【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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弟子

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穏やかな日が続いた。

白蛇様を鷲掴みにして持って来た時は驚いた。



「しちゃの!そといたよ!」

「く、くーちゃん!手を緩めて!!」



加減を知らない幼子は顔を青くしてぐったりしている白蛇様を見てん?と不思議そうに首を傾げるだけで俺は慌てて彼を救出した。どこにいたのか分からなかったがとりあえず無事(?)だったようで何よりだ。珍しいからと捕まえられて売り飛ばされていたらと心配であった。



俺は療養のため部屋と風呂場と厠の三箇所の行き来しか許されず、しかも一人では出歩けない立場になった。まあそれ自体は別にいいのだ。



ただ、厠が困った。というのも厠の中まで久遠がついてくるのである。外で待っててもらってもいいですか?と思わず敬語になってしまう。きょとんとして、それからはっとしてぎゅうっと俺に抱き着いた。



「しちゃいにえう!!」

「逃げないよ」

「くちゃ、はなない!!」

「あの、限界で……離れて貰っていいですか……?」

「やっ!!!」



瑠衣お兄ちゃんに回収されるまではずーっと引っ付かれてとても困った。なので、余裕をもって厠に行くようにしたし、どうにか外で待って貰うまで時間がかかった。



「しちゃいるー?」

「いるよー」

「しちゃいる―?」

「いるよー」



ただ、ずっとそこにいるのか確認される。まあ、逃げたと言っても過言ではないから仕方ない……のか?

お待たせっと言って外に出るとにこーっ!と笑顔で抱きつかれた。手を洗ってないから抱きしめ返せないけど。そしてその姿を見ている二人は鼻を抑えながらグッと親指を突き立てている。何かの合図だろうか?

手を洗うために井戸の方に向かうと先客がいた。



「あ」

「あーーーっ!!」



そこにいたのは彼だった。

井戸から水を汲んで手拭いを濡らしている。久遠が声をあげてばっと俺の前に立った。



「あちいけー!」

「くーちゃん!」



彼をそんな風に刺激して大丈夫だろうか!?

そう思っていたら彼はすっと井戸からこちらに近づいてくる。前まではそこまで身長差がなかったが、今は割と彼の方が背が高い。ごくり、とつばを飲み込みつつも久遠をぎゅっと後ろから抱きしめて彼を守ろうと毅然とした態度を見せる。ちょっと手が震えているが。



そう思っていたら彼が視界から消えた。いや違う、彼が地面に膝をついたのだ。



「この間は済まなかった。怪我は大丈夫だろうか」

「あ……」



謝った……?



予想外のことに思わず彼を見つめる。彼は頭を下げていた。彼の後頭部を見る機会など前まではあり得ない出来事だ。



……本当に、違うんだな。



勝手に怯えていた自分が恥ずかしい。今の彼は俺のことを知らないのだ。きっと俺が毘沙門の法術を使えないものだと知られなければそういう態度なのだろう。

その事にほっとしながら、俺はいいえっと首を振った。



「大丈夫です。俺こそ過剰に反応してしまい申し訳……」

「やめてくれ。君に謝られたら立つ瀬がない」

「わ、分かりました」

「ありがとう」



そう言って彼はふわりと笑った。



成程、彼がもてるのも納得だ。こういうところが彼の好かれるところなのだろう。そう思ってじっと彼を見ているとどんっと久遠が俺にぶつかりながら抱き着いてきた。思わずそちらを見るとぷくーっと頬をパンパンに膨らませてぎゅうぎゅうと抱き着いている。



「くーちゃん?どうしたの?」

「しちゃくちゃの!!」

「? うん」

「くーちゃの!!」

「うんそうだね」



久遠がそういうのでそれに頷いた。彼の何に触れたのかは全く分からない。



「あーーっ!!」



すると、また違う声が聞こえた。ぱっと其方を見るとあの時いたもう一人の子だ。俺と目が合うとペコーっと勢いよく頭を下げる。



「あの時はごめんね!怪我大丈夫?師範がべた褒めするからさー、ちょっとどんな子なのかなー?って思っただけで……っ!」

「嘘つけ。どうせ親戚の子だから贔屓してるだけでしょ。大したことな……」



ばちーんっと彼がそう言っている彼の口を抑える。



「あー!!ごめんなさい!認めます!認めるからやめてよ!てかお前だって天才天才ってちやほやされて、弟みたいでムカつくって言ってたじゃん!?」

「おい!」



合点がいった。

俺が過剰に反応してしまったのもあるが何となく彼らの態度が冷たく感じた気がしたのだ。

成程なーとわいわい話している二人を見ているとまた一人見たことのない新しい子がやって来た。



「そいつが師範の言っていた新しい弟子ですか!?俺は月彦だ!!」



額を出した髪型の男の子だ。俺より少し背が高い位で俺を見るとキラキラと瞳を輝かせて自己紹介してくれる。彼の乱入と突然の自己紹介にやいのやいの言っていた二人がはっとして俺の方を向く。



「俺は柊!立場的には兄弟子だから何でも頼って?」

「俺は尊だ。よろしく」



そう言って自己紹介をされた。

しまった。この流れは、どうすれば……。

じっと三人の視線が俺に刺さりなんといえばいいのだろうかと口を開く前に大きな影が出来た。



「おや、休憩時間にしたつもりはなかったのですが?」

「師範!!」

「あ、晴臣さん」



現れたのは晴臣さんだ。普段は下ろしている黄金色の髪は後頭部で一つにまとめられており、その手には木刀を持っている。稽古中だったのだろうか。申し訳ない。

しかしこれはいい機会だ。このままうやむやになれば……。



「新しい弟弟子と交流を深めていただけです」

「そーですよー。大体もうずっと鍛錬してて疲れたんですけどー」

「それに名前を聞きたくて!」



うやむやにならなかった。

どうすればいいのだろうかとだらだらと一人で焦って汗を流していると晴臣さんがにっこりと笑顔を見せた。



「しーちゃんです」

「しーちゃん?」



そう言った晴臣さんの言葉を月彦さんが復唱した。それから首を傾げる。



「それってあだ名ですよね?俺は本名が……もがっ!?」



ごもっともな質問をされたが瞬時に尊さんと柊さんによって口を塞がれた。

それから口々にこういう。



「しーちゃんね!これからよろしく」

「しーちゃんだな。呼びやすくていいな」



そう言って、俺のことを深く聞いてこなかった。何か理由があるというのは初っ端から感じ取っているのだろう。まああんなことがあれば普通はそうだろう。

その心遣いに感謝しながらぺこりと頭を下げる。



「こちらこそよろしくお願いします。月彦さん、柊さん、尊さん」

「いや、さん付けはむず痒いからやめよ?」



柊さんにそう言われて最終的に君付けに行きついた。呼び捨てでいいと言われたが何となく前の記憶があるので遠慮しておいた。かといって尊君だけをこの場で仲間はずれには出来ないので全員同じにした。九郎と会った時は、一番年上だからで誤魔化そう。



それにしても晴臣さんはどんなふうに俺を褒めていたのか。ここまで二人の競争心?嫉妬心?煽るのだからかなり大げさに言ったのだろう。恥ずかしい……。そんなにすごいことしてないのに……。



因みに、終始ふくれっ面だった久遠を宥めるために俺はその日一日中べったりくっついて彼の望むことを何でもした。すぐには機嫌はよくならなかったけれど、久遠が一番大事だよと伝えるとにこーっと笑顔になってくれた。
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