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「初めまして、俺は駆っていいます。あずにいの従弟で、あずにいとよく遊んでもらってます。あ、昨日はあずにいの部屋に泊まらせてもらってて、あずにいの忘れ物を届けに来てました。ね、あずにい」
「ああ、そうなんだ。悪いな駆」
「ううん、大丈夫!あずにいにはいっつもお世話になってるから!」
「……?」
ふと、その会話でにじみ出る違和感のようなものに俺は首を傾げる。人前ではあるが、何となく感じる小ばかにした様な言い方ではなく、梓さんと一緒にいる事を露骨に強調したような話し方だ。
何だろう。前とは別の何かであるような気がするんだけど……。
そう思って俺が黙っていると梓さんが彼に俺を紹介する。
「この子は、しーちゃん。俺の趣味の手伝いをしてくれてる子だ」
「初めま……して……」
梓さんに紹介され、頭を下げてそれからあげると彼の表情が絶望に近い悲壮感たっぷりの顔になっていた。
「……へ、へー、そ、そ、そうなんだー。ふ、ふーん?」
冷静さを装っているがだいぶ動揺していて声が震えている。軽く涙目になっていて若干体も小刻みに動いていた。
……ん?
「しーちゃんはもう俺にとってはなくてはならない存在で―――」
「そ、そう、へー」
「俺の趣味に付き合ってくれる数少ない良い子で―――」
「……」
ぐっと唇を噛んで何かに耐えるような表情を見せる。
これは、梓さんの言動に傷ついてる、のか?
梓さんについて牽制するような物言い、俺の事ばかりを話している彼に傷ついたような表情。
これは……もしや……。
「俺の好みは年下です」
「え?」
「年下の可愛い男の子が好きです」
「……。―――っ!!」
俺の言動に隣で首を傾げている梓さん。しかし、俺の言いたいことが伝わったのか目の前にいる彼は一瞬呆けた声を出すが次にはかっと頬を赤く染めた。
こういう時は、俺の第六感が発達していて良かったと思う。
「だから俺は梓さんとは……」
「わー!!!!」
がばっと俺の口を塞ぐように彼が手で覆う。
俺はとても微笑ましい気持ちになって彼を見つめると彼はぷるぷる震えて全力で叫ぶ。
「意地悪してごめんなさい!!!」
「駆、しーちゃんに意地悪してたのか?」
「う……」
正直にそう言った彼に、すかさず梓さんがそう言うとバツの悪そうな顔をする。梓さんはそんな彼に少し険しい顔をしてぐいっと俺と彼の間に入った。
「駆」
彼の名前を言って何かを言おうとしている梓さんに慌てて俺がこういった。
こんな事で彼らの仲にひびが入るのは本意ではないし、梓さんが駆君のことに気づかないのも悪いと思う。
「いいえ、別に意地悪されてないですよ」
「だが……」
「梓さん」
俺は、すっと体をずらして彼を後ろにするように梓さんの真正面に立つ。そして、努めて静かにこういった。
「これ以上何か言うならもう協力しません」
「何も言うことはない」
「それならよかったです」
こんな風に脅すのは少し心が痛むが、一番早く話が終わりそうだったので取らせてもらった。
くるっと後ろを振り返って彼を見ると、かなり申し訳なさそうな顔をしてこちらを見上げている。
そうか、この時はまだ俺のほうが背高かったんだ。
未来ではあまり背が伸びなかった俺だったが今は彼らを下に見れるようだ。
……性格悪いな。
自分の中にそんな考えがあったことに少し苦笑して、彼にもう一度話しかける。
「よろしくお願いします、駆君」
