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日常
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さて、その日から駆君はちょくちょくこの屋敷に来るようになった。梓さんがここに入り浸っているから来ているのだろうと思う。梓さんは最近、武器よりも駆君への贈り物に力を入れており、俺はのんびりそーちゃんと遊ぶ日が続いていた。そんな中で、駆君とそーちゃんが出会ったのだが、彼らはどうやら初対面ではないらしい。
聞けば華道の稽古で一緒になったことがあると言う。今ではそーちゃんは通っていないらしいが。教養の一つだろうけど、知識だけしかない俺には想像がつかない学問である。
そーちゃんは、駆君に一緒に遊ばないかと誘ったが彼は忙しいらしく、梓さんの忘れ物を届けたらすぐに去っていってしまった。
「すまない、駆に悪気はなくて……」
「ああ、大丈夫。いつも忙しそうにしてるの見てるから。一応誘ってみただけ」
梓さんが弁明をしようとする前にそーちゃんがさらりとそう言った。それから俺の手を引いて中で遊ぼうと誘う。
今日はそーちゃんが持ってきた書物を読む約束だった。なんだっけ?もののふの物語?
この前そーちゃんに教えてもらったやつだ。結構面白くてなんだかんだ楽しみにしている。
物語は王道の構成だ。
妖怪がはびこるとある都で、両親を失った主人公が妖怪退治の専門「武士」を目指す話だ。
そーちゃん曰く、俺は主人公の相棒のような立ち位置の刀を使う男に似ているようだ。こんな風に颯爽と主人公を助けたり、気の利いたことは言えないのにどこが似ているのだろうか。強いところか?
「ここ、この場面俺のお気に入り」
「成程、かっこいい戦闘場面だね」
「うん」
一つの冊子を顔を突き合わせながらぺら、ぺらっと紙を捲る。少し難しい文字が出てくるとすぐにそーちゃんが教えてくれてつっかえることなく読むことが出来た。紙をめくる音と、開け放たれた障子の外からふわりと風が漂う。その風にさらわれるように少し伸びた髪が顔にかかる。
あとで適当に切ろうと思いつつ少し鬱陶し気にそれを払おうとしてそっと髪を撫でられた。
「髪、結ぶ……?」
「え?あ、紐ないからいいよ」
「持ってる」
そう言ってそーちゃんが俺の後ろに回り俺の少し伸びた髪を結んでくれる。結んで……。
「……?」
「あ、そーちゃん、自分でやるよ」
「……うん」
ぐいぐいと慣れない手つきで髪を引っ張られながら結ぼうとしてくれた努力は認める。しかし、うまく結べていないのでぼろぼろと髪の束が落ちた。
見かねて俺がそう言うと、彼は素直に頷いてその髪紐を渡してくれる。触っただけで何か高そうな雰囲気を察知。突っ返したいのをこらえて出来るだけ丁寧に自分の髪をそれで縛った。
「……俺、何もできない」
「え?」
「髪も、満足に結べない……」
髪が結べないだけでそんなに落ち込むとは思わなかった。そんな事を気にする?という感じである。彼は、どちらかと言えば世話される立場にあるのだからできなくて当然だ。それを何もできないなんて結びつけるのは少し飛躍しすぎではないだろうか。
「初めから出来る人はいないですよ。そーちゃん」
「でも……」
「練習すればうまくなります。俺の髪でよければいつでもどうぞ」
「いいの……?」
「うん」
「ありがと、しーちゃん」
