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「それでー、そのうち二つは一夜にして滅んだ」

「え!結界は?」

「壊れたらしい。当時の資料はあまり残ってなくてね。都自体、隣とは離れてるでしょ?詳しい事は分からなくて、ただ妖魔が都に入っていた証拠はあったんだ。都におびただしい死体と残骸が残ってたからね」

「!」



似たような話を体験したかもしれない。資料がない、とはいえ結界が壊れたのは起こったことだ。



まさか、あのまま、この都は滅んでいた、のか……?まさかそんな……。



非現実的だと思うが、結界が壊れたという話でぞっとしてしまう。だめだ、今は久臣さんの話に集中しなければ!

久臣さんがすーっと干支が描かれた絵を指でなぞりとある場所で止まるのを見ると彼は再び話をする。



「皇宮には結界を張るための場所があるんだけどそこには虎がいたんだって」

「虎?あ……」



丁度久臣さんが指さしているのは干支の寅である。まさか、それだけで?



俺の視線に気づいたのか久臣さんも苦笑をした。



「昔の人は何考えてるか分かんないよね~。でぇ、その資料は守り切れなかった神の御使い様が天に昇ったって締めくくられてて、これのせいか~~~って当時はがっかりしたよ」

「そう、ですね……」

「ねー?」



久臣さんはそう言うと俺も同意するように頷いた。結界が壊れた原因が何なのかなんて資料が少ないと言っている時点で掴めていないだろう。でも、昔もあったことなのだと思うともしかして……。



「しーちゃん、大丈夫!もし結界が壊れても強―い法術師が沢山いるから!俺とか、晴臣とかね!」

「私もいます」

「俺もいます」

「あ……」



表情に不安が現れていたのだろう。久臣さんがそう言うと瑠衣お兄ちゃんと瑠奈お姉ちゃんもそう言った。俺はぶんぶん首を振りそれから努めて笑顔になる。



「そうですね」

「うんうん!未来の七宝たちもきっととっても頼りになる子だよ~。だから安心してね、しーちゃん。不安だったら相談に乗るし、大いに頼って!」

「はい、ありがとうございます」



そうだ、不安がってないで今できることをしなければ。そう自分を鼓舞していると久遠が声をあげた。



「あ!しぃちゃのへびもいう!くちゃわかたた!!」

「え?」



久遠がそう言ってぐちゃあっと貴重な資料であろうそれに小さな指で一点指した。確かにそこには白い蛇が描かれている。

そこで、白蛇様との出会いを思い出した。確かに、白蛇様は普通ではない。でも、まさか……。



「えー!くーちゃん天才!白いし赤い目だし同じだねー!」

「くーちゃんすごいね。白蛇様とおんなじだ」

「んふふふっ」



あまりここで考えすぎると目立つので、久遠を偉い偉いと褒めることに集中する。すると得意げに彼は笑みを浮かべた。



もし仮に国を守る御使い様であったら多分何かしら影響が出ていると思うので違うと思うことにする。ただ少し特別な俺に大太刀をくれた神様だ。



そこで、今まで考えないようにしていたのにうっかりその存在を思い出してしまった。売られてしまった俺の大太刀に追い出されてしまった。

今度も何か金目のものを持ってくれば許して……。いや、今回は理央を害したからそう簡単にいかないか。どうすれば……。



「あ!そういえば、市場でしーちゃんの刀見つけたよ?買ったけど」

「え」

「お金ないならおじさんに言いな~。いくらほしいの?」

「え、え?」



さらりと久臣さんがそう言ってすっと袂から取り出した。いやいや、あんな長いものその中に入って、え?え?ん?あれ!?



彼が取り出したのは確かに俺が持っていた大太刀だった。俺はそれと久臣さんを見比べて呆然としている間に握らされる。それからすっと別の巾着袋も渡されそうになって「わーっ!」と叫んでしまった。



「あ、いや、お、おかね……」

「いらないよ~」

「で、でもそういうのは良くないって!」

「良くないのはねー、子供にそういうことさせる大人だよー」

「い、いえ!父はそういうんじゃないんです!ただ俺が必要ないだけなんで……っ!」



はっと慌てて口を噤んだ。しまった、今いらないことも話した。そう思ってどうしようと次の言葉を考えているとシャーっと耳元で威嚇音が聞こえた。



「い、虐めてないです!怒らないでよ!」



はっと横を見れば白蛇様がああん?っと首を傾げながらくわっと牙を見せつつ久臣さんをけん制していた。久臣さんは必死に弁解していて俺も慌てて白蛇様に大丈夫だと伝える。



「ただ、俺が悪いので……」



そう言うと、すっと久臣さんが俺の手を握ってきた。



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