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「あの、この水に触っても大丈夫ですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
俺は最後にこの湖を触るためにもう一度湖面を見ると水面が揺らいだ。そして、自分の姿から雫さん・・・に変わり、手が伸びた。
「―――っ!?」
「しーちゃん!!」
腕を掴まれてそのまま湖の中に引きずり込まれる。
凍えるような寒さだ。息を抑えながら首にかかっている手を引きはがそうとして爪を立てると悲鳴を上げて彼が離れた。それから泣きそうな顔で俺を見た。
彼の口が動く。
『に』『い』『さ』『ま』
そう言ってもう一度彼の手が伸びる。
にいさま、兄さま?俺の事を言ってるのか?俺は雫さんのような弟はいない。俺の弟はあの子だけだ。
でも、不思議と近づいてくる彼に恐怖を感じることはない。
『い』『ち』
彼の口がまた動く。何を言うのかじっと注視しているとぐんっと体が上に引き上げられた。
「しーちゃん!!」
「げほ、ごほっ!!」
誰かの声が聞こえている。
頭がぐわんぐわんと眩暈に似た症状を起こし、かちかちと歯の根が合わない。しかし、彼の言葉が気になって吸い寄せられるように水面に向かって手を伸ばすがぐっと体を抱えられて引き離された。
「消えろ」
ばしゃっと水面が激しく動いて、水面に彼は映らなくなった。げほごほと咳き込むと、久臣さんがすぐに俺の身体を温めてくれる。それから怪我がないかと色々調べてくれた。
「大丈夫!?」
「へい……え?」
ぐらりと久臣さんの身体が倒れた。そのまま地面に伏してしまう。先ほどまで普通に会話して、法術を使ってくれたのに突然だ。
「久臣さん!!」
「ぅ、だ、い……」
「動かないでください!!」
外傷はない。何かの病気かそれとも法術……?兎に角誰かを呼んでこなければ!俺では何があったのか全く分からない。
「今誰か呼んできます!!」
「だ……」
「俺泳げるので!」
少しでも体温を冷やさないようにするため借りている羽織りをかけて湖に潜り込む。俺の身長だとやっぱり深いが、泳げるので怖い物はない。難なく反対側の岸まで泳いで上がり、走り出そうとして転んだ・・・。
振り返ると右足首を誰かが掴んでいる。湖の中からそれは伸びていて、今度はもう片方の手が左足を掴もうとするので蹴り上げた。するとその手はうろうろと空中を彷徨ってへりを掴む。そして力を入れてざばっと上半身を曝け出した。
「にィサまぁ……」
「……」
先ほど湖にいた人だ。雫さんの形をしているがやっぱり彼ではない。じっと俺を見て、ずるずると俺の足を湖の中に引きずり込んでいる。
「どどどドここに、いいいく、のぉお?」
びくびくと頬が引きつって痙攣している。それに伴って言葉も少しおかしい。ずるずると引きずられて彼の目の前までやってくると彼がゆっくりと手を離して冷たい手が俺の頬を撫でる。
「に、い……」
「俺は貴方のお兄さんじゃない」
「……いちのみやおにいさま」
「違う」
瞬間、顔が黒く塗りつぶされてぎいいいいいいっ!!と変な声が響いた。がちがちがちっと威嚇するように牙がかみ合うような音と手が伸びてきて俺は近くにある大きめの石で側頭部を殴った。
「ちっ!」
思いのほか固い。そこが彼の弱点であることは分かっているのに骨ではない尋常な固さの何かがそこにあって一度だけの衝撃で砕くことが出来なかった。
もう少し時間を稼げば……いやこれ以上待てない!久臣さんが危ないのにこんなのに構っていられるか!!
「に、ざまあああああああああああっっ!!」
「俺はお前の兄じゃない!!」
ぐっと思いっきり首を絞められたがもう一度同じ場所をぶん殴ると頭がはじけ飛んだ。ぐらっと頭を無くしたからだが倒れてそのまま湖の中に入ってしまう。
慌てて彼の腕を掴んで持ち上げようとするがその前に湖に大きな影が出来て、ざばあっと湖の水が一斉に溢れ出た。
「久臣さん!!」
波が押し寄せてその衝撃をもろに受けて浚われてしまう。水を飲まないように息を止めたが、倒れている久臣さんはもろに受けたはずだ。波が引き、彼の容体を確認するために体を起こすと彼の傍らに誰かがいる。
「離れろ!!」
第一に、刺激しないようにするのが一番なのに久臣さんが傷つけられると思ったらすぐにかっとなって石を投げてしまった上にそれはすぐに弾かれた。
まずい、今の俺は丸腰、そして彼とも距離がある。間には湖。最悪だ。
自分の短絡的な行動に後悔が押し寄せるが、今はそんな事をしている場合ではない。
「久臣さんから……っ!!」
「これは大丈夫です。頑丈なので」
「え……?」
聞き覚えのある声に呆けた声が出た。そして、彼がゆっくりと此方を向く。彼の顔を見た後俺はたまらず名前を呼んだ。
「雫さん!!」
そう呼んではっとした。この時点で、俺はまだ彼に出会っていない。大体にして帝の式神なんだ。高貴な身分。それが俺なんかと関わることが出来たのは一重に七宝に選ばれたからである。
