97 / 208
刀工
しおりを挟む
ムーンから転載する作業を忘れておりました。申し訳ありません。
ーーーー
あまりにも自分は我儘で自分勝手だ。その事実に思わずはっと鼻で笑いそうになる。
何をいまさら。
俺が彼から逃げ出したのに。
会いたいなんて、どの面下げてそんなことを思っているのか。
ふるりと頭を振ってその考えを追い出した。
今は、目の前のことに集中せねば。
一先ず、いつものようにその刀を背中に括りつけ、ふと先ほどの言葉を思いだす。
「さっき紫さんのこと話してたけど……」
「紫は刀工なんだ」
「え!?」
「あそこが鍛冶場になってる」
そう言ってそーちゃんが指さした。確かに離れのような場所があるが、紫さんが刀を作る姿を想像出来ない。あんな細腕だし、力があるようには見えなかった。勝手な想像だが、刀工は筋肉質な人ばかりだと思っていた。こう、手拭いを頭に巻いてるような……。
「だから紫の刀だと思っただけ」
「成程……」
「うん。あ!そうだ、俺今日色々遊び道具持ってきたんだ!」
そういってそーちゃんは門の方に戻り、風呂敷を持ってくる。刀を持ってくるために置いてきたようだ。
彼が持ってきた遊び道具は室内で遊べるものだった。外で遊ぼうと言われたらどうしようかと思っていたので少しほっとする。
意外だったのは片腕でも割と普通に遊べたことだ。遊びに関しては素人も素人なのでちゃんと相手できるか不安ではあったが問題なかった。
「む、しーちゃん強い……」
「あ、ごめん」
「別にいいよ。あ、手抜いたら分かるから」
「う、うん」
手を抜いたほうがいいのだろうかと思ったら、思考を先回りされた。
そーちゃんは手を抜かれる方が嫌なのか。覚えておこう。
「ただいまー!」
玄関先の方から紫さんの声がした。彼が帰って来たらしい。その声を聞いたそーちゃんがぼそりと声を出す。
「紫だ。外に行ってたの珍しい……」
「今日の夕飯の買い出しに行ってたから」
「昼ご飯食べてないのにもう夕ご飯なの?」
「あ、俺が夕飯のおかずを聞いたからだよ」
「ふーん。じゃあお昼ご飯は何にするの?」
「特に聞いてないけど……」
考えてみれば先に昼ご飯だった。
昼ご飯お握りで大丈夫だろうか。他のおかずも何か作った方がいいかもしれない。あとみそ汁。
「へー?」
「しーちゃん!これで筑前煮作れる!?」
「紫……」
興奮状態で紫さんが入ってきた。その様子に呆れたような声を出すそーちゃん。
俺は立ちあがって彼が買ってきたものを見た。
野菜、キノコ……あれ?
「鶏肉は良いんですか?」
「あ……肉は……苦手で……」
「そうなんですね。じゃあ煮卵とか入れますか?」
「美味しそう!俺卵好きだから食べたい!」
紫さん肉苦手なんだ。肉苦手な人って珍しいな。
煮卵はもう作っておこうかな。
「あ、お昼ごはんはどうしますか?お握りとか作りますか?」
「いいね!ご飯炊いてくる!」
「俺も行きます。煮卵も作りたいので」
「俺も手伝う」
「じゃあ皆で行こう」
ということで、三人で厨に向かう。紫さんがご飯を炊いている間に俺は煮卵の準備をする。
「あ、鮭も買ってるんですね。具にしてもいいですか?」
「勿論!家の厨から焼き鮭が食べられるなんて……っ!」
「あと昆布の佃煮に、おかかも作りますか?」
「いや、あとは塩と梅干で大丈夫だよ」
「じゃあ、あと味噌汁作りますね」
「楽しみ!!」
「俺も」
「そんな特別なものじゃないですよ」
紫さんとそーちゃんがそう言ってくれると嬉しい。今まではそんな事言われたことなかった。弟が持って行く分のお弁当を作ることはよくあったが、評価が悪くて怒られることもあった。
まずいって言われないようにしないと。
ゆで卵を作った後に殻をむいて醤油、砂糖、水、みりんを混ぜた器に殻をむいた卵を入れる。これで保管庫に置いておく。法術で作ったらしい。中はひんやりしていて食材が痛むのを防ぐ画期的なものだ。毘沙門のところにはあったが、ここにもあるとは思わなかったがこれがあると食べ物が長持ちするので便利である。これに入れておけば夕飯まで大丈夫だ。
あとは鮭を焼いて、みそ汁も……。
ーーーー
