【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

文字の大きさ
上 下
103 / 208

しおりを挟む
 この地には巨大な国家がいくつかあり、そしてその周囲に小国が散らばっている。
 人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。

 この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。

 海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
 アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
 過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
 それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。


 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
 この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。


 ♢ ♢ ♢

 この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。

 エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那マナと呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変ったと呼ばれるものに分けられる。

 水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣エーテルであるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。

 水が命を育むように、真那マナは生命の活力となり。
 氷が死を呼ぶように、は生命を蝕んだ。

 元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那マナの状態である場合が多く。
 ブレーンの内側にはが多かった。
 そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。

 真那マナの泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊グレートレイスを産み。
 そしてその大霊グレートレイスからレイスが産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。

 神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護マギアスキルを与えた。

 しかしそれは、神による人のレイスに対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。

 そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊グレートレイスに還る。
 多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。




 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」

 亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。

 一瞬あっけにとられる彼女。
 それでもすぐに気をとりなおす。

「はう。何かございましたでしょうか?」
 そう首を傾げる彼女。

 それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。

「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」

 そう怒鳴り。

「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」

 と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。

 ♢ ♢ ♢
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

好きだから手放したら捕まった

鳴海
BL
隣に住む幼馴染である子爵子息とは6才の頃から婚約関係にあった伯爵子息エミリオン。お互いがお互いを大好きで、心から思い合っている二人だったが、ある日、エミリオンは自分たちの婚約が正式に成されておらず、口約束にすぎないものでしかないことを父親に知らされる。そして、身分差を理由に、見せかけだけでしかなかった婚約を完全に解消するよう命じられてしまう。 ※異性、同性関わらず婚姻も出産もできる世界観です。 ※毎週日曜日の21:00に投稿予約済   本編5話+おまけ1話 全6話   本編最終話とおまけは同時投稿します。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

処理中です...