初対面の人間に名前を呼ばれて警戒されただろう。というか気持ち悪いって思われてたらどうしよう。そう思い彼を見るといつものように微笑んでいた。
「いいよ」
「ありがとうございます」
俺は最後にこの湖を触るためにもう一度湖面を見ると水面が揺らいだ。そして、自分の姿から雫さん・・・に変わり、手が伸びた。
「―――っ!?」
「しーちゃん!!」
腕を掴まれてそのまま湖の中に引きずり込まれる。
凍えるような寒さだ。息を抑えながら首にかかっている手を引きはがそうとして爪を立てると悲鳴を上げて彼が離れた。それから泣きそうな顔で俺を見た。
彼の口が動く。
『に』『い』『さ』『ま』
そう言ってもう一度彼の手が伸びる。
にいさま、兄さま?俺の事を言ってるのか?俺は雫さんのような弟はいない。俺の弟はあの子だけだ。
でも、不思議と近づいてくる彼に恐怖を感じることはない。
『い』『ち』
彼の口がまた動く。何を言うのかじっと注視しているとぐんっと体が上に引き上げられた。
「しーちゃん!!」
「げほ、ごほっ!!」
誰かの声が聞こえている。
頭がぐわんぐわんと眩暈に似た症状を起こし、かちかちと歯の根が合わない。しかし、彼の言葉が気になって吸い寄せられるように水面に向かって手を伸ばすがぐっと体を抱えられて引き離された。
「消えろ」
ばしゃっと水面が激しく動いて、水面に彼は映らなくなった。げほごほと咳き込むと、久臣さんがすぐに俺の身体を温めてくれる。それから怪我がないかと色々調べてくれた。
「大丈夫!?」
「へい……え?」
ぐらりと久臣さんの身体が倒れた。そのまま地面に伏してしまう。先ほどまで普通に会話して、法術を使ってくれたのに突然だ。
「久臣さん!!」
「ぅ、だ、い……」
「動かないでください!!」
外傷はない。何かの病気かそれとも法術……?兎に角誰かを呼んでこなければ!俺では何があったのか全く分からない。
「今誰か呼んできます!!」
「だ……」
「俺泳げるので!」
少しでも体温を冷やさないようにするため借りている羽織りをかけて湖に潜り込む。俺の身長だとやっぱり深いが、泳げるので怖い物はない。難なく反対側の岸まで泳いで上がり、走り出そうとして転んだ・・・。
振り返ると右足首を誰かが掴んでいる。湖の中からそれは伸びていて、今度はもう片方の手が左足を掴もうとするので蹴り上げた。するとその手はうろうろと空中を彷徨ってへりを掴む。そして力を入れてざばっと上半身を曝け出した。
「にィサまぁ……」
「……」
先ほど湖にいた人だ。雫さんの形をしているがやっぱり彼ではない。じっと俺を見て、ずるずると俺の足を湖の中に引きずり込んでいる。
「どどどドここに、いいいく、のぉお?」
びくびくと頬が引きつって痙攣している。それに伴って言葉も少しおかしい。ずるずると引きずられて彼の目の前までやってくると彼がゆっくりと手を離して冷たい手が俺の頬を撫でる。
「に、い……」
「俺は貴方のお兄さんじゃない」
「……いちのみやおにいさま」
「違う」
瞬間、顔が黒く塗りつぶされてぎいいいいいいっ!!と変な声が響いた。がちがちがちっと威嚇するように牙がかみ合うような音と手が伸びてきて俺は近くにある大きめの石で側頭部を殴った。
「ちっ!」
思いのほか固い。そこが彼の弱点であることは分かっているのに骨ではない尋常な固さの何かがそこにあって一度だけの衝撃で砕くことが出来なかった。
もう少し時間を稼げば……いやこれ以上待てない!久臣さんが危ないのにこんなのに構っていられるか!!
「に、ざまあああああああああああっっ!!」
「俺はお前の兄じゃない!!」
ぐっと思いっきり首を絞められたがもう一度同じ場所をぶん殴ると頭がはじけ飛んだ。ぐらっと頭を無くしたからだが倒れてそのまま湖の中に入ってしまう。
慌てて彼の腕を掴んで持ち上げようとするがその前に湖に大きな影が出来て、ざばあっと湖の水が一斉に溢れ出た。
「久臣さん!!」
波が押し寄せてその衝撃をもろに受けて浚われてしまう。水を飲まないように息を止めたが、倒れている久臣さんはもろに受けたはずだ。波が引き、彼の容体を確認するために体を起こすと彼の傍らに誰かがいる。
「離れろ!!」
第一に、刺激しないようにするのが一番なのに久臣さんが傷つけられると思ったらすぐにかっとなって石を投げてしまった上にそれはすぐに弾かれた。
まずい、今の俺は丸腰、そして彼とも距離がある。間には湖。最悪だ。
自分の短絡的な行動に後悔が押し寄せるが、今はそんな事をしている場合ではない。
「久臣さんから……っ!!」
「これは大丈夫です。頑丈なので」
「え……?」
聞き覚えのある声に呆けた声が出た。そして、彼がゆっくりと此方を向く。彼の顔を見た後俺はたまらず名前を呼んだ。
「雫さん!!」
そう呼んではっとした。この時点で、俺はまだ彼に出会っていない。大体にして帝の式神なんだ。高貴な身分。それが俺なんかと関わることが出来たのは一重に七宝に選ばれたからである。
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