【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

文字の大きさ
上 下
100 / 208

しおりを挟む
「あの、でもこの鍔……」

「そう。そうなんだよ。でも、これは俺の作った鍔」



触っていいかと聞かれて許可をすると紫さんは丁寧にその大太刀を手にしてゆっくりと鍔を撫でる。



「癖とか、自分の特徴っていうのは分かってるからさ、どう見ても俺が作ったものだけど、俺は大太刀は打てないし、余分に鍔を作るようなこともしてない」

「え?打てない……?」

「ああ、大太刀だけは作ろうとすると具合悪くなるんだよ。だから俺が作ったものじゃないんだけど……」



そうだったのか。

そう思うがならばますます話は抉れていく。

紫さんが作った刀ではない。

しかし、紫さんが作った鍔がついている。

そして余分に鍔を作るようなことはしていないのでそれだけを付けるのは不可能。

うん?と首を傾げるがこの不可解な事件に結論は出ない。

俺が頭を悩ませている内に、鞘から刀を抜いた紫さんは真剣な表情で刀身を観察している。



「凄いな。法術が重ね掛けされてる。神業・・だね。普通の人は出来ない」

「そうなんですか?」

「一番はずっと持続していることかな。一定時間の重ね掛けは不可能ではないけれど、それを恒常的につけるにはまずこれに莫大な法力をかける必要がある。それを補うためにある程度外部から吸い取ってるようだけど、それにしたってこんなにずっと効果が続くのは素晴らしい。弟子入りしたいくらい」



紫さんがそう言って絶賛している。

俺には詳しくわからなかったが、そういう法術がかけられているから曲がったり、人からの認識に齟齬が出たりしていたのだろう。



「ああ、でもさすがに一つ壊れてるね。認識阻害かな?これは、うーん。ごめん、復元できないや」



紫さんがさらりとそう口にした。俺はぽかんとして彼を見ていた為一瞬反応が遅れる。



「あ、いえ!そんな大丈夫です」



少し見て触れただけで何の法術がかかってるのか分かるんだ。凄いな。刀工だからかな?



「でも、こんな業物の刀見る人が見たらどんな手を使ってでも欲しくなっちゃうよ。この幻覚がうまく働けばいいけど、わざわざ別に組み込んだってことはそうしなきゃいけないわけで……。俺が手を加えたいけど、難しくて手が出せないや。本当にごめん」

「だ、大丈夫です!肌身離さず持っていますので!!」

「成程~。まあ、不審者はそれで斬ればいいと思うよ!」

「そ、そんな事はしませんよ……?」



そう言うと、紫さんにだめだよ、不審者に慈悲は要らないと真剣な表情でそう言われた。

いやでも、いきなり斬りつけるのは良くないと思いますよ……?



「あ、あと、盗品って簡単に言っちゃダメ。これがどうしても欲しい奴に隙を与えることになる」



紫さんがありがとうっと律儀にお礼を言ってから俺に大太刀を返してくれる。俺はそれを受け取るが彼の言葉には素直に頷けなかった。



「で、でも、俺が拾ったのは事実だし……」

「違う。これは君を選んだんだ。君はこの刀に選ばれた」

「……?」



一瞬紫さんが何を言っているのか分からなかった。

首を傾げると紫さんはすっと大太刀を指さす。



「刀にいくつも法術が施されているけれど、それには発動条件がある」

「え?なら俺はもっとダメです。法術を使えないので……」



普通に考えれば使えない奴がそんなすごい刀を持っていても宝の持ち腐れだろう。

紫さんの話を聞くとますますこの刀の力を十分に使いきれていない情けない拾い主であると俺は思うのだが。



「それも条件の一つかもしれないけど、俺としーちゃんが触った時の空気が違う。具体的にどうのって言われると困るけど、何となく君は刀に気に入られているよ。刀工の俺が言うんだから間違いない!」

「あ、ありがとうございます……?」



確かに、紫さんは俺よりも刀に詳しい人だ。だからきっと俺には分からない何かを感じ取ったのだろう。

じっと受け取ったその刀を見つめてぎゅっと胸に抱く。この刀には随分お世話になった。そして出来るならこれからも一緒にいて欲しい。



「分かりました。えーっと、拾ったって言います」

「いや、俺が作ってあげたっていいな。そうすれば大抵の奴はビビるから」

「いや、でも、大太刀は作れないって……」

「ああ、それ兄さんしか知らないから。普通大太刀を注文するような奴そうそういないしね」

「そんな重要なことを俺に教えていいんですか!?」



紫さんの重大な秘密を知ってしまった事実に恐れ戦いているとあははっと紫さんが声を出して笑った。それからくしゃくしゃと頭を撫でてくれる。



「良いんだよ。もう俺にとってしーちゃんは可愛い弟だからね」

「え……」



紫さんにそういわれ思わず呆けた。それからぎゅうっと胸が締め付けられるような感覚を覚える。はっとして俺は慌てて刀を力強く抱きしめた。衝動以上に何かが溢れそうになったが徐々に心地いい感覚に戻る。感情の昂ぶりが自分で操作できなくて少し驚いているが、やはりどういうわけかこの刀を手にすると落ち着く気がする。



それにしても、前にもこんなことがあったような……。いや、いわれたのは初めてで……?



「だから、どんな話でも遠慮なく言ってね。兄さんも絶対にしーちゃんを見捨てることはないから」

「ありがとう……ございます……」

「うん」



最後に紫さんが笑顔を見せてくれた。



俺はその事にほっとして彼ら兄弟に対する奇妙な感情のことは、きっとあまりにも良い事が起きすぎて自分の処理が追い付かないだけだと思うことにした。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

夫婦喧嘩したのでダンジョンで生活してみたら思いの外快適だった

ミクリ21 (新)
BL
夫婦喧嘩したアデルは脱走した。 そして、連れ戻されたくないからダンジョン暮らしすることに決めた。 旦那ラグナーと義両親はアデルを探すが当然みつからず、実はアデルが神子という神託があってラグナー達はざまぁされることになる。 アデルはダンジョンで、たまに会う黒いローブ姿の男と惹かれ合う。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...