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初めて、久遠と一緒にお出かけできるので自然と頬が緩む。にっこにこ笑顔でふんふん楽しそうに鼻歌を歌っている久遠があれはー?それはー?と色々聞いてくる。俺は分からないので全て月彦君に任せた。すると、喋らない俺に久遠は首を傾げる。
「しちゃ?」
「あ、俺も初めて、で……」
初めて、がよく分からないようでう?とますます首を傾げられる。どう言えばいいんだと俺が困っていると瑠衣お兄ちゃんが久遠に何かを耳打ちするとぱっと表情を嬉しそうな表情になる。
「くちゃといしょね!」
「あ、そうなんだ」
「くちゃ、しちゃといそ、うれしー!」
「俺も一緒で嬉しいよ」
「なら今日は張り切って案内するぞ!」
「ん!!」
「よろしく、月彦君」
ぐわんっと大きな頭を動かして久遠が頷いた。俺も同じように彼に頼むと月彦君は嬉しそうな顔をする。とはいえそれは皇宮に行ってからだ。
皇宮の門前にはいつものように警備担当の男たちがいる。彼らは十の管轄があるうちの三ノ宮だったと思う。服装も宮によって変わっていて、青色だからたぶんそう。彼らは月彦君が見せた札を見るとその重い門を開いて中に入れてくれる。
そこには久臣さんがいて俺と久遠を見るとぱあっと顔を明るくさせた。
「えー!くーちゃんも来たのー!とと会えてうれしー!!」
「くちゃ、べに」
「お、俺は嬉しいです久臣さん」
「ありがとう!!」
久臣さんの登場に久遠が相変らず塩対応をしている。それにすかさず俺がそう言うとひしっと久臣さんに抱きしめられる。すぐに久遠が久臣さんの腕をべしべし叩いて、ぎゅううっと俺を抱きしめる。自分の父親なのに、相変わらずだなぁ。
「俺はこっちに用があるから、終わったら門で待ってるぞ!」
「うん」
「つーく、ばばい!」
それから月彦君に手を振ってお見送りをした後に、久臣さんについていく。久臣さんは皇宮でも顔が知れている様で行く先々で話しかけられていた。
未来の弟のようだ。未来の弟も色んな所で声をかけられていた。皇宮で一番慕われていた人物だったと思う。
弟が七宝になっていたらきっと、もっといろんな人と一緒に……。
「はーい、ここでーす!」
「え?」
そう言って案内された場所は障子の前で、それが開かれると下に続いている石畳の階段が見えた。久臣さんは、くるっと振り返って久遠を抱えるとそのまま瑠衣お兄ちゃんに渡した。
「くーちゃんは、ここで待っててねー」
「? や!」
「瑠衣、よろしくね!」
「はい」
久遠が瑠衣お兄ちゃんを見る。うるうるとした瞳で訴えるが。彼はすっと目を閉じてしまった。瑠衣お兄ちゃんが自分の言うことを聞いてくれないと察した久遠が大声で叫び、腕の中で暴れだす。
「やあーーーーーーっ!!」
「さ、しーちゃん行こうね!」
そんな息子の姿を見ても慣れているのかそのまま俺と手をつなぎ中に入ろうとする。だから俺はせめて久遠に手を振った。
「あ、くーちゃん、またあとでね」
「……う、しちゃ、ばばい」
「うん」
とても不服そうではあるが彼もしぶしぶ振り返してくれる。
きっと俺が帰るまで大人しくしてくれるだろう。多分。
そしてそのまま久臣さんと一緒にその中に入る。下に向かっていくと肌寒くなってきた。少し身震いをすると、そっと久臣さんが羽織を貸してくれる。
「久臣さんが……っ!」
「大丈夫!こうすれば温かいでしょー?」
そう言って俺を抱えるので、俺は成程っと頷いてぎゅっと久臣さんに抱き着いた。少しでも俺の体温を分けようと思ったのだ。子供だから体温が高いって奴だろう。
「ありがとー」
久臣さんがそう言うとひょいひょいっと階段を何段か飛ばしながら行く。到着!と言って下ろされた。
そこには湖と真ん中に鳥居があって祠がある。こんな場所で結界を張るのか……。物珍しくきょろきょろと周りを見渡す。寒いのは変わらずで、湖に近づいて覗き込む。とても水が澄んでいて、鏡のように水面には俺が映り込んでいた。
「祠のところに行って見る?」
「え、良いんですか?」
「うん」
そう言って久臣さんは俺を抱えて湖の中に入る。彼の腰ほどまで浸かる深さのようだ。祠のある場所までたどり着くとまず俺を先に下ろしてからそこにあがる。濡れた衣服をすぐに乾かして、祠の扉を開けた。
え!
