【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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九郎を下敷きにするわけにはいかない!そう思って空中で体を動かそうとするが九郎が俺を強く抱きしめる。動けずに、その勢いのまま何かにぶつかり九郎を下敷きに地面に転がった。



「九郎!!」

「う……」



俺を庇うようにして地面に直撃した九郎。直前で彼の法術なのか勢いが落ちていたとはいえかなりの速度で吹っ飛ばされたのに変わりはない。



九郎は頭を抑えながら起き上がる。先ほどの様になったらと一瞬身構えるが彼は頭を振って唸るだけだ。



「九郎……?」

「大丈夫だ、悪りぃ。くそ、頭の中ぶんぶんうるせえ……」



九郎はそう言って頭を振っていた。じっと彼の様子を伺い、何かが彼の周りを飛んでいることに気づく。

確かな姿は捉えることができない。もしや、そういう妖魔なのかもしれない。



「九郎、動かないでね」

「は? え、ちょ、まっ!?」



大きく、持っていた刀を構えて即座に振るう。九郎が動揺したような声をあげるが、彼が動く前に何かを斬った感触を覚える。それと同時に「あれ?」と九郎が首を傾げた。



「音が聞こえなくなった……」

「よかった。見えない何かが九郎についてたみたい」

「助かった」

「ううん大丈夫。さっき庇ってくれたから御相子だよ。それより早く戻らないと」



いやな予感がする。

大概こういうのはよく当たる。

もしかしたら、あの時久遠が一人でここら辺を彷徨っていた大きな元凶はあの蜂かもしれない。



そう考えると……ああ!

いやな想像をして慌てて頭を振る。

少しでも流れを変えるためにも今、俺はあそこに戻らなければならない!!

俺は屋敷の方に向かおうとした。しかし、九郎に止められてしまう。



「助けを呼ぶ方が先だ!」

「それじゃあ間に合わない!!」



その行動がいかに正しいかなんてよく分かっている。

しかし、間に合わなかったからああなったのだ。焼け落ちた屋敷、嫌な臭いに人のような形の黒い塊。

そんな未来、到底許せるものではない。



「九郎お願い!!俺を連れて行って!!」



俺が走るより、九郎の式神で飛んだ方が断然早い。

今の俺には到底彼が納得できる説明をできない。だからこんな情で訴える事しか俺には―――。



「分かった!乗れ!」

「え……?」



九郎は拍子抜けするほどあっさりと頷いてくれた。すぐさま鳥の式神を出して乗り、俺に向かって手を伸ばす。



「ほら早く!飛ばすから俺にちゃんと掴まれよ!」

「……っ! うん!」



ぎゅっと九郎の手を掴むと引っ張り上げられ、彼の背中に抱き着いた。自分よりも一回りも二回りも大きい背中。これほど頼もしいと思ったことはない。

彼は宣言通りにすごい勢いで風を切るように屋敷に向かう。思っていたよりも飛ばされていたようだったが屋敷が見えてきた。



「? なんだ、あの蜂かなりの高さまで飛んで……?」



九郎がそういった。同じように俺もその大きな蜂を見て悲鳴を上げるように叫んだ。



「沙織さんが!!」

「え!?」

「足!あいつの足に沙織さんが捕まってる!!」



連れ去る、にしては一気に上まで飛んでいく。最悪の事態が頭をよぎってさーっと血の気が引いた。

まさか、まさかまさか!!

九郎も同じことを考えたのだろう。先ほどよりも速度を上げてそちらに向かう。

大きな蜂がこちらに頭をもたげてその大きな目を見せた。気のせいか、彼の口が嘲笑うかのように歪んだ。



そして次の瞬間、沙織さんが空に投げ出される。



「嘘だろ!!」



九郎がそう叫んだ。支えを無くした沙織さんの身体が落下していく。この速度であっても間に合うか分からない!!

ふと、昼間の晴臣さんとやった訓練を思い出した。かなりの速度で体が上空に飛んでいたあれだ。



「九郎!!飛ばして!!」

「はあっ!? って、馬鹿野郎!!」



九郎と乗っていた式神を蹴っ飛ばすようにして前に出る。九郎が急に前に躍り出た俺に驚きの声をあげつつも俺を思いっきり法術で押し出すように飛ばす。風の抵抗が強く、身体を叩きつけるようなそれに意識を持っていかれそうになる。



しかし、一瞬でも気を抜けば沙織さんが死ぬ!



久遠が連れて来た怪しい子供なのに何も聞かずにいてくれた人で、俺とお揃いが出来て嬉しいなんて言ってくれた人。

久遠の大事な家族を、絶対に死なせるわけにはいかない。



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