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「そこで何してるの?」
「! 理央様!!」
弟の声だ。ずるっとまた滑って下まで落ちて顔をあげるとひょっこりと井戸をのぞき込む弟と目が合った。
「どうしたの兄さま!落ちちゃったの!?大丈夫?」
「はい、我々ではどうすることも出来ず……」
「そうなんですよ。間抜けにも落ちてしまいまして助けられないんです」
白々しく男たちがそう言った。
俺は黙ってそれを聞きながら登ろうとして掴んだそこがいきなり盛り上がって一直線に反対の壁までついた。その間に左手が挟まれて悲鳴を上げる。
「あ!兄さまごめんなさい!足場を作ってあげようとしたんですけど制御が難しくて……」
「流石理央様!お優しい!」
「流石理央様!素晴らしい発想ですね!」
はっはっとあまりの痛みに呼吸が乱れる。それをどうにか落ち着けようと深呼吸を繰り返すと勢いよくその弟が言う足場は戻った。骨が砕けたようで力は入らず、暗くて見えないがきっとすごい色になっているだろうと予想できる。
じっと上を見上げると男たちがこう言ってくる。
「何ですか生意気な」
「理央様がご好意で助けてくださっているというのに」
「僕なら大丈夫だよ!だって仕方ないもの……僕は、兄さまと仲良くなりたいけど……」
「理央様……」
理央がそう言った。彼らの表情は見えないが、声から大体予想できる。俺はそれを黙って聞いていると俺の頬を殴るようにして足場が出現した。
「兄さま!その足場に乗って?」
彼の指示に従い片手でそれを掴んでどうにか乗ると階段のようなものが作られる。それに恐る恐る乗りながら少しずつ上がっていく。
こんなあっさりと弟が俺を助けてくれるはずがない。きっと何か……。
その瞬間、足場が無くなった。
「あ、危ないっ!!」
「……っ!!」
危ないといった弟が俺の身体を壁で押しつぶすように動かす。みしみしと全身から骨がきしむ音がして悲鳴をあげることも出来ずに必死に痛みに耐える。
「ど、どうしよう!ま、まずはこれを緩めて……」
「理央様、大丈夫です落ち着いてください!」
「そうです、とっさの判断で落ちずに済んだのですから!」
そんな事を言っている二人は次に俺に向かって厳しい声を出す。
「お前!理央様がここまで助けてくださったんだ!!自分であがって来い!!」
「そうだ!早く上がって来い!そもそもお前が落ちたのが悪いんだから!」
「に、兄さまごめんなさい。上がってこれますか……?」
げほっと血を吐いて弟の法術によって近づいた壁が少し離れる。俺は痛みに耐えながらどうにか井戸の外に身体を投げ出した。地面に転がると弟が近づいて俺の身体に無遠慮に触れる。
「兄さま大丈夫ですか!?」
「い……っ!」
痛みに思わずその手を払うと弟が尻もちをついた。
「きゃっ!」
「理央様になんてことをっ!!」
すぐに近くにいた男が俺を取り押さえる。呼吸をするのもやっとで体中が痛いぐうううっと唇を噛んで耐えると弟が泣き出した。
「う、うえええん!兄さまがぁ……っ!」
「理央様!此方に危ないですから!!」
弟の泣き声に屋敷が騒がしくなる。父と、今回は母も起きたようで弟が「お母様―!!」と泣きついている。
「理央!どうしたの!?もう大丈夫よ。母と父が守ってあげますからね?」
「ふえ、ええん!お母様お父さまぁ!」
母が弟を抱きしめて俺をじろっと忌々し気に睨みつける。その視線に慣れているはずなのに、どういうわけかずきりと胸が痛む。
「一体何事だ!」
「これが井戸に落ちて理央様が助けてくれたにも関わらず理央様をこの汚い手で殴ったのです!」
「何だと!?」
「なんてことを、なんてことを……っ!」
父が怒った声を出し、母が絶句して弟の傷を見てぎゅうっと抱きしめる。その胸に顔を埋めながらぐずぐずと泣いている弟。
どうしたって俺は悪者で、そういう流れは全く変わらない。そもそも既に、俺が久遠に会ったことで流れは変わっているのだ。だからと言って会ったことに後悔はしていない。一月しか経っていないのに遠い思い出に感じる。