あまりにも自分は我儘で自分勝手だ。その事実に思わずはっと鼻で笑いそうになる。
何をいまさら。
俺が彼から逃げ出したのに。
会いたいなんて、どの面下げてそんなことを思っているのか。
ふるりと頭を振ってその考えを追い出した。
今は、目の前のことに集中せねば。
一先ず、いつものようにその刀を背中に括りつけ、ふと先ほどの言葉を思いだす。
「さっき紫さんのこと話してたけど……」
「紫は刀工なんだ」
「え!?」
「あそこが鍛冶場になってる」
そう言ってそーちゃんが指さした。確かに離れのような場所があるが、紫さんが刀を作る姿を想像出来ない。あんな細腕だし、力があるようには見えなかった。勝手な想像だが、刀工は筋肉質な人ばかりだと思っていた。こう、手拭いを頭に巻いてるような……。
「だから紫の刀だと思っただけ」
「成程……」
「うん。あ!そうだ、俺今日色々遊び道具持ってきたんだ!」
そういってそーちゃんは門の方に戻り、風呂敷を持ってくる。刀を持ってくるために置いてきたようだ。
彼が持ってきた遊び道具は室内で遊べるものだった。外で遊ぼうと言われたらどうしようかと思っていたので少しほっとする。
意外だったのは片腕でも割と普通に遊べたことだ。遊びに関しては素人も素人なのでちゃんと相手できるか不安ではあったが問題なかった。
「む、しーちゃん強い……」
「あ、ごめん」
「別にいいよ。あ、手抜いたら分かるから」
「う、うん」
手を抜いたほうがいいのだろうかと思ったら、思考を先回りされた。
そーちゃんは手を抜かれる方が嫌なのか。覚えておこう。
「ただいまー!」
玄関先の方から紫さんの声がした。彼が帰って来たらしい。その声を聞いたそーちゃんがぼそりと声を出す。
「紫だ。外に行ってたの珍しい……」
「今日の夕飯の買い出しに行ってたから」
「昼ご飯食べてないのにもう夕ご飯なの?」
「あ、俺が夕飯のおかずを聞いたからだよ」
「ふーん。じゃあお昼ご飯は何にするの?」
「特に聞いてないけど……」
考えてみれば先に昼ご飯だった。
昼ご飯お握りで大丈夫だろうか。他のおかずも何か作った方がいいかもしれない。あとみそ汁。
「へー?」
「しーちゃん!これで筑前煮作れる!?」
「紫……」
興奮状態で紫さんが入ってきた。その様子に呆れたような声を出すそーちゃん。
俺は立ちあがって彼が買ってきたものを見た。
野菜、キノコ……あれ?
「鶏肉は良いんですか?」
「あ……肉は……苦手で……」
「そうなんですね。じゃあ煮卵とか入れますか?」
「美味しそう!俺卵好きだから食べたい!」
紫さん肉苦手なんだ。肉苦手な人って珍しいな。
煮卵はもう作っておこうかな。
「あ、お昼ごはんはどうしますか?お握りとか作りますか?」
「いいね!ご飯炊いてくる!」
「俺も行きます。煮卵も作りたいので」
「俺も手伝う」
「じゃあ皆で行こう」
ということで、三人で厨に向かう。紫さんがご飯を炊いている間に俺は煮卵の準備をする。
「あ、鮭も買ってるんですね。具にしてもいいですか?」
「勿論!家の厨から焼き鮭が食べられるなんて……っ!」
「あと昆布の佃煮に、おかかも作りますか?」
「いや、あとは塩と梅干で大丈夫だよ」
「じゃあ、あと味噌汁作りますね」
「楽しみ!!」
「俺も」
「そんな特別なものじゃないですよ」
紫さんとそーちゃんがそう言ってくれると嬉しい。今まではそんな事言われたことなかった。弟が持って行く分のお弁当を作ることはよくあったが、評価が悪くて怒られることもあった。
まずいって言われないようにしないと。
ゆで卵を作った後に殻をむいて醤油、砂糖、水、みりんを混ぜた器に殻をむいた卵を入れる。これで保管庫に置いておく。法術で作ったらしい。中はひんやりしていて食材が痛むのを防ぐ画期的なものだ。毘沙門のところにはあったが、ここにもあるとは思わなかったがこれがあると食べ物が長持ちするので便利である。これに入れておけば夕飯まで大丈夫だ。
あとは鮭を焼いて、みそ汁も……。
17
お気に入りに追加
3,612
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる