50 / 208
恐怖
しおりを挟む
目が覚めた。
ぼんやりとした視界で体が異常に熱くてだるい。
あの傷が熱を持って風邪を引いたのだろう。前はよくあったことだ。放っておけば治る。こういう時は自分の体が頑丈でよかったと心底思う。
「あ……?」
体を起こすとべちゃっと額から何かが落ちた。今気づいたが、布団の中に俺はいるのか?
重い体を引きずりながら立ち上がる。くらっと立ち眩みがして呼吸が荒いが深呼吸をしてどうにか落ち着かせて足を踏み出す。
「はっ、う……っ」
ここはどこだ。なんで俺はここにいる。ふらつく足で踏ん張りながら部屋を出る。近くに人の気配はない。
前も、誰かが声をかける事はあったが連れていかれるまで気づかないとは不覚を取った。いつもは勘が働いて気絶しようが不穏な気配を察したらすぐに起きて対応できたのに。
まだ6歳だからそういう勘も鈍っているのかもしれない。それでこんな状態になってるんだから世話がない。
そんなことを思っていると木刀を打ち合うような音がした。ここは二階建てのようで下の方から聞こえる。その他にも子供のような声が聞こえた。
「―――くおん?」
久遠の声が聞こえた気がする。
幻聴か幻聴だな。こんな場所で久遠にまた会えるわけがない。
ふるふると首を振る。今は自分の事を考えなければ。
階段を見つけるか、窓から下りるか。
その二択で俺は勿論後者を選ぶ。
窓の枠に足をかけて勢いよく飛んだ。
あ。
ぐわんっと目の前が歪んでうまく受け身が取れないまま地面に転がった。もっとちゃんと受け身を取るつもりだったがごろごろ転がってしまった。
はっはっと短く呼吸をしながら起き上がる。一先ずこの場所から逃げなければいけない。そう思い睨むように塀を見てそこに足を向けると「待て」と声がした。
「お前、師範が連れてきた奴だろ。勝手に外に出るな」
「え、二階から下りてきたの?流石師範がべた褒めする訳だ」
「……っ!」
振り返って息を飲む。
見たことがある子供だった。子どもであろうと、その面影があった。
燃えるような赤い髪に橙色の瞳。木刀を手にしておりじろっと俺を睨むようにしてこちらを見据えている。
ひゅっと喉が鳴る。体が震えてきた。
落ち着け。落ち着け……。
ふーと息を吐いて浅くなる呼吸を静める。
もう一人は見たことがない。茶髪の男で緑の瞳の子供だ。二人とも木刀を持っており、打ち合いでもしていたのか白い上着と紺色の袴を着用している。
師範と言っているから弟子とか?ここはどこかの道場のようだ。
この男にも誰かに教わるという時期があったのか、いや当たり前なのだけれど。
「いえ、迷惑をかけるわけには……」
「いや、子供がどこに行こうっていうの?家にでも帰るなら別に構わないけどさー」
「……これだから天才って奴は……」
彼が、いや彼らが近づいてくる。
ひっと声が漏れそうになって唇を噛んだ。
大丈夫大丈夫大丈夫だい……。
「ぁ……」
「え?」
「う、うそ!」
吐血した。勢いよく咳き込んでしまって彼らの白い服に血が飛び散る。さーっと血液が下がっていく感覚がして地面に額をこすりつけるようにして頭を下げた。
「申し訳ございません!!御召し物を汚してしまい申し訳ありません!!申し訳ありません!!」
げほごほっと咳き込んで地面が赤色になる。話をするたびに体中がきしんで痛い。
でも謝らなければいけない。
怖くて体が震える。前までは平気だったのに。どうしてか恐怖が体を支配して思うように動かない。
「申し訳ありません、申し訳ございません!!」
「こんなの大したことないから!また血吐いちゃってるよ!?」
「謝らなくていい!もっと容体が悪くなるだろ!」
「しちゃいじめうなーーーーーっ!!」
久遠の声が聞こえた。
酸欠で頭がぼんやりとして来た。胸が痛くなってきて地面に倒れこむように心臓を抑える。
それでも謝罪の言葉を止めるわけにはいかなかった。
「ぁ、う、も、うしわ、け……」
「はーれて!しちゃいじめう!うぃちゃ、うぁちゃ!!」
「「承知致しました」」
男女の声が聞こえた。それと同時に俺の身体が浮く。俺の体を抱いたのは灰色で切り口を揃えられた髪の男性だ。彼に大丈夫だと伝えるために軽く肩を叩こうとしてそっと誰かの手が目元に置かれた。
「おやすみなさいませ」
女性の声だ。
急速に眠気が襲ってきて俺は簡単に夢の世界に落ちた。
ぼんやりとした視界で体が異常に熱くてだるい。
あの傷が熱を持って風邪を引いたのだろう。前はよくあったことだ。放っておけば治る。こういう時は自分の体が頑丈でよかったと心底思う。
「あ……?」
体を起こすとべちゃっと額から何かが落ちた。今気づいたが、布団の中に俺はいるのか?
