【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「いいな。動かなくて済む遊びだ。俺も持ってきたから走り回るんじゃねえぞ」

「はい……」



再三言われていることだが、大人しく輝夜先生の言葉に頷いた。輝夜先生が風呂敷を開けるとそこには見たことのある顔の人形が二体あった。しかも、そのサイズに合わせて家や小物が入っている箱まである。それに服も。



「ほら、遊び道具だ。好きに使え」

「あ、ありが……」

「こんな細かいもの、若君が飲み込んだら大変。それに女の子が遊ぶ奴」



お礼を言う前にさっと瑠奈お姉ちゃんがそう言って細かい道具が入った箱を取り上げる。彼女の言う通り、現に今興味深そうにその箱に久遠が手を伸ばしていた。そのまま飲み込んでいたらと想像してぞっとする。危ないところだった。



「あ、それは失念してたが、俺はこれで小夜と遊んだぞ?女の子だけが遊ぶ道具じゃないだろ」

「む、それはそうだけど……」

「本人が気に入るかどうかだろ。ほら若君、これ誰かに似てないですか?」



輝夜先生がそう言って一体の人形を久遠の前に持ってきた。きょとんと俺の膝の上でそれを見た久遠がぱっと顔を輝かせる。



「しちゃだー!!!」

「え?あ、ああ……」



久遠の言葉に、先ほど見たことがある形だと思ったのは顔のことだということが分かった。俺と久遠だ。髪色も顔もそっくりである。



「目はびいどろで作らせた。髪は、ちゃんと世話すると伸びる」

「え?のび、え?」

「将来的には動けるようにしたかったんだが、紫むらさきがそんな変なもの付けられません!!って言って、それしかつけられなかった。もっとつけたかったんだがな」



髪を伸ばす機能も止めて欲しかったけれど、多分それが一番ましだと思ったんだろうな。俺はどなたか知らないがそのむらさきさんに感謝しておく。まさか輝夜先生が変なところでぽんこつだったとは思わなかった。



「しちゃ、かみのびう?」

「そうです。ちゃんとお世話してあげてください。お風呂に入れて、髪を梳いて寝かせてあげてください」



そう言って輝夜先生が久遠人形を横にすると彼は自然に瞼を落とした。



「! 目閉じた!?」

「こうすると開く」

「!?」



体を起こすと彼の言う通り瞼が開かれて綺麗な青色のびいどろが見える。凄い技術を使った人形であることは分かった。風呂に入れてもいいと言っているのでこの人形何かの加工がされているのだろうとは思うけどそんなところにこだわりを見せられて俺は驚きである。



「しちゃねたー?あ、おきたー!すごー!」



久遠は、俺の人形を動かしてきゃっきゃっと遊んでいた。まあ、喜んでくれているようなら何よりだ。



「他に欲しい人がいたら、紫に頼みますが、いかかですか若君?」

「しちゃ、もとほしー!!」

「分かりました。もう一体作らせます」

「ん!」

「え、俺の人形もういるからいいんじゃない?沙織さんとか晴臣さんにしたら?」

「いなない!しちゃだけもとほしー!」

「そ、そう?」



久遠がそう言うならいいけど。久遠は大事に大事に俺の人形を抱えてにこにこ笑顔になる。俺はそれを見ながら久遠の人形を手にした。よく似ている。髪も柔らかい。この人形一体でどれぐらいの技術と時間と材料が使われたのだろうと思うとかなり気が引けるが、久遠が喜んでいるのでありがたく受け取ることにしよう。




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