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妖魔退治 1-1

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俺が大体6歳ぐらいだと思うから弟は5歳。そんな歳で妖魔退治に行かせるなんて流石天才は違う。この前身をもって体験した法術も見事なものだし、きっと彼自身戦力になっているのだろう。

時間を聞いていなかったので正面玄関に早朝から待って数時間。朝日も登り、屋敷の人間たちが動き始めた気配を感じていると誰かが俺に近づいてきた。この気配は当主様だ。息遣いや足音などで分かった。



「ふん。理央の足だけは引っ張るんじゃないぞ」

「はい」

「私たちはお前が理央にした仕打ちをずっと忘れないからな」

「はい」



ちっと最後に舌打ちをした後に彼が去っていく。これも言われたのは初めてだ。弟を守ればきっと侍従としての価値を見出してくれるだろうから今日は正念場だ。何の準備も出来ずにぶっつけ本番ではあるが。

微動だにせずに再びそこで待っているとまた足音が聞こえた。この足音と気配は……。



「何の御用でしょうか」

「一介の使用人に敬語を使うのは……」

「私は今理央様の侍従です」

「……朝餉を済ませていないでしょう。此方をどうぞ」



すっと何かが俺の前に差し出された。周りに彼以外の気配を感じないので少し仮面をずらして何がそこにあるのかを確認する。竹皮を皿にしてお握りとたくあんがのっている。俺の為に持ってきたのだろう。



「これはいただきます。ですが、今後は控えてください」

「これもダメなんですか?」

「はい」

「……分かりました」



新人だからきっとまだこの家の決まりを知らないのだろう。一応名門であるので給金はいいはずだから俺のせいで職を失うことになるような事態は避けたい。

彼も一応事情は呑み込んだようでそれ以上食い下がることはなくすぐに去っていった。俺は貰ったお握りを手にしてがぶりと一口食べる。塩をまぶしたお握りだ。美味しい。美味しいが……。



「久遠と食べていたご飯の方が美味しかったな」



ぼそりと俺はそう呟いてはっとする。いけない。久遠のことをまた考えてしまった。暫くは会わないのだから久遠の事を考えるな。

ふるふると首を振ってたくあんともう一つのお握りを頬張る。すると、がちっと何か固いものが歯に当たった。

石でも詰めたのか?とそう思いながら口から離すと丸い白の玉が入っていた。紐でくくられておりぐいっとそれをとってとりあえずお握りを食べ終える。



「……やられた」



ほわんほわんっと球体の中に文字が見える。治癒系の法術のようだ。前にも言ったが、治癒系が一番法術で難しい術になる。それを付与するなんて想像を超える高度な技術だ。

あの使用人がやったのか?それとも買った?

どちらにせよ、彼の貴重な持ち物を奪ってしまったようだ。

俺なんかにこんな素晴らしいものを渡さなくてもいいのに……。だからと言って返すために声をかければ目立つ。それこそ彼に迷惑をかける行為。

見つからないように首に下げて服の中に入れる。そして仮面をかぶりなおした。

それから暫く待っていると複数人の声が聞こえてくる。その中に弟も交じっているので妖魔退治に行く者たちなのだろう。



「あ、ご苦労様。今日はよろしくね」

「はい」



弟の声だ。それに短く答えて後ろに控える。弟についてるのは二人だ。



「理央様の足を引っ張ったらどうなるか分かってるんだろうな?」

「法術が使えないお前は余計な事しないで引っ込んでろよ」



すれ違いざまにそう2人が俺に警告した。聞いたことがある声だと思ったら、俺を井戸に落として賭け事をしていた二人のはずだ。

そのつもりではあったので「はい」と短く返事をした後に彼らの後ろについていく。つかず離れず一定の距離を保っていると門の近くについた。今日の妖魔退治に行く人達が集まっていた。何となく、気配で人数は6人くらい。俺含め合わせて10人程度だ。割と多い編成だ。思いのほか規模が大きい妖魔退治なのかもしれない。




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