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期待
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晴臣さんの宿題について、聞く人を厳選する必要がある。間違えると確実に大変なことになるのは目に見えているからだ。輝夜先生とか久臣さんとか……。
とはいえ、元々知り合いが少ないので選択肢はそう多くない。
「しちゃ!こえ!」
「どうしたのくーちゃん」
今日の護衛は燕さんだ。さっきまで久遠と一緒におやつを貰いに行っていた。しかし、久遠の手には何かの紙が握られており、おやつであろうものが乗った皿は燕さんが持っている。
久遠に渡された紙を受け取ってそれを見た。
「法術体験会……?」
「そうそう! 霊峰院の法術師が子供たちの為に勉強会みたいなのを開くんだ。たいちょ……じゃなくて、鉄二さんも参加するから行ってみない?」
知らなかった。こんなのあったのか。
まじまじとその紙を見る。場所は霊峰院がある場所だ。この紙が招待状らしく、これがあれば参加できるようだ。
「くちゃ、いく!!」
「じゃあ俺も行こうかな」
「いしょ!」
「良かった!」
そう言って燕さんは持っている皿を床に置く。中に入っているのは桃だった。美味しそうだ。横に添えてある串をとろうとすると、久遠の小さな手がばっと制止するように出た。
どうしたんだろうと首を傾げて彼を見ると、燕さんがにやっと意地悪く笑顔を見せる。
「さあ若君、今です!」
「う!」
ふわりと冷気が皿から漂ってきた。驚いて久遠を見ると彼は真剣な表情であった。それからすっと久遠が小さな手をそこから動かすと皿の中の桃は、彼の法術によってきんきんに冷えていた。
「どぞ!」
「すごいねくーちゃん。ありが、え!?」
俺がそう言って串を桃に刺し、いつもの感覚とは違うそれに思わず驚きの声を出してしまった。桃は柔らかくて甘い果物なのに、今俺が差した桃はしゃくっと音を立てていた。
久遠を見ると、にひっと悪戯が成功したような表情で笑顔を見せており、燕さんと手を合わせていた。
「大成功~」
「しぇーこー!」
「こ、これなんですか!? 桃じゃなかったんですか!?」
もしや桃に似た何かなのだろうかと思ってそう言うと燕さんは首を振る。
「これは、若君の法術で凍った桃だよ。夏場は最高のおやつ!」
「こ、凍らせるとこんなものに……っ!」
「しちゃ、あー!!」
そう言って久遠が差した桃を俺の口元に持って行くので口に含むとだいぶ冷たい。噛むとしゃくしゃくと小気味いい音がする。新食感!これは確かに夏場の暑いときは最高だ。
「あ、若君はお腹壊しちゃうのでダメですよ。こっちの凍ってない方食べましょうね」
そう言って燕さんはもう一つ小さく切られた桃の入った器を出した。じっと久遠がそれを見た後に凍った桃を見る。そしてぶんっと首を横に振った。
「や!」
「だめでーす」
「やあ!! しちゃのたべう!!」
口の中にまだ桃が入っていて予想以上に冷たくて食べるのに苦戦しているため口を挟めずにいると久遠が燕さんから逃げるようにぎゅうっと抱き着いてきた。もごもごと口を動かしながら久遠を見ると久遠が俺の身体をよじ登ってきた。
「あぶ……っ!」
予想外のことに体がぐらりと傾くと燕さんが慌てて俺の身体を支えてくれた。目でありがとうございますと燕さんに伝えようとしてぬうっと久遠の顔が現れる。
え。
ちゅっと久遠の口が重なった。
え、え、え。
固まっている俺の唇を割って久遠が舌を伸ばして器用に桃を自分の口の中に移動させる。そしてもぐもぐと軽く咀嚼した後にごくんと飲み込んだ。
その鮮やかな手口に何もできない俺。
「あー……」
「!」
ただ呆けて見ていたが、もう一度久遠が顔を近づけてきたので慌ててそっぽを向いて口の中のものを飲み込む。噎せた。
「げほ、ごほっ!」
「! しちゃ、だーじょぶ!?」
「だ、だいじょう、ぶ……」
どうにか咳き込みながらそういって久遠を見た。
こんなことされたのが初めてだし、二歳児が何かとんでもないことしてるということは分かる。というか、いったい誰の真似をしているのだろうか。それとも教わった?いや、それはないか。
