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「くちゃ、たべたい」

「え」

「しろいの、まう、たべたい」

「!」



久臣はすぐに厨を担当している料理人を叩き起こす為瞬時にそこに移動した。



「寝てるところごめんね!くーちゃんがご飯食べたいっていうから作って!!」



久臣の声は響き渡り、すぐに料理人たちは跳ね起きた。その中でも料理長は着の身着のままでがっと久臣を掴む。



「最初に私を連れて行ってください!お前たちは準備をしてから来い!」

「はい!」



全員がバタバタと支度をはじめ、それを尻目に久臣は料理長と共にすぐに久遠の元に戻る。

二人が厨につくとそこには、久遠が勝手に厨に入ろうとして護衛に止められていた。



「んいー!くちゃ、やるー!!」

「しばしお待ちを。今、旦那様がご飯を作るものを呼んでまいりますので」

「やー!!」



海老ぞりになって腕から逃れようとしている久遠を二人がかりで大の大人が慌てて抑えている。困った顔をしているが二人の表情は内心少し元気になった久遠に安心しているようだ。それは久臣や料理長も同じである。



「くーちゃん、ご飯作ってくれる人連れて来たよ。丸くて白いの食べたいんだよね?」

「若君、お待たせして申し訳ありません。すぐに作りますからお待ちください」



久臣の他に人がいることに気付いた久遠がぴたっと動きを止めてそれから料理長の服を掴む。



「……まう、しお、しちゃ、みろり、にーじ、しちゃ、ごっくん、しちゃ、しちゃ……ぅ」



久遠はどうにか自分が見た夢の中のご飯を教えようとしているが静紀の印象が強すぎる事、そもそもうまく言葉で伝えるのが難しいため最後はんむぃっと顔をしかめてしまう。

料理長はうんうんっとそんな久遠の言葉に真摯に頷いて、野菜と白い団子のようなものが入った汁物であることは読み取れた。



「水の色、茶色でした?」

「……ない」

「分かりました。すぐ作りますね」

「う」



大人しくなった久遠は護衛の腕の中で料理を待つことにしたようだ。

話しをしている間に他のものもやってきて料理長と一緒に準備を始める。久遠の気分が変わってやっぱりいらないという前に素早く作ってみせると使命感に燃えていた。



食べたがらなかった野菜類。ただし、先ほど言ってた色合いのもの以外のものは絶対に入れない。

汁物に色はないと言っていたので味噌を入れずに出汁や醬油などで味付けをしていたと予想し、水につけている昆布を出し、そして鰹節を削って準備をする。



白くて丸いもの。こればっかりは何か分からない。一先ず小麦粉を練って丸めてゆで上げることにした。



各々役割分担をして効率よく作っていく。あと数分足らずで出来上がるだろうと久臣はそう思いながら、自分は適当にあった果物の皮をむいて食べ始めた。

待てが出来ない大人であった。それを見ていた久遠がばしばしっと久臣を手でたたく。



「あで!」

「くちゃも!」



汁物だけでなく、他のものにも興味が出たようだ。その事に久臣は猛烈に感動しながらふわりと笑顔になる。



「食べる?いいよー」

「お待ちください!旦那様の雑に切った果物はいけません!今私が小さく切りますから!」

「雑って!ちゃんとくーちゃんの為に小さく切るつもりでしたー!!」



忙しい中でも話を聞いている料理長は素早く桃を切り器に盛りつけ久遠に渡す。それを受け取った久遠が小さい手でむんずとつかみあーっと食べ始めた。

先ほどまで水とそれに入った果物しか口にしなかったとは思えないほどの食べっぷりである。



「良かったー!好きなもの好きなだけ食べていいからね、くーちゃん」

「ん」



あむあむっと口の周りをべたべたにしながら食べる久遠。器の桃がすべてなくなる前に久遠が要求した汁物が出来上がった。

ふわっと昆布と鰹節の出汁が香る。器の中には白くて丸いものと野菜が入っていた。



「まう!」

「はい、そうです。どうぞ召し上がってください」

「ん!」



十分に冷ましてぬるくなった白い団子を久遠は匙で上手に掬いあーっと口に入れた。

そして何度か咀嚼した後ぴたりと動きを止める。それから先ほどまで輝かせていた顔がだんだんと悲しそうな表情に変化していく。



その表情から、久遠が所望したものではなかったことをこの場にいる全員が瞬時に察した。



「申し訳ありません若君!ぺっしてください!」

「くーちゃん、無理して食べなくていいからね!?また作らせればいいから!!」



慌てて料理長と久臣がそう言うが久遠は緩く首を振ってそれからごくんと飲み込んだ。



「おいし、あーと……」

「あ、それは良かった」

「でも、まう、ちう……。ととにあーる」

「あ、ありがとう。くーちゃん」



久遠が言うには白団子だけが気に入らなかったようだ。その後、団子以外はぺろりと平らげて三杯もお代わりをしてくれた。

それには厨番の者も護衛もにっこり笑顔でたくさん食べれて偉いですねーっと手放しに誉めていた。

ただ、褒められるのは嬉しいが静紀以外に関してはそれが原動力にはならないのが久遠なのでただ頷いて受け取る。そしてお腹いっぱいになって睡魔が襲ってきたのか、久遠が目元をこすりかくんかくんと舟を漕ぎ始める。



その様子を見た久臣が優しく抱えて瞬時に寝室に移動した。そしてゆっくりと布団に下ろして自分も横になる。



「しちゃ……」

「うん、しーちゃん、夢で会えると良いね」

「……」



そして静かに久遠は寝息を立て始める。



久臣はせめて夢の中で静紀に会えますようにと祈りながら一緒に眠りについたのだった。
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