41 / 208
襲来
しおりを挟む
今日もいい天気である。
珍しく朝に久臣さんがいたと思えば、暫く遠くの方に行くから帰れないという事を伝えたかったらしい。
暫く帰れない……。不安だ。燕さんが言っていた盗賊についてなにか新しい情報でも入ったからその調査にでも派遣されたのかもしれない。
未だに彼らがどんな家門であるのかわからないが、少なくとも七宝の中の分家というあたりはついている。あまり分家とも関わりを持ったことがないので具体的にどこの派閥かと言われてもわからないけれど、一般市民ではないだろう。
久臣さんがいない以上俺がしっかりこの屋敷を守らなければ。不安は尽きないが、やらなければならない。
久遠を一人にさせるような未来は絶対に回避する。
「しちゃしちゃ!!」
「どうしたのくーちゃん」
たまには静かに遊んだらいかがですか?と晴臣さんが引っ張ってきた囲碁で九郎と遊んでいると久遠がバタバタと走ってこちらにやってきた。
久遠は何やら晴臣さんと予定があったようで珍しく彼と二人で外に行っていた。だから九郎と遊んでいたのだが、その用事は終わったらしい。
どうしたのだろうと九郎と一緒にそちらを見ているとずいっと目の前に桜がついた枝が現れた。
「こえ!!」
「あ。桜?」
「う!はるちゃがとってくれたの!!あげう!」
「ありがとう」
枝ごと折って渡されるなんて思わなかったがにこにこ笑顔の久遠にそんな水を差すような事はいわない。
それを受け取ってどこに置こうかなと思っているとすぐに誰かがそれを受け取って預かっておきますとどこかに行った。
ふと、碁盤を見ると白蛇様が俺の黒の碁石を咥えてパチンパチンと動かしている。いつの間にか、俺の代わりに九郎と遊んでいたようだ。九郎は、白蛇様の碁石を見てむうっと唸る。
「そうくるかー。じゃあここ」
パチン。
「げ、やられた。今度はここだ!」
白蛇様はぶんぶんとご機嫌に尻尾を振って楽しんでいる。それを横目に、久遠が素早く俺の横に陣取ったのを見てそちらを向いた。先ほどの出来事を教えようと一生懸命口を動かしてくれる。だから俺は彼の話を聞く体勢に入ったのだ。
「きょおね、あ、の……」
「!? おい大丈夫か白蛇!!」
しかし、彼の言葉はそこで途切れた。表情が抜け落ちたような顔になりその変貌に驚くと同時に九郎の声に白蛇様をみた。白蛇様は咳き込みながら血を吐いている。慌てて彼の体をさすって状態を確認したかったが、次の瞬間久遠の悲鳴が上がった。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
「!? くーちゃんどうし……っ!」
「伏せろ!!」
九郎の声に久遠にかぶさるように体を伏せると何かが頭上をよぎった。ばきばきっと支柱を壊す音がしてぶうんぶうんっと羽虫の音がする。
はっと身を起こしてそちらを見ると蜂がいた。
一匹大きな蜂とそれを囲むように小さな蜂が飛んでいる。
見たことがない妖魔だ。
思わず呆然とそれを見ていると、小さな蜂が大群で移動しながらこちらに向かってくる。応戦しなければと、久遠を背後に刀を手にするとその前に晴臣さんが入って風を起こす。
その風は壁になって向かってくる蜂を抑え、そして切り刻む。
突風に飛ばされないように白蛇様を懐に入れて晴臣さんを呼んだ。
「晴臣さん!!」
「若を連れて逃げてください!!」
「―――っ!」
俺も応戦した方がいいとか考えるよりも先に久遠の安全確保が大事だ。
彼の指示に従いすぐに久遠の手を引いてこの場を離れようとしたら隣にいた九郎が苦しみだした。
「九郎!?」
「あ、あがああああっ!!!!」
「っ!?」
「しちゃ!!!」
九郎が俺に掴みかかってきた。恐ろしい握力で俺の腕を掴んだと思えば引きずられ諸共、庭に転がり込んでしまう。抵抗しようにもものすごい力で抑えきれない。
ここは気絶させるしか……っ!!
