰に誰かを褒めたり詳しく話したりはしてないんだよな?本当に」

「勿論です」



俺と紫さんがそういうと梓さんはそう言って頷いた。すると最初の問題に逆戻りだというわけだが……。



「他に気づいたこととかない?」

「気づいたこと……あ」



明らかに何かを思い出した声に俺たちはじっと梓さんに注目する。

各々から感じる話せという圧力を梓さんは受けていたが彼はすぐに首を振った。



「言えません」

「そっかぁ。なら仕方ないね」



梓さんの言葉に叢雲さんがすぐにそう答える。俺が返答に困った時のようにふわりと笑顔でなんでもないようにそう言った。

その後は、もう少し様子を見た方がいいかもねーという意見になりひとまずお開きとなった。今度何かあれば相談してねという言葉とともに。



叢雲さんの言葉に大いに賛成した俺は頷いて、紫さんもそれでいいということになった。



やっぱりこの人たちの立居振るまいは本当に尊敬する。

俺もそれで助けられたので、この人たちに拾われてよかったな、と。





そう思っていたのだ。その日の夜まで。







「じゃあ、梓くんを観察しに行くぞー!」

「おー!!」

「お、お……?」



どういうわけか、夜に武装してどこかに行こうとする二人を見つけて思わず声をかけたらこうなった。

二人の声掛けに少し遠慮しながら声を出すと二人がにこにこしながら頭を撫でてくれる。



「そんなに緊張しないで。ただ梓君を見に行くだけだから」

「そうそう。ただちょっと覗くだけだから」

「そ、それはやって良いんですか……?」

「「知り合いだから大丈夫」」

「な、なる……ほど……?」



不法侵入という言葉が頭をよぎる。しかし、彼らの清々しい笑顔にそういうものなのかと納得した。俺にはあまり友達もいないし、多分そういうものなのだろう。



「あ、はいこれ」

「これは……」



紫さんから貰ったのは目元だけが隠れる虎の仮面だ。思わず彼を見る。



「外出る時に必要でしょ?あげるから今度はお外でも遊びな」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして」



俺がこの屋敷から出られないことをきちんと言っているわけでもないのに顔を隠すものをくれた。

俺も紫さんみたいな察せる大人になりたい……。

俺はそれを有難く受け取ってそれを被る。きつく紐で固定して部屋から大太刀を持って背負った。



「準備出来ました!」

「よし!では行くぞ!」

「梓が話さないなら探ればいい作戦開始!」



そ、そんな作戦があったんだ!

思わず紫さんたちを見ると二人はとてもとても楽しそうな表情であった。

下手にこの人たちに隠し事はしない方がいいかも……。

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