「本当にごめんなさい。同い年だから敬語も要らないよ、しーちゃん。此方こそよろしく」
軽く握手をして俺は駆君と改めて仲良くなれた、と思う。
その後、駆君はこれから習い事があるからとすぐに去ってしまった。
習い事か。七宝っていう名門の子だから大変なんだろうな……。
俺の弟はそんなことしていたかと思案したがそんな事をしなくても実力があるのだからどうとでもなったのだろう。
勿論、俺もしたことがないので書物で作法を勉強したぐらいだ。
あとは、やり直す前にいろいろと教えてくれた人がいてそれで勉強が出来た。
いろんな商団の人たちが、子供がこんな場所にいるなんて、と気にかけてくれていたが、それも一度だけ。というのも、俺がそういう質問をされて困ったので出来るだけ二度目以降は会わないようにしていた為だ。
しかし、その人だけはよく出会った。
いや、俺が避けなかった。
その人は、子供だからと色々聞いてくることはなく、食料をくれたり寝床を整えてくれたり良くして貰えたのだ。俺にとって都合のいい人だった。
外套を被っていたので顔も覚えていないが時折見える白くて長い髪が印象的だ。
今考えてみると、何となく雫さんに似てるような……。
丁寧な話し方にそう感じただけかもしれないけど。あと髪の色も同じだったから。
「梓、これ頼まれてた奴」
「あ!ありがとう師匠!」
そんな事を考えていると動向を見守っていた紫さんがこちらにやってきて先ほど落とした紙を梓さんに渡した。それを受け取った彼はその紙を広げて確認をする。
「さっきの子が?」
「はい!」
「?」
二人の会話を聞いて首を傾げていると、それに気づいた梓さんがその持っている紙を見せた。
その紙には筆の構図が書かれていた。
「駆、すごく習い事頑張ってるから筆を作ってあげようと思ったんだ。最近、元気なかったから、少しでも元気になればいいかなと」
そう言ってふわりと梓さんが優しい笑顔を見せる。
…………。
駆君、良かったね。
梓さんも梓さんで彼のことをを気にかけているのが分かる。これがいわゆる脈ありかぁ、なんて思っていたが、ふと、先ほどの梓さんを思い出した。
……。
いや、俺の勝手な憶測で話すもんじゃないな。
もしかしたら、梓さんのせいで元気なかったんじゃないかなんて、考えるもんじゃないうん。
「ああ、そうなんだ。悪いな駆」
「ううん、大丈夫!あずにいにはいっつもお世話になってるから!」
「……?」
ふと、その会話でにじみ出る違和感のようなものに俺は首を傾げる。人前ではあるが、何となく感じる小ばかにした様な言い方ではなく、梓さんと一緒にいる事を露骨に強調したような話し方だ。
何だろう。前とは別の何かであるような気がするんだけど……。
そう思って俺が黙っていると梓さんが彼に俺を紹介する。
「この子は、しーちゃん。俺の趣味の手伝いをしてくれてる子だ」
「初めま……して……」
梓さんに紹介され、頭を下げてそれからあげると彼の表情が絶望に近い悲壮感たっぷりの顔になっていた。
「……へ、へー、そ、そ、そうなんだー。ふ、ふーん?」
冷静さを装っているがだいぶ動揺していて声が震えている。軽く涙目になっていて若干体も小刻みに動いていた。
……ん?
「しーちゃんはもう俺にとってはなくてはならない存在で―――」
「そ、そう、へー」
「俺の趣味に付き合ってくれる数少ない良い子で―――」
「……」
ぐっと唇を噛んで何かに耐えるような表情を見せる。
これは、梓さんの言動に傷ついてる、のか?
