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次に目が覚めた時は灰色の髪をおさげにした女性がいた。俺と目が合うと無表情のまますっと立ち上がる。

そしてどこかに行ってしまった。



最初に目覚めた時の部屋に戻されたようだ。うっと呻きながら起き上がるとすっと障子が開いた。



「しちゃ!」

「くーちゃん……?」



灰色の髪の男の人に抱えられた久遠がそこにいて降ろされた彼がよちよちと俺に近づいてきている。



……夢か?

そう思って頬をつねった。痛い。

どうやら現実のようだ。今しがた俺が自分の頬をつねって赤くなったのを見てみるみるうちに驚愕の色に染まる久遠の顔をぼんやりと見る。



「しちゃ!どーたの!なーでいたいするの!!」



そう言った久遠がよしよしっと俺の抓った頬を撫でた。それからこういう。



「いたーいたーるぃちゃにとんでけ!!」

「うっ!!」

「!?」



久遠を抱えていた男性が胸を抑えて倒れた。体を起こして容体を見ようとするが、その前にその隣にいる女性がすっと膝を床について彼を見ている。そしてすっと頭を下げた。



「若君、私にもお願いします」

「しちゃのいたいのぜーぶるぁちゃにとんでけー!!」

「うっ!!」

「!!??」



同じように胸を抑えて彼女も倒れた。その状況を見て俺は恐れおののいた。

何てことだ。何てことだ!!



「くーちゃん!法術使っちゃダメ!」

「う?」

「俺の痛みを他人に移すなんて!大丈夫ですか!?」

「しちゃ、ねう!!」

「俺は大丈夫!もう痛くないから!」



本当は痛いけど、彼らが肩代わりしてくれているのにそんな事言えない。そう思っていると、「何の騒ぎですか?」っと声が聞こえた。

ぱっと其方を見ると晴臣さんがいた。晴臣さんは俺を見てふわりと笑った後にすっと倒れている二人を見る。そしてげしっと足で蹴った。



「お前達、その血文字まさか鼻血じゃないでしょうね?」

「は、晴臣さん!その方たちはくーちゃんの法術によって俺の痛みを肩代わりしてもらっていて……っ!」

「え?若君、そんな高度な法術いつの間に……」

「「いえ違います」」



二人がそう言ってすぐに体をあげた。鼻血が出ている。あまりの痛みに!