重い体を引きずりながら立ち上がる。くらっと立ち眩みがして呼吸が荒いが深呼吸をしてどうにか落ち着かせて足を踏み出す。
「はっ、う……っ」
ここはどこだ。なんで俺はここにいる。ふらつく足で踏ん張りながら部屋を出る。近くに人の気配はない。
前も、誰かが声をかける事はあったが連れていかれるまで気づかないとは不覚を取った。いつもは勘が働いて気絶しようが不穏な気配を察したらすぐに起きて対応できたのに。
まだ6歳だからそういう勘も鈍っているのかもしれない。それでこんな状態になってるんだから世話がない。
そんなことを思っていると木刀を打ち合うような音がした。ここは二階建てのようで下の方から聞こえる。その他にも子供のような声が聞こえた。
「―――くおん?」
久遠の声が聞こえた気がする。
幻聴か幻聴だな。こんな場所で久遠にまた会えるわけがない。
ふるふると首を振る。今は自分の事を考えなければ。
階段を見つけるか、窓から下りるか。
その二択で俺は勿論後者を選ぶ。
窓の枠に足をかけて勢いよく飛んだ。
あ。
ぐわんっと目の前が歪んでうまく受け身が取れないまま地面に転がった。もっとちゃんと受け身を取るつもりだったがごろごろ転がってしまった。
はっはっと短く呼吸をしながら起き上がる。一先ずこの場所から逃げなければいけない。そう思い睨むように塀を見てそこに足を向けると「待て」と声がした。
「お前、師範が連れてきた奴だろ。勝手に外に出るな」
「え、二階から下りてきたの?流石師範がべた褒めする訳だ」
「……っ!」
振り返って息を飲む。
見たことがある子供だった。子どもであろうと、その面影があった。
燃えるような赤い髪に橙色の瞳。木刀を手にしておりじろっと俺を睨むようにしてこちらを見据えている。
ひゅっと喉が鳴る。体が震えてきた。
落ち着け。落ち着け……。
ふーと息を吐いて浅くなる呼吸を静める。
もう一人は見たことがない。茶髪の男で緑の瞳の子供だ。二人とも木刀を持っており、打ち合いでもしていたのか白い上着と紺色の袴を着用している。
師範と言っているから弟子とか?ここはどこかの道場のようだ。
この男にも誰かに教わるという時期があったのか、いや当たり前なのだけれど。
「いえ、迷惑をかけるわけには……」
「いや、子供がどこに行こうっていうの?家にでも帰るなら別に構わないけどさー」
「……これだから天才って奴は……」
彼が、いや彼らが近づいてくる。
ひっと声が漏れそうになって唇を噛んだ。
大丈夫大丈夫大丈夫だい……。
「ぁ……」
「え?」
「う、うそ!」
吐血した。勢いよく咳き込んでしまって彼らの白い服に血が飛び散る。さーっと血液が下がっていく感覚がして地面に額をこすりつけるようにして頭を下げた。
「申し訳ございません!!御召し物を汚してしまい申し訳ありません!!申し訳ありません!!」
げほごほっと咳き込んで地面が赤色になる。話をするたびに体中がきしんで痛い。
でも謝らなければいけない。
怖くて体が震える。前までは平気だったのに。どうしてか恐怖が体を支配して思うように動かない。
「申し訳ありません、申し訳ございません!!」
「こんなの大したことないから!また血吐いちゃってるよ!?」
「謝らなくていい!もっと容体が悪くなるだろ!」
「しちゃいじめうなーーーーーっ!!」
久遠の声が聞こえた。
酸欠で頭がぼんやりとして来た。胸が痛くなってきて地面に倒れこむように心臓を抑える。
それでも謝罪の言葉を止めるわけにはいかなかった。
「ぁ、う、も、うしわ、け……」
「はーれて!しちゃいじめう!うぃちゃ、うぁちゃ!!」
「「承知致しました」」
男女の声が聞こえた。それと同時に俺の身体が浮く。俺の体を抱いたのは灰色で切り口を揃えられた髪の男性だ。彼に大丈夫だと伝えるために軽く肩を叩こうとしてそっと誰かの手が目元に置かれた。
「おやすみなさいませ」
女性の声だ。
急速に眠気が襲ってきて俺は簡単に夢の世界に落ちた。
51
お気に入りに追加
3,626
あなたにおすすめの小説
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました
織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで
深凪雪花
BL
候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。
即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。
しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……?
※★は性描写ありです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる