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はっと目が覚めて体を起こした。いつの間にかあの久遠の部屋ではなく自分の部屋に戻っていたようだった。
変な夢を見た。心臓がどくんどくんと鳴り響いて耳鳴りがうるさい。冷や汗が流れてぐいっと拭うと横でがばっと誰かが体を起こした。
「しちゃ!」
「あ、くーちゃん」
隣にいたのは久遠だったようだ。ぎゅううっと抱き着いてきたので抱きしめ返す。
「しちゃ、くちゃきらーになった?」
久遠がそう聞いてきた。不安そうな表情で今にも泣きそうな顔をしている。
俺は首を振った。
「前にも言ったけど、俺は君以外の一番を選ばないよ。ずっとずっと大好き。何をしても、どんな姿になっても俺は絶対に嫌いにならない」
「しちゃぁ……」
そう言ってまた久遠が泣き始めたので俺は少し笑いながら目が溶けちゃいそうだと涙をぬぐう。こんなに泣かせてしまって、本当に申し訳ない。
それにしても久遠の法術はとても強力であることがこの身をもって感じられた。できれば感情に振り回されることなく使えるようになってほしい。今度は、本当に久遠が大事な人を傷つけてしまう可能性がある。その時に今の久遠のようにまた彼が傷ついてしまうのはいやだ。知識だったら教えられるが、今必要なのは彼がきちんと法術を操れるようになること。
晴臣さんか久臣さんに言った方がいい気がする。
そんなことを思っていたら、外から声がした。
「若君、しーちゃん今いいですか?」
晴臣さんの声だ。俺は久遠をチラッと見る。久遠はうんっと頷くので外にいる彼にどうぞっと声をかける。
すると、晴臣さんが中に入ってきて久遠を抱えた。それから持っている手ぬぐいを目元に置く。
「ちゅめたー!」
「腫れちゃいますから、我慢してくださいね」
「むー……」
晴臣さんにそう言われて久遠は黙ってそのままにする。この前はすごく嫌がっていた気がするけど、大人になったということだろうか。手持ち無沙汰になってぶらぶらしている久遠の手をそっと握るとぎゅっと握り返してくれてそのまま俺たちは晴臣さんについて行く。
「お待ちしておりました、若君、しーちゃん様」
「てっちゃ!」
連れてこられた部屋には鉄二さんがいて、ふたつの文机には硯と筆、紙が置いてありその向かいに1つの同じ机があった。晴臣さんから下ろされた久遠は短い足をよちよちと動かしながら鉄二さんの元に駆け寄っていくががっつり俺の手を握ったまま引っ張るので必然的に俺も彼のところに向かうことになる。
そして抱っこ!っと手をあげようとしてようやく久遠が俺の手を握ったままなことに気がついた。あれ?っと首を傾げて俺を見上げてくる。それからにぱっ!と笑顔を見せた。
「しちゃ、くちゃとて、ちゅなぎたかた?」
「あ、うん。でも鉄二さんに抱っこして欲しいなら……」
「くちゃ、なーよし!」
「そうだね……?」
そう言ってにひにひと笑う久遠に、抱っこはいいのか?と首を傾げると、彼の興味はもう違う方に行っているようで今度は机の方に向かって歩き出した。
待ってくれ。手を離してもらっていいか……?