「だ、大丈夫ですか!?」

「かわいい……」

「てんし……」

「まず鼻抑えなさい」



無表情で声も平たんで抑揚がない。感情がつかみにくい人達だ。何となく顔も似ている。兄弟なのだろうか。多分。

彼らはすっと手拭いで鼻を抑えると話をしだした。



「若君から痛い痛いの飛んでけーとされてあまりの可愛さに思わず……」

「天使の若君から痛い痛いの飛んでけーをされた弟が羨ましく私もして欲しいと思わず……」

「お前たちの奇行にしーちゃんがついていけないのですからやめなさい」

「しーちゃん……」

「名前も可愛い……」

「「可愛いに可愛いが重なって可愛いが蓄積されて可愛いが爆発寸前な可愛い空間が最高にかわ」」

「出なさい」



ぺっと首根っこを掴んで晴臣さんが廊下に二人を追い出した。障子の影でまだそこにいるのが分かる。



「なんでよりによってあの二人を連れて来たんですか、若君」

「くちゃのおねがいをね、ぜぶいよ!っていってくえうの!」

「そうでしたか……」



晴臣さんはそう言った。それから俺の方を見る。



「しーちゃん、ごめんなさい。起きた時に誰もいなかったから不安になったんですね」

「え……」

「ここに怖いものはいませんから大丈夫ですよ。ゆっくり休んでくださいね?私や若君、使用人もいますので何かあれば呼んでください」



晴臣さんがそう言った。俺は慌てて首を振る。

また誰かのお世話になるわけにはいかない。今からこんな状態じゃ一人になった後に俺がきっと苦労する。



「い、いえ、お世話になるわけには……っ!」

「間違っても逃げようだなんて思わないでくださいね?瑠衣と瑠奈が全力で捕獲しに行きますから」

「勿論です」

「お任せを」



障子越しに二人の声が聞こえた。話声はまるきり聞こえるようだ。どちらがどちらなのか分からないが……。



「足が速い事で有名なんですあの子たち。男の方が瑠衣、女が瑠奈です」

「ぜひとも瑠衣お兄ちゃんと呼んでください、しーちゃん様」

「ぜひとも瑠奈お姉ちゃんと呼んでください、しーちゃん様」

「あ、よ、よろしくお願いします。瑠衣お兄ちゃん、瑠奈お姉ちゃん」

「う……っ!!」

「お前たち」



晴臣さんから不穏な雰囲気を感じたと思えばすぐに二人の気配が消えた。まるで消えたようだ。足が速いというのは本当のようだ。あの二人に追いかけられたらとてもじゃないが敵う自信がない……。

だから俺は聞いた。



「どうして俺にここまで良くしてくれるんですか?」

「どうして?だってしーちゃんは私の可愛いお友達ですから」

「お、ともだち……」



友達、友達……。



晴臣さんと俺とはかなり年が離れているがそれでも友人と言ってくれるのか。

友達ならそうか。俺が久遠に何でもしてあげたいと思う事と同じだという事なんだと思う。

そう思ってくれていることにほわっと胸が温かくなった。その部分をぎゅうっと手で抑えるとぎょっと晴臣さんが驚きの表情を見せる。



「どうしました!?胸が苦しいですか!?もう一度医者を……っ!」

「いえ、友達が増えるとは思わなくて……」



俺がそう言うと晴臣さんがぱちっと瞬きをして、それから俺の手を優しく握ってくれる。



「これからもっと増えますよ」

「それは……ないかと……」

「そんなことありませんよ。私の弟子に丁度しーちゃんと同じくらいの子もいますし、機会は沢山訪れます」

「で……し……」



それを聞いて先ほどの二人を思い出しぎゅうっと目をつぶる。

まだ、今の彼にはまだ何もされていないのに怖がってどうするんだ。

ふーっと息を吐くと晴臣さんが今度は頭を撫でてくれる。



「ごめんなさい。先ほどあほ二人に責められるように言われて怖かったですね」

「いえ、俺が過剰に反応しすぎました」



……ん?今あほっていった?



いつものにこにこ笑顔の晴臣さんなのできっと聞き間違いだろうと思い気にかけないことにした。



「いいえ、6つも離れた小さい子にかける言葉ではありませんから。あの子たちもまあ、九郎と同じで自尊心が高いあほなので適当にあしらってください」

「あ、ほ……?」

「はいあほです」



聞き間違いではないらしい。

九郎にも言っていたが晴臣さんって結構口が悪いのかな?でも普段はそうでもないし……。

そう思いながら改めて、晴臣さんという大人が彼をあほというのが何だかおかしくなってきた。思わずふふっと小さく笑ってしまう。



そうだ、まだ彼は子供だ。俺と変わりなくて、今は晴臣さんというお友達が俺にはいる。こんなに心強いお友達が出来るなんて想像も出来なかった。



「しちゃいじめうやつ、みなこーす!!」

「若君?誰からその言葉聞きました?」

「とと!!まえ、いてた!!」

「やっぱり若君を私の子にするしか……」

「う?」

「くーちゃん、俺なら大丈夫だから気持ちだけ受け取っておくね」

「ん!!」



にこーっと笑顔になる久遠の頭を撫でる。



今俺には心強い友達が二人もいるんだ。あの時とは違う。



よしっと気合を入れたらまた血を吐いた。晴臣さんと久遠が大慌てで医者を呼んだ。

新しい傷が出来ているといったので正直に二階から飛び降りて失敗したと答えたら布団に縛り付けておいてくださいと言われた。晴臣さんはすぐに実行した。



仕方ない事だけど、久遠が一緒に布団に入れなくて不満そうです。
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