梓さんについて牽制するような物言い、俺の事ばかりを話している彼に傷ついたような表情。
これは……もしや……。
「俺の好みは年下です」
「え?」
「年下の可愛い男の子が好きです」
「……。―――っ!!」
俺の言動に隣で首を傾げている梓さん。しかし、俺の言いたいことが伝わったのか目の前にいる彼は一瞬呆けた声を出すが次にはかっと頬を赤く染めた。
こういう時は、俺の第六感が発達していて良かったと思う。
「だから俺は梓さんとは……」
「わー!!!!」
がばっと俺の口を塞ぐように彼が手で覆う。
俺はとても微笑ましい気持ちになって彼を見つめると彼はぷるぷる震えて全力で叫ぶ。
「意地悪してごめんなさい!!!」
「駆、しーちゃんに意地悪してたのか?」
「う……」
正直にそう言った彼に、すかさず梓さんがそう言うとバツの悪そうな顔をする。梓さんはそんな彼に少し険しい顔をしてぐいっと俺と彼の間に入った。
「駆」
彼の名前を言って何かを言おうとしている梓さんに慌てて俺がこういった。
こんな事で彼らの仲にひびが入るのは本意ではないし、梓さんが駆君のことに気づかないのも悪いと思う。
「いいえ、別に意地悪されてないですよ」
「だが……」
「梓さん」
俺は、すっと体をずらして彼を後ろにするように梓さんの真正面に立つ。そして、努めて静かにこういった。
「これ以上何か言うならもう協力しません」
「何も言うことはない」
「それならよかったです」
こんな風に脅すのは少し心が痛むが、一番早く話が終わりそうだったので取らせてもらった。
くるっと後ろを振り返って彼を見ると、かなり申し訳なさそうな顔をしてこちらを見上げている。
そうか、この時はまだ俺のほうが背高かったんだ。
未来ではあまり背が伸びなかった俺だったが今は彼らを下に見れるようだ。
……性格悪いな。
自分の中にそんな考えがあったことに少し苦笑して、彼にもう一度話しかける。
「よろしくお願いします、駆君」
「本当にごめんなさい。同い年だから敬語も要らないよ、しーちゃん。此方こそよろしく」
軽く握手をして俺は駆君と改めて仲良くなれた、と思う。
その後、駆君はこれから習い事があるからとすぐに去ってしまった。
習い事か。七宝っていう名門の子だから大変なんだろうな……。
俺の弟はそんなことしていたかと思案したがそんな事をしなくても実力があるのだからどうとでもなったのだろう。
勿論、俺もしたことがないので書物で作法を勉強したぐらいだ。
あとは、やり直す前にいろいろと教えてくれた人がいてそれで勉強が出来た。
いろんな商団の人たちが、子供がこんな場所にいるなんて、と気にかけてくれていたが、それも一度だけ。というのも、俺がそういう質問をされて困ったので出来るだけ二度目以降は会わないようにしていた為だ。
しかし、その人だけはよく出会った。
いや、俺が避けなかった。
その人は、子供だからと色々聞いてくることはなく、食料をくれたり寝床を整えてくれたり良くして貰えたのだ。俺にとって都合のいい人だった。
外套を被っていたので顔も覚えていないが時折見える白くて長い髪が印象的だ。
今考えてみると、何となく雫さんに似てるような……。
丁寧な話し方にそう感じただけかもしれないけど。あと髪の色も同じだったから。
「梓、これ頼まれてた奴」
「あ!ありがとう師匠!」
そんな事を考えていると動向を見守っていた紫さんがこちらにやってきて先ほど落とした紙を梓さんに渡した。それを受け取った彼はその紙を広げて確認をする。
「さっきの子が?」
「はい!」
「?」
二人の会話を聞いて首を傾げていると、それに気づいた梓さんがその持っている紙を見せた。
その紙には筆の構図が書かれていた。
「駆、すごく習い事頑張ってるから筆を作ってあげようと思ったんだ。最近、元気なかったから、少しでも元気になればいいかなと」
そう言ってふわりと梓さんが優しい笑顔を見せる。
…………。
駆君、良かったね。
梓さんも梓さんで彼のことをを気にかけているのが分かる。これがいわゆる脈ありかぁ、なんて思っていたが、ふと、先ほどの梓さんを思い出した。
……。
いや、俺の勝手な憶測で話すもんじゃないな。
もしかしたら、梓さんのせいで元気なかったんじゃないかなんて、考えるもんじゃないうん。
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