「そ、そこまで良いんですか!?帝様に怒られたり!!」
「大丈夫大丈夫!」
「そ、そうなんですか……?」
「そーそー、あ、これも触っていいよ―」
久臣さんが言うなら大丈夫なんだろうけど……。
久臣さんは祠の中にある盃を取り出して俺に見せてくれた上に触らせてくれた。祠にあった盃は何の変哲もないものに見えるが、きっと特別なものなのだろう。
特に、これといった情報を得ることもなくこういう場所で結界を張っているという事だけが分かった。そりゃそうだ。これに関しては俺はずぶの素人なのだから。
一通り見学もできたので、帰ることにした。
「しちゃ?」
「あ、俺も初めて、で……」
初めて、がよく分からないようでう?とますます首を傾げられる。どう言えばいいんだと俺が困っていると瑠衣お兄ちゃんが久遠に何かを耳打ちするとぱっと表情を嬉しそうな表情になる。
「くちゃといしょね!」
「あ、そうなんだ」
「くちゃ、しちゃといそ、うれしー!」
「俺も一緒で嬉しいよ」
「なら今日は張り切って案内するぞ!」
「ん!!」
「よろしく、月彦君」
ぐわんっと大きな頭を動かして久遠が頷いた。俺も同じように彼に頼むと月彦君は嬉しそうな顔をする。とはいえそれは皇宮に行ってからだ。
皇宮の門前にはいつものように警備担当の男たちがいる。彼らは十の管轄があるうちの三ノ宮だったと思う。服装も宮によって変わっていて、青色だからたぶんそう。彼らは月彦君が見せた札を見るとその重い門を開いて中に入れてくれる。
そこには久臣さんがいて俺と久遠を見るとぱあっと顔を明るくさせた。
「えー!くーちゃんも来たのー!とと会えてうれしー!!」
「くちゃ、べに」
「お、俺は嬉しいです久臣さん」
「ありがとう!!」
久臣さんの登場に久遠が相変らず塩対応をしている。それにすかさず俺がそう言うとひしっと久臣さんに抱きしめられる。すぐに久遠が久臣さんの腕をべしべし叩いて、ぎゅううっと俺を抱きしめる。自分の父親なのに、相変わらずだなぁ。
「俺はこっちに用があるから、終わったら門で待ってるぞ!」
「うん」
「つーく、ばばい!」
それから月彦君に手を振ってお見送りをした後に、久臣さんについていく。久臣さんは皇宮でも顔が知れている様で行く先々で話しかけられていた。
未来の弟のようだ。未来の弟も色んな所で声をかけられていた。皇宮で一番慕われていた人物だったと思う。
弟が七宝になっていたらきっと、もっといろんな人と一緒に……。
「はーい、ここでーす!」
「え?」
そう言って案内された場所は障子の前で、それが開かれると下に続いている石畳の階段が見えた。久臣さんは、くるっと振り返って久遠を抱えるとそのまま瑠衣お兄ちゃんに渡した。
「くーちゃんは、ここで待っててねー」
「? や!」
「瑠衣、よろしくね!」
「はい」
久遠が瑠衣お兄ちゃんを見る。うるうるとした瞳で訴えるが。彼はすっと目を閉じてしまった。瑠衣お兄ちゃんが自分の言うことを聞いてくれないと察した久遠が大声で叫び、腕の中で暴れだす。
「やあーーーーーーっ!!」
「さ、しーちゃん行こうね!」
そんな息子の姿を見ても慣れているのかそのまま俺と手をつなぎ中に入ろうとする。だから俺はせめて久遠に手を振った。
「あ、くーちゃん、またあとでね」
「……う、しちゃ、ばばい」
「うん」
とても不服そうではあるが彼もしぶしぶ振り返してくれる。
きっと俺が帰るまで大人しくしてくれるだろう。多分。
そしてそのまま久臣さんと一緒にその中に入る。下に向かっていくと肌寒くなってきた。少し身震いをすると、そっと久臣さんが羽織を貸してくれる。
「久臣さんが……っ!」
「大丈夫!こうすれば温かいでしょー?」
そう言って俺を抱えるので、俺は成程っと頷いてぎゅっと久臣さんに抱き着いた。少しでも俺の体温を分けようと思ったのだ。子供だから体温が高いって奴だろう。
「ありがとー」
久臣さんがそう言うとひょいひょいっと階段を何段か飛ばしながら行く。到着!と言って下ろされた。
そこには湖と真ん中に鳥居があって祠がある。こんな場所で結界を張るのか……。物珍しくきょろきょろと周りを見渡す。寒いのは変わらずで、湖に近づいて覗き込む。とても水が澄んでいて、鏡のように水面には俺が映り込んでいた。
「祠のところに行って見る?」
「え、良いんですか?」
「うん」
そう言って久臣さんは俺を抱えて湖の中に入る。彼の腰ほどまで浸かる深さのようだ。祠のある場所までたどり着くとまず俺を先に下ろしてからそこにあがる。濡れた衣服をすぐに乾かして、祠の扉を開けた。
え!
「そ、そこまで良いんですか!?帝様に怒られたり!!」
「大丈夫大丈夫!」
「そ、そうなんですか……?」
「そーそー、あ、これも触っていいよ―」
久臣さんが言うなら大丈夫なんだろうけど……。
久臣さんは祠の中にある盃を取り出して俺に見せてくれた上に触らせてくれた。祠にあった盃は何の変哲もないものに見えるが、きっと特別なものなのだろう。
特に、これといった情報を得ることもなくこういう場所で結界を張っているという事だけが分かった。そりゃそうだ。これに関しては俺はずぶの素人なのだから。
一通り見学もできたので、帰ることにした。
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