ふわりと笑顔を見せたそーちゃんが、そういって俺の横にぴったりくっついて一緒に読み始める。
お昼ご飯を過ぎた後で、梓さんが出てきて若い男の意見が聞きたいと駆君への贈り物の試作品を俺たちに見せた。
いや、筆の良しあしに若いも何もあるだろうか。俺なんか、そーちゃんと違って筆もまともに握ったこともないのに。
「あの子に合わせて作るなら俺たちに聞いても意味ないと思うけど?書きやすいかどうかぐらいしか言えないよ俺」
「それでいい。硯と墨と紙も持ってきた」
「ふーん?じゃあ分かったやる」
「ありがとう」
そう言ってそーちゃんが梓さんにそれらを貰い、適当に紙に書く。さらさらと育ちの良さを感じる綺麗な文字を書いていてそれを横目で見ているとはあっとそーちゃんがため息をつく。
「新品の筆書きにくくて嫌なんだよね」
「そうなんだ」
「うん、ちょっと使い込まれてた奴の方が好き」
「俺は新品の筆を持ったことがないから分かんないかな」
「そうなんだ。じゃあ書いてみなよ。そんなに書いてないからほぼ新品だよ」
「ありがとう」
そーちゃんから受け取って緊張しつつも俺も文字を書く。適当に先ほど読んでいた本から引っ張って武士と書いてみた。そーちゃんの文字に比べるとやっぱり汚い。これが育ちの悪さって奴かっと苦笑しながらも筆の感想を言う。
「新品の筆だと何となく綺麗に書けてるみたいに見えますね」
「そんなの使わなくてもしーちゃんの字綺麗だよ」
「ありがとう、そーちゃん」
二人でそう言い合いながら筆をそっとおくとふむっと梓さんが顎を手に添える。
「使いやすいか?」
「はい」
「でかくて無理。子供の手に合わせたら?」
「いや、それだと長く使えないからじゃないかな?」
「都度作るべきでしょ。筆は消耗品なんだから」
筆が消耗品。流石お金持ちである。
その発想はなかったと思わずそーちゃんを見ると梓さんはなるほどとでもいうように頷いてそれを手にした。
「駆の手がどれくらいの大きさか計ってくる」
「贈り物は隠しているわけじゃないんですか?」
「元気づけるためのものだからな。別に隠しているわけではないが」
「そうなんですね」
ありがとうっとお礼を言って梓さんはまた作業場に帰ってしまう。それを二人で見送りつつ先ほどの続きを読んで、夕飯を食べてそーちゃんが帰る。
これがここ最近の日常になりつつあった。
聞けば華道の稽古で一緒になったことがあると言う。今ではそーちゃんは通っていないらしいが。教養の一つだろうけど、知識だけしかない俺には想像がつかない学問である。
そーちゃんは、駆君に一緒に遊ばないかと誘ったが彼は忙しいらしく、梓さんの忘れ物を届けたらすぐに去っていってしまった。
「すまない、駆に悪気はなくて……」
「ああ、大丈夫。いつも忙しそうにしてるの見てるから。一応誘ってみただけ」
梓さんが弁明をしようとする前にそーちゃんがさらりとそう言った。それから俺の手を引いて中で遊ぼうと誘う。
今日はそーちゃんが持ってきた書物を読む約束だった。なんだっけ?もののふの物語?
この前そーちゃんに教えてもらったやつだ。結構面白くてなんだかんだ楽しみにしている。
物語は王道の構成だ。
妖怪がはびこるとある都で、両親を失った主人公が妖怪退治の専門「武士」を目指す話だ。
そーちゃん曰く、俺は主人公の相棒のような立ち位置の刀を使う男に似ているようだ。こんな風に颯爽と主人公を助けたり、気の利いたことは言えないのにどこが似ているのだろうか。強いところか?