とりあえず久遠の口の周りを手拭いで拭きながら彼に言い聞かせる。
「くーちゃん、さっきのは人にやっちゃダメ」
「? なーで? とととかかしてう!」
成程、二人を見てたのか……。子供って意外と見てるもんだなと思いながらもどういえばいいのだろうかと頭を悩ませる。何かご飯食ってると思ってるんだろうな、これは。どうすれば納得してくれるだろうか。
俺が困っていると燕さんが助け舟を出してくれた。
「それはですね、とととかかは夫婦だからですよ」
「めーと?」
「そうです」
そう言うと久遠は成程っと頷いた。とりあえずなんで攻撃は続かないようだ。その事に安心していると久遠は次ににぱっと笑顔を見せた。
「くちゃもしちゃとめーと、なる!」
久遠はこういう子だったと俺は軽く苦笑しながら彼のそれを否定するための言葉を口にしようとしてその前に燕さんが答えた。
「子供は出来ないので無理です。大人になってから夫婦になりましょうね」
「う!」
「いや!俺は久遠と夫婦になりませんよ!?」
燕さんの言葉を俺は素早く否定した。するときょとんとした久遠がうるうると悲しそうに涙を目にためる。それからぎゅっと俺の衣を掴んだ。
「しちゃ、や?」
「違うよ。前も言ったけど、これから久遠はもっといろんな人に会って選択肢が沢山出来るから今そんな事言わなくてもいいよって事」
久遠は納得できずに眉を八の字に曲げている。
もう少し、言葉を足そうと口を開こうとしてまたしても燕さんが口を挟んできた。
「成程! 若君つまりこういうことです。若君のお気持ちはとてもうれしかったから大人になっても同じ気持ちだったらもう一度言って欲しいなってことです!」
「つ、燕さん!!」
そこまでは言ってないし、それは久遠の選択肢を狭める言葉だ。俺はその言葉を避けつつ話をしていたのにこうもあっさり曲解されると困る。嬉しいのは事実。でも大人になっても同じだったら~なんて俺が期待しているような言葉を言ったらこの子は応えようとするだろう。優しい子だからきっと俺を悲しませないように自分の気持ちを無視して俺を喜ばせようとするはずだ。それはだめだ。
とはいえ、元々知り合いが少ないので選択肢はそう多くない。
「しちゃ!こえ!」
「どうしたのくーちゃん」
今日の護衛は燕さんだ。さっきまで久遠と一緒におやつを貰いに行っていた。しかし、久遠の手には何かの紙が握られており、おやつであろうものが乗った皿は燕さんが持っている。
久遠に渡された紙を受け取ってそれを見た。
「法術体験会……?」
「そうそう! 霊峰院の法術師が子供たちの為に勉強会みたいなのを開くんだ。たいちょ……じゃなくて、鉄二さんも参加するから行ってみない?」
知らなかった。こんなのあったのか。
まじまじとその紙を見る。場所は霊峰院がある場所だ。この紙が招待状らしく、これがあれば参加できるようだ。
「くちゃ、いく!!」
「じゃあ俺も行こうかな」
「いしょ!」
「良かった!」
そう言って燕さんは持っている皿を床に置く。中に入っているのは桃だった。美味しそうだ。横に添えてある串をとろうとすると、久遠の小さな手がばっと制止するように出た。
どうしたんだろうと首を傾げて彼を見ると、燕さんがにやっと意地悪く笑顔を見せる。
「さあ若君、今です!」
「う!」
ふわりと冷気が皿から漂ってきた。驚いて久遠を見ると彼は真剣な表情であった。それからすっと久遠が小さな手をそこから動かすと皿の中の桃は、彼の法術によってきんきんに冷えていた。
「どぞ!」
「すごいねくーちゃん。ありが、え!?」
俺がそう言って串を桃に刺し、いつもの感覚とは違うそれに思わず驚きの声を出してしまった。桃は柔らかくて甘い果物なのに、今俺が差した桃はしゃくっと音を立てていた。
久遠を見ると、にひっと悪戯が成功したような表情で笑顔を見せており、燕さんと手を合わせていた。
「大成功~」
「しぇーこー!」
「こ、これなんですか!? 桃じゃなかったんですか!?」
もしや桃に似た何かなのだろうかと思ってそう言うと燕さんは首を振る。
