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恐怖

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目が覚めた。



ぼんやりとした視界で体が異常に熱くてだるい。

あの傷が熱を持って風邪を引いたのだろう。前はよくあったことだ。放っておけば治る。こういう時は自分の体が頑丈でよかったと心底思う。



「あ……?」



体を起こすとべちゃっと額から何かが落ちた。今気づいたが、布団の中に俺はいるのか?

重い体を引きずりながら立ち上がる。くらっと立ち眩みがして呼吸が荒いが深呼吸をしてどうにか落ち着かせて足を踏み出す。



「はっ、う……っ」



ここはどこだ。なんで俺はここにいる。ふらつく足で踏ん張りながら部屋を出る。近くに人の気配はない。

前も、誰かが声をかける事はあったが連れていかれるまで気づかないとは不覚を取った。いつもは勘が働いて気絶しようが不穏な気配を察したらすぐに起きて対応できたのに。

まだ6歳だからそういう勘も鈍っているのかもしれない。それでこんな状態になってるんだから世話がない。

そんなことを思っていると木刀を打ち合うような音がした。ここは二階建てのようで下の方から聞こえる。その他にも子供のような声が聞こえた。



「―――くおん?」



久遠の声が聞こえた気がする。

幻聴か幻聴だな。こんな場所で久遠にまた会えるわけがない。

ふるふると首を振る。今は自分の事を考えなければ。

階段を見つけるか、窓から下りるか。

その二択で俺は勿論後者を選ぶ。

窓の枠に足をかけて勢いよく飛んだ。



あ。



ぐわんっと目の前が歪んでうまく受け身が取れないまま地面に転がった。もっとちゃんと受け身を取るつもりだったがごろごろ転がってしまった。

はっはっと短く呼吸をしながら起き上がる。一先ずこの場所から逃げなければいけない。そう思い睨むように塀を見てそこに足を向けると「待て」と声がした。



「お前、師範が連れてきた奴だろ。勝手に外に出るな」

「え、二階から下りてきたの?流石師範がべた褒めする訳だ」

「……っ!」



振り返って息を飲む。



見たことがある子供だった。子どもであろうと、その面影があった。

燃えるような赤い髪に橙色の瞳。木刀を手にしておりじろっと俺を睨むようにしてこちらを見据えている。

ひゅっと喉が鳴る。体が震えてきた。



落ち着け。落ち着け……。



ふーと息を吐いて浅くなる呼吸を静める。

もう一人は見たことがない。茶髪の男で緑の瞳の子供だ。二人とも木刀を持っており、打ち合いでもしていたのか白い上着と紺色の袴を着用している。



師範と言っているから弟子とか?ここはどこかの道場のようだ。

この男にも誰かに教わるという時期があったのか、いや当たり前なのだけれど。



「いえ、迷惑をかけるわけには……」

「いや、子供がどこに行こうっていうの?家にでも帰るなら別に構わないけどさー」

「……これだから天才って奴は……」



彼が、いや彼らが近づいてくる。

ひっと声が漏れそうになって唇を噛んだ。



大丈夫大丈夫大丈夫だい……。



「ぁ……」

「え?」

「う、うそ!」



吐血した。勢いよく咳き込んでしまって彼らの白い服に血が飛び散る。さーっと血液が下がっていく感覚がして地面に額をこすりつけるようにして頭を下げた。



「申し訳ございません!!御召し物を汚してしまい申し訳ありません!!申し訳ありません!!」



げほごほっと咳き込んで地面が赤色になる。話をするたびに体中がきしんで痛い。

でも謝らなければいけない。

怖くて体が震える。前までは平気だったのに。どうしてか恐怖が体を支配して思うように動かない。



「申し訳ありません、申し訳ございません!!」

「こんなの大したことないから!また血吐いちゃってるよ!?」

「謝らなくていい!もっと容体が悪くなるだろ!」

「しちゃいじめうなーーーーーっ!!」



久遠の声が聞こえた。

酸欠で頭がぼんやりとして来た。胸が痛くなってきて地面に倒れこむように心臓を抑える。

それでも謝罪の言葉を止めるわけにはいかなかった。



「ぁ、う、も、うしわ、け……」

「はーれて!しちゃいじめう!うぃちゃ、うぁちゃ!!」

「「承知致しました」」



男女の声が聞こえた。それと同時に俺の身体が浮く。俺の体を抱いたのは灰色で切り口を揃えられた髪の男性だ。彼に大丈夫だと伝えるために軽く肩を叩こうとしてそっと誰かの手が目元に置かれた。



「おやすみなさいませ」



女性の声だ。

急速に眠気が襲ってきて俺は簡単に夢の世界に落ちた。



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