どんな声で呼ばれていたかな、なんて久遠の事を思い出していると父が冷たい声を出した。
「その汚い手を落とせ」
「はっ!」
―――ああ、とうとうそこまできたか。
前は一度もなかったが、そういう命令も出ると思っていた。いつか。前は運が良かったのだ。今回はもうその運を久遠に使ったから仕方ない。
片手だけでも刀を扱えればいいや。じゃああの大太刀は使えないな。もうなくなってしまったから丁度いい。
がっと俺の右手を地面に押さえつけて他の男が薪を割るための斧を構える。一発で斬れることはないだろうから何度も何度も斬られるだろうなと思いながら目をつぶる。自分でやるならまだしも流石に自分の手を他人が斬り落とす様子を見るのは無理だ。
「ごめんくださーい!」
不意に聞いたことがある声が聞こえた。来るであろう衝撃は無く目を開けるとぴたりと動きを止めている。それから父に使用人が耳打ちをした。それからさっと顔色を変える。
「旦那様?いかがなさいますか?」
「それはいい!外に捨てろ!」
「は?よ、よろしいので?」
「それよりも大事なお客様が来たのだ!いいから早く捨てろ!!」
指示の通りに俺を掴んで裏門から投げられた。受け身も取れずに反対側の塀に体が打ち付けられる。それだけの衝撃で血を吐いた。
「命拾いしたな!」
そんな言葉が投げられたが意識が朦朧としてきて答えられない。しかし、ここで倒れてたらまずい。だから俺は痛む身体を引きずりながら歩く。
今回はいつも以上に当たりが強かったな。
当てもなくふらふらと歩く。今の状態で都の外に行けば死んでしまうだろう。それは望んでいないことなのでどこで体を休めようかと塀に持たれながら歩く。
「ぅ、げほっ!!」
また血を吐いてしまった。眩暈がして目の前が真っ暗になり倒れこんだ。
少し、だけ―――。
そう思ってゆっくりと目を閉じる。
起きたらちゃんと違う場所に移動しようとそう思いながら俺は意識を手放した。
「! 理央様!!」
弟の声だ。ずるっとまた滑って下まで落ちて顔をあげるとひょっこりと井戸をのぞき込む弟と目が合った。
「どうしたの兄さま!落ちちゃったの!?大丈夫?」
「はい、我々ではどうすることも出来ず……」
「そうなんですよ。間抜けにも落ちてしまいまして助けられないんです」
白々しく男たちがそう言った。
俺は黙ってそれを聞きながら登ろうとして掴んだそこがいきなり盛り上がって一直線に反対の壁までついた。その間に左手が挟まれて悲鳴を上げる。
「あ!兄さまごめんなさい!足場を作ってあげようとしたんですけど制御が難しくて……」
「流石理央様!お優しい!」
「流石理央様!素晴らしい発想ですね!」
はっはっとあまりの痛みに呼吸が乱れる。それをどうにか落ち着けようと深呼吸を繰り返すと勢いよくその弟が言う足場は戻った。骨が砕けたようで力は入らず、暗くて見えないがきっとすごい色になっているだろうと予想できる。
じっと上を見上げると男たちがこう言ってくる。
「何ですか生意気な」
「理央様がご好意で助けてくださっているというのに」
「僕なら大丈夫だよ!だって仕方ないもの……僕は、兄さまと仲良くなりたいけど……」
「理央様……」
理央がそう言った。彼らの表情は見えないが、声から大体予想できる。俺はそれを黙って聞いていると俺の頬を殴るようにして足場が出現した。
「兄さま!その足場に乗って?」
彼の指示に従い片手でそれを掴んでどうにか乗ると階段のようなものが作られる。それに恐る恐る乗りながら少しずつ上がっていく。
こんなあっさりと弟が俺を助けてくれるはずがない。きっと何か……。
その瞬間、足場が無くなった。
「あ、危ないっ!!」
「……っ!!」
危ないといった弟が俺の身体を壁で押しつぶすように動かす。みしみしと全身から骨がきしむ音がして悲鳴をあげることも出来ずに必死に痛みに耐える。
「ど、どうしよう!ま、まずはこれを緩めて……」
「理央様、大丈夫です落ち着いてください!」