「これは、若君の法術で凍った桃だよ。夏場は最高のおやつ!」
「こ、凍らせるとこんなものに……っ!」
「しちゃ、あー!!」
そう言って久遠が差した桃を俺の口元に持って行くので口に含むとだいぶ冷たい。噛むとしゃくしゃくと小気味いい音がする。新食感!これは確かに夏場の暑いときは最高だ。
「あ、若君はお腹壊しちゃうのでダメですよ。こっちの凍ってない方食べましょうね」
そう言って燕さんはもう一つ小さく切られた桃の入った器を出した。じっと久遠がそれを見た後に凍った桃を見る。そしてぶんっと首を横に振った。
「や!」
「だめでーす」
「やあ!! しちゃのたべう!!」
口の中にまだ桃が入っていて予想以上に冷たくて食べるのに苦戦しているため口を挟めずにいると久遠が燕さんから逃げるようにぎゅうっと抱き着いてきた。もごもごと口を動かしながら久遠を見ると久遠が俺の身体をよじ登ってきた。
「あぶ……っ!」
予想外のことに体がぐらりと傾くと燕さんが慌てて俺の身体を支えてくれた。目でありがとうございますと燕さんに伝えようとしてぬうっと久遠の顔が現れる。
え。
ちゅっと久遠の口が重なった。
え、え、え。
固まっている俺の唇を割って久遠が舌を伸ばして器用に桃を自分の口の中に移動させる。そしてもぐもぐと軽く咀嚼した後にごくんと飲み込んだ。
その鮮やかな手口に何もできない俺。
「あー……」
「!」
ただ呆けて見ていたが、もう一度久遠が顔を近づけてきたので慌ててそっぽを向いて口の中のものを飲み込む。噎せた。
「げほ、ごほっ!」
「! しちゃ、だーじょぶ!?」
「だ、だいじょう、ぶ……」
どうにか咳き込みながらそういって久遠を見た。
こんなことされたのが初めてだし、二歳児が何かとんでもないことしてるということは分かる。というか、いったい誰の真似をしているのだろうか。それとも教わった?いや、それはないか。
とりあえず久遠の口の周りを手拭いで拭きながら彼に言い聞かせる。
「くーちゃん、さっきのは人にやっちゃダメ」
「? なーで? とととかかしてう!」
成程、二人を見てたのか……。子供って意外と見てるもんだなと思いながらもどういえばいいのだろうかと頭を悩ませる。何かご飯食ってると思ってるんだろうな、これは。どうすれば納得してくれるだろうか。
俺が困っていると燕さんが助け舟を出してくれた。
「それはですね、とととかかは夫婦だからですよ」
「めーと?」
「そうです」
そう言うと久遠は成程っと頷いた。とりあえずなんで攻撃は続かないようだ。その事に安心していると久遠は次ににぱっと笑顔を見せた。
「くちゃもしちゃとめーと、なる!」
久遠はこういう子だったと俺は軽く苦笑しながら彼のそれを否定するための言葉を口にしようとしてその前に燕さんが答えた。
「子供は出来ないので無理です。大人になってから夫婦になりましょうね」
「う!」
「いや!俺は久遠と夫婦になりませんよ!?」
燕さんの言葉を俺は素早く否定した。するときょとんとした久遠がうるうると悲しそうに涙を目にためる。それからぎゅっと俺の衣を掴んだ。
「しちゃ、や?」
「違うよ。前も言ったけど、これから久遠はもっといろんな人に会って選択肢が沢山出来るから今そんな事言わなくてもいいよって事」
久遠は納得できずに眉を八の字に曲げている。
もう少し、言葉を足そうと口を開こうとしてまたしても燕さんが口を挟んできた。
「成程! 若君つまりこういうことです。若君のお気持ちはとてもうれしかったから大人になっても同じ気持ちだったらもう一度言って欲しいなってことです!」
「つ、燕さん!!」
そこまでは言ってないし、それは久遠の選択肢を狭める言葉だ。俺はその言葉を避けつつ話をしていたのにこうもあっさり曲解されると困る。嬉しいのは事実。でも大人になっても同じだったら~なんて俺が期待しているような言葉を言ったらこの子は応えようとするだろう。優しい子だからきっと俺を悲しませないように自分の気持ちを無視して俺を喜ばせようとするはずだ。それはだめだ。
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