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「晴臣の門下生君たちは優秀だね~」

「変な登場の仕方するからですよ」

「痛い!輝夜ちゃん、もう少し優しく……」

「ちゃん言わないでください!」



呆れたようにそう言う晴臣さん。それから騒ぎをききつけ慌てて戻ってきた輝夜先生は塗り薬をしたあと布をべちーんと思い切り当てて久臣さんが悲鳴を上げた。俺はその姿が見ていられずに思わず声をかける。



「あ、あの、俺やりましょうか?」

「え!おね……っ!」

「素人が手を出すな!」

「痛い!ねえ痛いから輝夜ちゃん!!」

「とと、うーさい」

「えん!」



久臣さんがそう言って悲しそうな表情をする。俺はあわあわとその様子を見ながら膝に頭をのせている久遠を撫でた。それから彼らの方を見る。



「あの、ありがとう」



既に久臣さんには謝った三人に俺はお礼を言った。まさか、久遠の声ですぐに階下から来るとは思わなかった。だから少し意外だというか驚いたというか……。

俺がお礼を言うと三人は当然とでもいうようにあっさりとこう答える。



「気にしないで」

「不審者だと言われたら来るのは当たり前だ」

「そうだ!」

「くちゃも!くちゃもしちゃたすけうお!」

「ありがとうくーちゃん」



がばっと顔をあげた久遠にそう言うとにこーっと笑顔になる。先ほど実の父親を不審者呼びしたのはもう忘れているのだろうか……。謝っていないけれど。



「くーちゃん、久臣さんにごめんなさいはしないの?」

「? なーで?」

「い、いや、くーちゃんが不審者だって言って……」

「ふしーしゃだった!!」

「不審者だったかなぁ……?」



突然現れたとはいえ、すぐに久臣さんだって俺は分かったけど、服装とか?確かにいつもの格好ではないが、顔を隠しているわけでもないし……。



「だ、大丈夫。俺は気にしてないから……。ととがこの格好してたのが悪いんだもんね」

「うん!!」

「く、くーちゃん……」



久臣さんの言葉に元気よく久遠が頷いた。それでいいのか久臣さん……。



「あ、そうそう!それでさっきの話に戻るけど!」

「さっき?」

「そそ、干支と都のお話」



ああ、そう言えばその時に久臣さんが現れたと干支が描かれている巻物に目を向ける。久臣さんはそれを指さしてこういった。



「あくまでも噂話程度なんだけど、干支が御使いなのはまあいいとしても都を守るっていうのはちょっと飛躍しすぎでは?って疑問じゃない?で、調べるとかつて都は七つあったわけ」

「え、そうなんですか!?」

「そうそう」



知らなかった!



そんなの何処かの資料に載っていただろうかと前の記憶も引っ張るが全く覚えがない。それはつまり、俺の権限では読めなかった資料であるということではなかろうか。久臣さんは、もしかしてかなり高位な立場にいる人?実力もあるし、忙しくて……。



そこではっとした。

それに当てはまるような役職のものはそう多くないのですぐにわかった。



黒狗だ!久臣さん、黒狗の人なんだ!!



そうか、黒狗になれば俺もそういう資料が読めるようになるかも。どういう基準で入れるか分からないが、当面黒狗になるために鍛えた方がいいかもしれない。法術使えなくても帝を守れますよという有用性を見せつけるためにも!




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