「そうです、とっさの判断で落ちずに済んだのですから!」
そんな事を言っている二人は次に俺に向かって厳しい声を出す。
「お前!理央様がここまで助けてくださったんだ!!自分であがって来い!!」
「そうだ!早く上がって来い!そもそもお前が落ちたのが悪いんだから!」
「に、兄さまごめんなさい。上がってこれますか……?」
げほっと血を吐いて弟の法術によって近づいた壁が少し離れる。俺は痛みに耐えながらどうにか井戸の外に身体を投げ出した。地面に転がると弟が近づいて俺の身体に無遠慮に触れる。
「兄さま大丈夫ですか!?」
「い……っ!」
痛みに思わずその手を払うと弟が尻もちをついた。
「きゃっ!」
「理央様になんてことをっ!!」
すぐに近くにいた男が俺を取り押さえる。呼吸をするのもやっとで体中が痛いぐうううっと唇を噛んで耐えると弟が泣き出した。
「う、うえええん!兄さまがぁ……っ!」
「理央様!此方に危ないですから!!」
弟の泣き声に屋敷が騒がしくなる。父と、今回は母も起きたようで弟が「お母様―!!」と泣きついている。
「理央!どうしたの!?もう大丈夫よ。母と父が守ってあげますからね?」
「ふえ、ええん!お母様お父さまぁ!」
母が弟を抱きしめて俺をじろっと忌々し気に睨みつける。その視線に慣れているはずなのに、どういうわけかずきりと胸が痛む。
「一体何事だ!」
「これが井戸に落ちて理央様が助けてくれたにも関わらず理央様をこの汚い手で殴ったのです!」
「何だと!?」
「なんてことを、なんてことを……っ!」
父が怒った声を出し、母が絶句して弟の傷を見てぎゅうっと抱きしめる。その胸に顔を埋めながらぐずぐずと泣いている弟。
どうしたって俺は悪者で、そういう流れは全く変わらない。そもそも既に、俺が久遠に会ったことで流れは変わっているのだ。だからと言って会ったことに後悔はしていない。一月しか経っていないのに遠い思い出に感じる。
どんな声で呼ばれていたかな、なんて久遠の事を思い出していると父が冷たい声を出した。
「その汚い手を落とせ」
「はっ!」
―――ああ、とうとうそこまできたか。
前は一度もなかったが、そういう命令も出ると思っていた。いつか。前は運が良かったのだ。今回はもうその運を久遠に使ったから仕方ない。
片手だけでも刀を扱えればいいや。じゃああの大太刀は使えないな。もうなくなってしまったから丁度いい。
がっと俺の右手を地面に押さえつけて他の男が薪を割るための斧を構える。一発で斬れることはないだろうから何度も何度も斬られるだろうなと思いながら目をつぶる。自分でやるならまだしも流石に自分の手を他人が斬り落とす様子を見るのは無理だ。
「ごめんくださーい!」
不意に聞いたことがある声が聞こえた。来るであろう衝撃は無く目を開けるとぴたりと動きを止めている。それから父に使用人が耳打ちをした。それからさっと顔色を変える。
「旦那様?いかがなさいますか?」
「それはいい!外に捨てろ!」
「は?よ、よろしいので?」
「それよりも大事なお客様が来たのだ!いいから早く捨てろ!!」
指示の通りに俺を掴んで裏門から投げられた。受け身も取れずに反対側の塀に体が打ち付けられる。それだけの衝撃で血を吐いた。
「命拾いしたな!」
そんな言葉が投げられたが意識が朦朧としてきて答えられない。しかし、ここで倒れてたらまずい。だから俺は痛む身体を引きずりながら歩く。
今回はいつも以上に当たりが強かったな。
当てもなくふらふらと歩く。今の状態で都の外に行けば死んでしまうだろう。それは望んでいないことなのでどこで体を休めようかと塀に持たれながら歩く。
「ぅ、げほっ!!」
また血を吐いてしまった。眩暈がして目の前が真っ暗になり倒れこんだ。
少し、だけ―――。
そう思ってゆっくりと目を閉じる。
起きたらちゃんと違う場所に移動しようとそう思いながら俺は意識を手放した。
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