そう思って思いっきり殴ろうとしたが、ふと大きな影が差す。
其方を見ると大きな蜂がこちらに飛んできて羽を動かす。強い突風にふわりと体が浮くと同時に九郎諸共勢いよく飛ばされた。
珍しく朝に久臣さんがいたと思えば、暫く遠くの方に行くから帰れないという事を伝えたかったらしい。
暫く帰れない……。不安だ。燕さんが言っていた盗賊についてなにか新しい情報でも入ったからその調査にでも派遣されたのかもしれない。
未だに彼らがどんな家門であるのかわからないが、少なくとも七宝の中の分家というあたりはついている。あまり分家とも関わりを持ったことがないので具体的にどこの派閥かと言われてもわからないけれど、一般市民ではないだろう。
久臣さんがいない以上俺がしっかりこの屋敷を守らなければ。不安は尽きないが、やらなければならない。
久遠を一人にさせるような未来は絶対に回避する。
「しちゃしちゃ!!」
「どうしたのくーちゃん」
たまには静かに遊んだらいかがですか?と晴臣さんが引っ張ってきた囲碁で九郎と遊んでいると久遠がバタバタと走ってこちらにやってきた。
久遠は何やら晴臣さんと予定があったようで珍しく彼と二人で外に行っていた。だから九郎と遊んでいたのだが、その用事は終わったらしい。
どうしたのだろうと九郎と一緒にそちらを見ているとずいっと目の前に桜がついた枝が現れた。
「こえ!!」
「あ。桜?」
「う!はるちゃがとってくれたの!!あげう!」
「ありがとう」
枝ごと折って渡されるなんて思わなかったがにこにこ笑顔の久遠にそんな水を差すような事はいわない。
それを受け取ってどこに置こうかなと思っているとすぐに誰かがそれを受け取って預かっておきますとどこかに行った。
ふと、碁盤を見ると白蛇様が俺の黒の碁石を咥えてパチンパチンと動かしている。いつの間にか、俺の代わりに九郎と遊んでいたようだ。九郎は、白蛇様の碁石を見てむうっと唸る。
「そうくるかー。じゃあここ」
パチン。
「げ、やられた。今度はここだ!」
白蛇様はぶんぶんとご機嫌に尻尾を振って楽しんでいる。それを横目に、久遠が素早く俺の横に陣取ったのを見てそちらを向いた。先ほどの出来事を教えようと一生懸命口を動かしてくれる。だから俺は彼の話を聞く体勢に入ったのだ。
「きょおね、あ、の……」
「!? おい大丈夫か白蛇!!」
しかし、彼の言葉はそこで途切れた。表情が抜け落ちたような顔になりその変貌に驚くと同時に九郎の声に白蛇様をみた。白蛇様は咳き込みながら血を吐いている。慌てて彼の体をさすって状態を確認したかったが、次の瞬間久遠の悲鳴が上がった。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
「!? くーちゃんどうし……っ!」
「伏せろ!!」
九郎の声に久遠にかぶさるように体を伏せると何かが頭上をよぎった。ばきばきっと支柱を壊す音がしてぶうんぶうんっと羽虫の音がする。
はっと身を起こしてそちらを見ると蜂がいた。
一匹大きな蜂とそれを囲むように小さな蜂が飛んでいる。
見たことがない妖魔だ。
思わず呆然とそれを見ていると、小さな蜂が大群で移動しながらこちらに向かってくる。応戦しなければと、久遠を背後に刀を手にするとその前に晴臣さんが入って風を起こす。
その風は壁になって向かってくる蜂を抑え、そして切り刻む。
突風に飛ばされないように白蛇様を懐に入れて晴臣さんを呼んだ。
「晴臣さん!!」
「若を連れて逃げてください!!」
「―――っ!」
俺も応戦した方がいいとか考えるよりも先に久遠の安全確保が大事だ。
彼の指示に従いすぐに久遠の手を引いてこの場を離れようとしたら隣にいた九郎が苦しみだした。
「九郎!?」
「あ、あがああああっ!!!!」
「っ!?」
「しちゃ!!!」
九郎が俺に掴みかかってきた。恐ろしい握力で俺の腕を掴んだと思えば引きずられ諸共、庭に転がり込んでしまう。抵抗しようにもものすごい力で抑えきれない。
ここは気絶させるしか……っ!!
そう思って思いっきり殴ろうとしたが、ふと大きな影が差す。
其方を見ると大きな蜂がこちらに飛んできて羽を動かす。強い突風にふわりと体が浮くと同時に九郎諸共勢いよく飛ばされた。
24
お気に入りに追加
3,581
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
純情Ωの願いごと
豆ちよこ
BL
オレの幼なじみは銀河一可愛い!
オメガの松永理央の世界の中心は幼なじみの久住七央。同じオメガでも七央は別格。可愛くて可憐で儚げで…。オレが守ってあげなくちゃ!彼の幸せの為ならどんな事も頑張れる。そんな理央の前に、あるパーティで七央に一目惚れしたアルファが現れた。アルファ御三家の一つ、九条家の三男、流星だ。この人ならきっと七央を幸せにしてくれる。そう思い二人を応援しようとするのだが、どうにも上手くいかなくて。おまけに何だかもやもやもする。七央の幸せを願ってるはずなのに、日増しにもやもやは募るばかりで……。
▷▷▷▷▷▷▷▷▷
自己解釈&自己設定盛り込みまくりのオメガバースです。
全年齢考慮の健全なオメガバースをコンセプトに創作しました。エロ無しオメガバ……難しかった。
【完結】無自覚最強の僕は異世界でテンプレに憧れる
いな@
ファンタジー
前世では生まれてからずっと死ぬまで病室から出れなかった少年は、神様の目に留まりました。
神様に、【健康】 のスキルを貰い、男爵家の三男として生まれます。
主人公のライは、赤ちゃんですから何もする事、出来る事が無かったのですが、魔法が使いたくて、イメージだけで魔力をぐるぐる回して数か月、魔力が見える様になり、ついには攻撃?魔法が使える様になりました。
でもまあ動けませんから、暇があったらぐるぐるしていたのですが、知らない内に凄い『古代魔法使い』になったようです。
若くして、家を出て冒険者になり、特にやることもなく、勝手気儘に旅をするそうですが、どこに行ってもトラブル発生。
ごたごたしますが、可愛い女の子とも婚約できましたので順風満帆、仲間になったテラとムルムルを肩に乗せて、今日も健康だけを頼りにほのぼの旅を続けます。
注)『無自覚』トラブルメーカーでもあります。
【★表紙イラストはnovelAIで作成しており、著作権は作者に帰属しています★】
年下男子は手強い
凪玖海くみ
BL
長年同じ仕事を続けてきた安藤啓介は、どこか心にぽっかりと穴が開いたような日々を過ごしていた。
そんなある日、職場の近くにある小さなパン屋『高槻ベーカリー』で出会った年下の青年・高槻直人。
直人のまっすぐな情熱と夢に触れるうちに、啓介は自分の心が揺れ動くのを感じる。
「君の力になりたい――」
些細なきっかけから始まった関係は、やがて2人の人生を大きく変える道へとつながっていく。
小さなパン屋を舞台に繰り広げられる、成長と絆の物語。2人が見つける“未来”の先には何が待っているのか――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる