【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「あの、でもこの鍔……」

「そう。そうなんだよ。でも、これは俺の作った鍔」



触っていいかと聞かれて許可をすると紫さんは丁寧にその大太刀を手にしてゆっくりと鍔を撫でる。



「癖とか、自分の特徴っていうのは分かってるからさ、どう見ても俺が作ったものだけど、俺は大太刀は打てないし、余分に鍔を作るようなこともしてない」

「え?打てない……?」

「ああ、大太刀だけは作ろうとすると具合悪くなるんだよ。だから俺が作ったものじゃないんだけど……」



そうだったのか。

そう思うがならばますます話は抉れていく。

紫さんが作った刀ではない。

しかし、紫さんが作った鍔がついている。

そして余分に鍔を作るようなことはしていないのでそれだけを付けるのは不可能。

うん?と首を傾げるがこの不可解な事件に結論は出ない。

俺が頭を悩ませている内に、鞘から刀を抜いた紫さんは真剣な表情で刀身を観察している。



「凄いな。法術が重ね掛けされてる。神業・・だね。普通の人は出来ない」

「そうなんですか?」

「一番はずっと持続していることかな。一定時間の重ね掛けは不可能ではないけれど、それを恒常的につけるにはまずこれに莫大な法力をかける必要がある。それを補うためにある程度外部から吸い取ってるようだけど、それにしたってこんなにずっと効果が続くのは素晴らしい。弟子入りしたいくらい」



紫さんがそう言って絶賛している。

俺には詳しくわからなかったが、そういう法術がかけられているから曲がったり、人からの認識に齟齬が出たりしていたのだろう。



「ああ、でもさすがに一つ壊れてるね。認識阻害かな?これは、うーん。ごめん、復元できないや」



紫さんがさらりとそう口にした。俺はぽかんとして彼を見ていた為一瞬反応が遅れる。



「あ、いえ!そんな大丈夫です」



少し見て触れただけで何の法術がかかってるのか分かるんだ。凄いな。刀工だからかな?



「でも、こんな業物の刀見る人が見たらどんな手を使ってでも欲しくなっちゃうよ。この幻覚がうまく働けばいいけど、わざわざ別に組み込んだってことはそうしなきゃいけないわけで……。俺が手を加えたいけど、難しくて手が出せないや。本当にごめん」

「だ、大丈夫です!肌身離さず持っていますので!!」

「成程~。まあ、不審者はそれで斬ればいいと思うよ!」

「そ、そんな事はしませんよ……?」



そう言うと、紫さんにだめだよ、不審者に慈悲は要らないと真剣な表情でそう言われた。

いやでも、いきなり斬りつけるのは良くないと思いますよ……?



「あ、あと、盗品って簡単に言っちゃダメ。これがどうしても欲しい奴に隙を与えることになる」



紫さんがありがとうっと律儀にお礼を言ってから俺に大太刀を返してくれる。俺はそれを受け取るが彼の言葉には素直に頷けなかった。



「で、でも、俺が拾ったのは事実だし……」

「違う。これは君を選んだんだ。君はこの刀に選ばれた」

「……?」



一瞬紫さんが何を言っているのか分からなかった。

首を傾げると紫さんはすっと大太刀を指さす。



「刀にいくつも法術が施されているけれど、それには発動条件がある」

「え?なら俺はもっとダメです。法術を使えないので……」



普通に考えれば使えない奴がそんなすごい刀を持っていても宝の持ち腐れだろう。

紫さんの話を聞くとますますこの刀の力を十分に使いきれていない情けない拾い主であると俺は思うのだが。



「それも条件の一つかもしれないけど、俺としーちゃんが触った時の空気が違う。具体的にどうのって言われると困るけど、何となく君は刀に気に入られているよ。刀工の俺が言うんだから間違いない!」

「あ、ありがとうございます……?」



確かに、紫さんは俺よりも刀に詳しい人だ。だからきっと俺には分からない何かを感じ取ったのだろう。

じっと受け取ったその刀を見つめてぎゅっと胸に抱く。この刀には随分お世話になった。そして出来るならこれからも一緒にいて欲しい。



「分かりました。えーっと、拾ったって言います」

「いや、俺が作ってあげたっていいな。そうすれば大抵の奴はビビるから」

「いや、でも、大太刀は作れないって……」

「ああ、それ兄さんしか知らないから。普通大太刀を注文するような奴そうそういないしね」

「そんな重要なことを俺に教えていいんですか!?」



紫さんの重大な秘密を知ってしまった事実に恐れ戦いているとあははっと紫さんが声を出して笑った。それからくしゃくしゃと頭を撫でてくれる。



「良いんだよ。もう俺にとってしーちゃんは可愛い弟だからね」

「え……」



紫さんにそういわれ思わず呆けた。それからぎゅうっと胸が締め付けられるような感覚を覚える。はっとして俺は慌てて刀を力強く抱きしめた。衝動以上に何かが溢れそうになったが徐々に心地いい感覚に戻る。感情の昂ぶりが自分で操作できなくて少し驚いているが、やはりどういうわけかこの刀を手にすると落ち着く気がする。



それにしても、前にもこんなことがあったような……。いや、いわれたのは初めてで……?



「だから、どんな話でも遠慮なく言ってね。兄さんも絶対にしーちゃんを見捨てることはないから」

「ありがとう……ございます……」

「うん」



最後に紫さんが笑顔を見せてくれた。



俺はその事にほっとして彼ら兄弟に対する奇妙な感情のことは、きっとあまりにも良い事が起きすぎて自分の処理が追い付かないだけだと思うことにした。
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