「はい、若君。しーちゃんの手を離しましょうね」
見かねた晴臣さんがそういうが久遠はぶんっと首を横に振る。
「しちゃが!ね!」
「あ、そろそろ離してもらっても……」
「……っ!!」
にぎにぎと手を動かしてそれから俺を久遠が見つめた。悲しそうな表情でぐっと俺は全てを飲み込んでそっと晴臣さんを見る。
「このままで」
「じゃあ机くっつけましょうか」
「お願いします」
そう言って晴臣さんが机をくっ付ける。そこに座ると久遠が俺の膝の上によじ登ってちょこんと座った。てっきり隣の机が久遠のかと思ったのに違ったのかな。
変な夢を見た。心臓がどくんどくんと鳴り響いて耳鳴りがうるさい。冷や汗が流れてぐいっと拭うと横でがばっと誰かが体を起こした。
「しちゃ!」
「あ、くーちゃん」
隣にいたのは久遠だったようだ。ぎゅううっと抱き着いてきたので抱きしめ返す。
「しちゃ、くちゃきらーになった?」
久遠がそう聞いてきた。不安そうな表情で今にも泣きそうな顔をしている。
俺は首を振った。
「前にも言ったけど、俺は君以外の一番を選ばないよ。ずっとずっと大好き。何をしても、どんな姿になっても俺は絶対に嫌いにならない」
「しちゃぁ……」
そう言ってまた久遠が泣き始めたので俺は少し笑いながら目が溶けちゃいそうだと涙をぬぐう。こんなに泣かせてしまって、本当に申し訳ない。
それにしても久遠の法術はとても強力であることがこの身をもって感じられた。できれば感情に振り回されることなく使えるようになってほしい。今度は、本当に久遠が大事な人を傷つけてしまう可能性がある。その時に今の久遠のようにまた彼が傷ついてしまうのはいやだ。知識だったら教えられるが、今必要なのは彼がきちんと法術を操れるようになること。
晴臣さんか久臣さんに言った方がいい気がする。
そんなことを思っていたら、外から声がした。
「若君、しーちゃん今いいですか?」
晴臣さんの声だ。俺は久遠をチラッと見る。久遠はうんっと頷くので外にいる彼にどうぞっと声をかける。
すると、晴臣さんが中に入ってきて久遠を抱えた。それから持っている手ぬぐいを目元に置く。
「ちゅめたー!」
「腫れちゃいますから、我慢してくださいね」
「むー……」
晴臣さんにそう言われて久遠は黙ってそのままにする。この前はすごく嫌がっていた気がするけど、大人になったということだろうか。手持ち無沙汰になってぶらぶらしている久遠の手をそっと握るとぎゅっと握り返してくれてそのまま俺たちは晴臣さんについて行く。
「お待ちしておりました、若君、しーちゃん様」
「てっちゃ!」
連れてこられた部屋には鉄二さんがいて、ふたつの文机には硯と筆、紙が置いてありその向かいに1つの同じ机があった。晴臣さんから下ろされた久遠は短い足をよちよちと動かしながら鉄二さんの元に駆け寄っていくががっつり俺の手を握ったまま引っ張るので必然的に俺も彼のところに向かうことになる。
そして抱っこ!っと手をあげようとしてようやく久遠が俺の手を握ったままなことに気がついた。あれ?っと首を傾げて俺を見上げてくる。それからにぱっ!と笑顔を見せた。
「しちゃ、くちゃとて、ちゅなぎたかた?」
「あ、うん。でも鉄二さんに抱っこして欲しいなら……」
「くちゃ、なーよし!」
「そうだね……?」
そう言ってにひにひと笑う久遠に、抱っこはいいのか?と首を傾げると、彼の興味はもう違う方に行っているようで今度は机の方に向かって歩き出した。
待ってくれ。手を離してもらっていいか……?
「はい、若君。しーちゃんの手を離しましょうね」
見かねた晴臣さんがそういうが久遠はぶんっと首を横に振る。
「しちゃが!ね!」
「あ、そろそろ離してもらっても……」
「……っ!!」
にぎにぎと手を動かしてそれから俺を久遠が見つめた。悲しそうな表情でぐっと俺は全てを飲み込んでそっと晴臣さんを見る。
「このままで」
「じゃあ机くっつけましょうか」
「お願いします」
そう言って晴臣さんが机をくっ付ける。そこに座ると久遠が俺の膝の上によじ登ってちょこんと座った。てっきり隣の机が久遠のかと思ったのに違ったのかな。
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