「ここ、この場面俺のお気に入り」
「成程、かっこいい戦闘場面だね」
「うん」
一つの冊子を顔を突き合わせながらぺら、ぺらっと紙を捲る。少し難しい文字が出てくるとすぐにそーちゃんが教えてくれてつっかえることなく読むことが出来た。紙をめくる音と、開け放たれた障子の外からふわりと風が漂う。その風にさらわれるように少し伸びた髪が顔にかかる。
あとで適当に切ろうと思いつつ少し鬱陶し気にそれを払おうとしてそっと髪を撫でられた。
「髪、結ぶ……?」
「え?あ、紐ないからいいよ」
「持ってる」
そう言ってそーちゃんが俺の後ろに回り俺の少し伸びた髪を結んでくれる。結んで……。
「……?」
「あ、そーちゃん、自分でやるよ」
「……うん」
ぐいぐいと慣れない手つきで髪を引っ張られながら結ぼうとしてくれた努力は認める。しかし、うまく結べていないのでぼろぼろと髪の束が落ちた。
見かねて俺がそう言うと、彼は素直に頷いてその髪紐を渡してくれる。触っただけで何か高そうな雰囲気を察知。突っ返したいのをこらえて出来るだけ丁寧に自分の髪をそれで縛った。
「……俺、何もできない」
「え?」
「髪も、満足に結べない……」
髪が結べないだけでそんなに落ち込むとは思わなかった。そんな事を気にする?という感じである。彼は、どちらかと言えば世話される立場にあるのだからできなくて当然だ。それを何もできないなんて結びつけるのは少し飛躍しすぎではないだろうか。
「初めから出来る人はいないですよ。そーちゃん」
「でも……」
「練習すればうまくなります。俺の髪でよければいつでもどうぞ」
「いいの……?」
「うん」
「ありがと、しーちゃん」
ふわりと笑顔を見せたそーちゃんが、そういって俺の横にぴったりくっついて一緒に読み始める。
お昼ご飯を過ぎた後で、梓さんが出てきて若い男の意見が聞きたいと駆君への贈り物の試作品を俺たちに見せた。
いや、筆の良しあしに若いも何もあるだろうか。俺なんか、そーちゃんと違って筆もまともに握ったこともないのに。
「あの子に合わせて作るなら俺たちに聞いても意味ないと思うけど?書きやすいかどうかぐらいしか言えないよ俺」
「それでいい。硯と墨と紙も持ってきた」
「ふーん?じゃあ分かったやる」
「ありがとう」
そう言ってそーちゃんが梓さんにそれらを貰い、適当に紙に書く。さらさらと育ちの良さを感じる綺麗な文字を書いていてそれを横目で見ているとはあっとそーちゃんがため息をつく。
「新品の筆書きにくくて嫌なんだよね」
「そうなんだ」
「うん、ちょっと使い込まれてた奴の方が好き」
「俺は新品の筆を持ったことがないから分かんないかな」
「そうなんだ。じゃあ書いてみなよ。そんなに書いてないからほぼ新品だよ」
「ありがとう」
そーちゃんから受け取って緊張しつつも俺も文字を書く。適当に先ほど読んでいた本から引っ張って武士と書いてみた。そーちゃんの文字に比べるとやっぱり汚い。これが育ちの悪さって奴かっと苦笑しながらも筆の感想を言う。
「新品の筆だと何となく綺麗に書けてるみたいに見えますね」
「そんなの使わなくてもしーちゃんの字綺麗だよ」
「ありがとう、そーちゃん」
二人でそう言い合いながら筆をそっとおくとふむっと梓さんが顎を手に添える。
「使いやすいか?」
「はい」
「でかくて無理。子供の手に合わせたら?」
「いや、それだと長く使えないからじゃないかな?」
「都度作るべきでしょ。筆は消耗品なんだから」
筆が消耗品。流石お金持ちである。
その発想はなかったと思わずそーちゃんを見ると梓さんはなるほどとでもいうように頷いてそれを手にした。
「駆の手がどれくらいの大きさか計ってくる」
「贈り物は隠しているわけじゃないんですか?」
「元気づけるためのものだからな。別に隠しているわけではないが」
「そうなんですね」
ありがとうっとお礼を言って梓さんはまた作業場に帰ってしまう。それを二人で見送りつつ先ほどの続きを読んで、夕飯を食べてそーちゃんが帰る。
これがここ最近の日常になりつつあった。
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