【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「あ! そうだ!俺が弟君との仲を取り持ってあげようか?」

「え」

「ほら、今回兄さんとこんな風に話せるようになったのもしーちゃんのお陰だし!そう言うってことは弟君と仲良くなりたいんでしょ?」

「あ……」



拓海君がそう提案してくれた。

弟と仲良く。仲良くかあ……。

そう思いながらこの前一番ひどい傷を受けた手を撫でる。それからどうにか笑顔を作った。



「いえ、大丈夫です」

「え、いや、まあしーちゃんがそう言うなら良いんだけど……」

「ありがとうございます、拓海君」

「ううん!」

「くちゃ、あそぶー!!」



拓海君と話をしていると久遠がそう言って割り込んできた。それからさっと瑠奈お姉ちゃんが持ってきた貝殻をべべっと縁側に広げる。確か、貝合わせとか言うやつだ。それに気づいた拓海君が次にそうだったと今日持ってきた大きな風呂敷を置く。



「じゃじゃーん!!」



そう言った拓海君が風呂敷から取り出したのは一つの大きな重箱のような箱である。それの蓋を外すと中から色んな種類の筆と多くの小皿、そして色のついた岩に小鍋が出てきた。



「筆と、これは……?」

「ちょっと見ててねー」



俺がそう聞くと拓海君は慣れた手つきで赤色の岩を小皿の上で少し削り、それから小鍋に入っていた少し茶色の液体を匙ですくってその皿に入れた。それらを混ぜ合わせて、筆に取り久遠が広げた貝殻の内側にそれを付けると鮮やかな赤色がついた。



「あかちゃー!!!」

「ほんとだ、赤色になった」

「この前買って貰ったんだ~。絵描いて俺達だけの遊具作ろうと思って」

「おー!たっく、しゅごー!!」



さらりと拓海君がそんな事を言うがこの道具たちを集めるのにいくらのお金がかかったのだろうか。流石、お金持ちである。



「すげえ、流石金持ち……。俺もやりたい……」



柊君もそう思ったようだ。確かに、これはやりたくなる。早々触れる機会もないだろうしね。どうにか、柊君も出来るように晴臣さんに話してみようかな、と思っていたら丁度晴臣さんがやって来た。月彦君も一緒で俺たちを見つけると嬉しそうにこちらに駆けてくる。俺はそれを見ながら声をかけた。



「晴臣さん!」



丁度いい、と彼にお願いする前に晴臣さんはふふっと少し笑った。



「今日の鍛錬は終わりですので自由にしてください」

「良いんですか!やったー!!」

「それじゃあ、汗を流してから来なよ。そのままじゃいやでしょ?」

「そうだな。それまで待ってくれるか?」

「いーよー!」



久遠が元気よくそう答えた。月彦君は何が何だか分からないようだったが、道すがら柊君が説明してくれるだろう。三人は仲良く浴場の方に向かっていった。



「絵の具ですか。確か、私もいくつかありますので持ってきますね」

「はるちゃ!くろ!くろほしー!!」

「若君、黒色は墨しかないですけど、それでいいですか?」

「ちなう!くろ!くぅろぉ!しちゃのいろ!!」



久遠がそう言って俺を指さした。もしかして、俺の髪色のことだろうか。俺の色と言ってくれるのがうれしいが、これ以上晴臣さんを困らせるわけにもいかないので、久遠にこう提案する。



「俺は金色がいいな」

「き?」

「うん、くーちゃんの色」



そう言って久遠の髪を撫でると彼はきょとんとした後にぱあっと顔を明るくさせる。それから嬉しそうに破顔した。



「はるちゃ!き!!」

「金ならありますよ~。金箔があったはずなので、すぐに取ってきますねー」

「ん!」

「……え?ちょ、えっ!!」



元気よく返事をして、黒から違う色に興味を移したことに安心していた為一瞬反応が遅れた。聞き間違いであって欲しいが、今金箔って言わなかった?



「金箔……俺もねだってくればよかった。失念してた~」

「そんな高価なもの安易にねだったらだめだよ!?」



聞き間違いではないことを確認させられた。金持ちの考えはよく分からない!!

一先ず、絵を描く準備を手伝うために中に入ろうとしたが、久遠がここがいいっというので縁側で広げることに。風で粉が飛ばないかとか色々注意しているとじゃりっと石を踏む音がした。



「良い子にしてたか」

「輝夜先生!」

「かぐしぇんしぇー!」



いつもの箱を背負った輝夜先生がいた。手には風呂敷を持っておりそれを横に置くと広げているものを見てうんっと頷いた。



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